思い出のピース
放課後の部室。僕達三人は机を寄せ合って、大きな平面のジグソーパズルを組み立てていた。
授業を終えて部室に来た時、部長がどうやって持ち込んだのか大きなパズルの箱を見せてきた。
「優君、私と正子は今日中にこれを組み立てようと思うんだけど、貴方も手伝ってくれるわよね?」
戸惑う僕に、部長は笑顔でそう告げる。課題も無くぼんやりと部室に来ただけの僕に、断る理由は無かった。
僕達は頭を突きつけ合って、思い思いにパズルのピースを繋ぎ合わせていく。
「そう言えば、このパズルって最終的にどうなるんですか?パッケージには、何も書かれていませんでしたけど……。」
手元に目を向けると、僕の周りにあるピースは単一色ばかり。赤、青、緑、そのどれもが淡く優しい色合いを醸し出している。
部長は僕の言葉に対して、不敵な笑みを浮かべる。
「それは出来てからのお楽しみよ。」
そう言われてしまうと、これ以上詮索するの何か違う。結果はパズルが完成すれば分かる事だ。
頭を抱えながら単色のピースを繋ぎ合わせる僕に、先輩が話し掛けてきた。
「そう言えば、来月に体育祭があるだろう?私達のクラスは今日種目決めがあったんだが、キミの方はどうだったかな?」
「僕達のクラスでもありましたよ、種目決め。一応、二百メートル走に出させて頂きますよ。しかし、どんなに運動が苦手な人でも一種目は出ないといけないと言うのが……。仕方がないのでしょうが、ねぇ……。」
「あら優君、ひょっとして運動が苦手なのかしら?」
部長はそう言って、僕の顔を覗き込んで来る。わざわざ隠しておく意味も無いので、僕は正直に白状することにした。
「苦手なんですよね……運動。運動神経が悪いと言いますか、センスがないと言いますか……。走れば転ぶし飛び跳ねれば足を捻る。球技なんてもってのほかですよ。」
「それは、何と言うか……。」
「心底同情するよ。」
二人とも憐みの視線を向けてくる。
何となく悲しくなってしまい、顔を上げて天井を仰ぐ。大した思い出も無いのだが、スポーツなどの思い出に碌なものが無かった。足が遅くて笑いものになるならまだ良い。こういう行事ごとで周囲の足を引っ張ってしまうと言う事実が、僕を憂鬱にさせるのだ。
落ち込んでいても足が早くなるわけではない。僕は大きな溜息を吐き、気持ちを切り替える。
「二年生も種目決めがあったんですよね?お二人は、何の協議に出るんですか?」
「私も旭も、百メートル走だけだよ。一番最初の種目だから、すぐに終わるよ。」
「僕がでる二百メートルはその次なので、全員午前中で終わりますね。」
午後一番に全校生徒参加の応援団の催しがあるらしいので、それが終わってしまえば閉会式まで手が空くらしい。
「せっかくだし、競技が終わったらみんなで集まらない?体育祭の中親しい人で集まるのも青春だと思うの。」
「僕は構いませんよ。どうせ、応援くらいしかやることも無いので。」
「私も構わないよ。集合場所は、また後日検討しようか。」
そう言う訳で、憂鬱でしかなかった体育祭が少しだけ楽しみなものになった。
話し終えた頃、組み立てていたパズルも一区切りと言った感じだった。長方形の枠に対して、三方向から角を埋めていくと、単色だった一つひとつピースが繋がり合うことで少しずつ目的の形を作り上げていく。
「うん、これって部室ですか?」
パズルのピースが三割ほど埋まった辺りで、僕は口を開いた。
中心はまだ空いているが、その周りはある程度埋まっている。見たところ。見覚えのある木造の壁と大きな黒板が映っている。他の教室も似た様なものだが、そんなものをわざわざパズルにして持ってくるとは思えない。
「ふふ、流石鋭いわね。」
「いえ、それ程でも……。」
大した推測でも無かったが、部長に褒められて頬が緩むのを感じる。
だらしない顔をしている僕を一瞥し、部長は口を開いた。
「ご明察よ。これは私達の部室の光景をパズルにしたもの。世界にたったひとつしかない、オーダーメイドの代物よ。」
自慢げに話す先輩に、僕は質問を投げ掛ける。
「簡単そうに言っていますが、パズルを作るのってお金も時間も掛かるんじゃないですか?学校がお金を脱してくれるとも思いませんし……。」
「ふふ、それは正子のお陰よ。」
「正子先輩のお陰、ですか?」
首を傾げる僕に向かって、今度は先輩が口を開く。
「少し、コネクションがあってね。頼んでみたら快く引き受けてくれたと言う訳さ。」
「そうなんですね……。」
親しい先輩の人脈に感心しつつ、僕達は黙々とパズルを組み上げる。
最初はまっさらだった机の上に、どんどんと絵が形を作って行き一時間も経つ頃には残り数ピースというところまで来ていた。
「残りのピースは、それぞれ幾つかしら?私は二つだけど。」
「私はひとつだね。入れる場所は、もう理解しているよ。」
「僕ものこり一ピースです。真ん中の方にはめれば良いのかな……。」
そう話しつつ、僕達はそれぞれ適した場所にピースを当てはめていく。ピースは綺麗に嵌り、残るピースは部長が持つひとつだけになった。
部長は大きく深呼吸をして、僕達の顔を見回す。
「それじゃあ、私が最後のピースをはめるわね。」
「うん、良いよ。」
「異論はありません。」
僕達は頷き合い、部長がパズルを完成させる瞬間を見届ける。
完成したのは、僕達の集合写真。一学期の終盤に撮ったものを、パズルにしたようだ。
「良いパズルですね。」
「そうでしょう?遊興同好会の初代メンバーだからね。写真とはまた違う形で残しておきたかったのよ。」
そう話す部長の眼差しは、完成したパズルを優しくとらえていた。




