遊興同好会夏合宿 そのよん
遊んでいる内に夜になり、僕達は拝殿近くにある青嵐さんの家にお邪魔した。青嵐さんは夕食とお風呂を用意してくれており、僕達はその厚意に甘える事にした。
風呂にはまず部長と正子先輩が入り、その次に白亜ちゃん、僕が入り最後に青嵐さんの順番で入ることになった。
「せっかく来てもろうたけん、湯船に浸かってゆっくうしてくんなさいね。」
青嵐さんはそう言うと、食器を持って応接間を後にした。白亜ちゃんもその後に続き、僕達三人は青嵐家の応接間に取り残された。
「いやぁ、美味しかね。見た目は普通の肉じゃがなんだけど、甘辛い味付けでおかずにピッタリだったわ。」
「九州のお醤油は甘いらしいからね。思わず箸が進む味付けだったよ。」
二人は大きく息を吐きながら食事の感想を語り合う。彼女たちが言う通り、夕食に出された肉じゃがは筆舌に尽くし難い味わいだった。甘辛い味が染みついたジャガイモやニンジン玉ねぎに、柔らかく煮込まれた豚肉。思い出すだけで口の中によだれが溜まってくるようだ。
洗い物を手伝わせて欲しいと申し出たのだが、青嵐さんと白亜ちゃんに強く拒否された。お客様なのだからゆっくりしているようにと何度も言われて、僕達は頷くことしか出来なかった。
「それじゃあ、私と正子はお風呂を頂いてくるから……。早いところ行きましょう。」
「そうだね。優君、私と旭は少し離れるけど、良い子だから大人しく待っているんだよ。」
「僕は犬か何かですか。言われなくとも、大人しく待っていますよ。」
「覗いちゃあダメ、だゾ……。」
「誰が覗きますか。今のご時世、色々と危ないんだから……。」
ウィンクをする部長に冷たい視線を向けつつそう言って、持って来ていた本を開く。
二人はつまらなそうな顔をしつつ、応接間を出て行ってしまった。
その後、如何わしい展開も嬉しい展開もなく僕達は青嵐さんの家を後にした。因みに、同年代の異性が使った湯船に浸かるのは何かと良くない気がしたので、シャワーだけに留めておいた。
それは兎も角、湯上りで火照った身体のまま従業員用の休憩所に戻り布団を並べた。どうやら白亜ちゃんも今日はこの部屋で寝泊まりするようだ。
布団を横一列に並べ終えた後、部長がおもむろに立ち上がり口を開いた。
「さてと、それじゃあ始めましょうか。寝る場所を決める勝負をね。」
彼女の手には小さな将棋盤が握られていた。それを見て、正子先輩が首を傾げた。
「将棋か。今から四人でトーナメントでもするのかい?」
先輩の言葉に首を振りつつ、部長は続ける。
「今からトーナメントなんてしていたら、相当遅い時間になっちゃうわよ。だから今回は二対二のチーム戦をして、勝ったチームから好きな布団に入れると言うことで……。」
「良い試みですね。僕は賛成です。」
「ありがと。白亜ちゃんはどうかしら?」
「あ、はい。私も構いません……。」
急に話を振られた白亜ちゃんは、慌てて頷いた。
「ところで、チーム分けはどうする?」
「うーん、てきとうに学年で分けましょう。私と正子、優君と白亜ちゃんで別れてやりましょ。」
そう言う訳で、僕達は将棋盤を挟んで向かい合った。部長と先輩は並んで座り、白亜ちゃんは僕の後ろにぴったりとくっついている。
「先手は私達で良いかしら?」
「ええ、構いませんよ。早く始めましょう。」
こうして僕達は将棋を始めた。
数十分後、僕は外に出てひとり夜風を浴びていた。勝負の結果は惨敗であり、部長と先輩が先に布団を決める事になった。そこでもどちらが先に選ぶのかを賭けて再び将棋で戦いを始めたので、こうして抜け出してきた訳である。
夏とは言え、夜の風は涼しい。月の光に照らされた僕は、自分が随分と言い男の様に思えた。
「街よりも少しだけ標高が高いお陰か、多少は涼しいですよね。」
白亜ちゃんはそう言いつつ、振り返った僕に向かって笑い掛ける。
「あの、どうでしたか?この合宿は……。」
「どうって、すごく良かったよ。青嵐さんのお陰で快適に過ごせたし、良い夏の思い出になったよ。」
「そう……。それなら、良かったです。」
白亜ちゃんはいつの間にか僕の隣に立ち、空に浮かぶ月を眺めている。
月が綺麗ですね。そんな風景に対する感想も、別の意味合いを持ってしまうので口を紡ぐしかなかった。
「良い夜景だよね。街に居る時よりも、心なしか空が近く感じるよ。」
「またいつでも、お訪ねください。その、用事がなくても……。」
「うん、夏休みが終わっても、参拝に行くよ。」
会話が途切れ少し気まずくなったので、僕達は休憩所に戻ることにした。月明かりのお陰か、境内は青白い光がさしておりライトなど使う必要も無かった。
休憩所に戻ると、部長と正子先輩は既に布団に入っていた。
「おかえり、お二人さん。」
一番端の布団に入った正子先輩は僕達にそう声を掛ける。部長は毛布を頭からかぶり、沈黙している。
「旭はもう寝てしまったみたいだから、私達も寝てしまおう。」
「はい。」
僕はそう返し、白亜ちゃんと顔を見合わせる。
数秒間目を合わせた後、白亜ちゃんは何も言わずに部長の隣の布団に入る。僕はそれを見届けて、部屋の電気スイッチに手を伸ばす。
「電気、消しますよ。」
「うん、お願い。」
カチッという音と共に、休憩所は真っ暗闇に包まれる。
僕は記憶と足元の感覚を頼りに、先輩と逆端の布団に身体を入れた。疲れていたのか布団が良かったのか、僕の身体はすぐに深い眠りについた。




