遊興同好会夏合宿 そのに
夏合宿の為に、街外れの神社を訪れていた。ここで一日寝泊まりし、何か遊興同好会らしいことをやるのだそうだ。事前に伝えられていた持ち物は着替え一式くらいで、その他は各自自由に持ってこいとのことだった。
普段通り巫女装束に身を包んだ白亜ちゃんが先導し、僕達は従業員用の休憩室に案内された。休憩室は畳張りの広い和室で、小さな棚と襖の向こうには物置がある。
「どうぞ、楽になさってください。私、管理人を呼んできますので……。」
白亜ちゃんはそう言うと、和室の襖をピシャリとしまてしまった。
取り残された僕達は、部屋の隅の荷物を置きつぽつりぽつりと言葉を交わす。
「休憩室って言ったかしら。にしては、随分と立派なお部屋よね。」
「あぁ、全くだ。畳も新品そのものだし、芳香かな?柔らかな香りが心を落ち着かせるよ。」
部長と正子先輩が部屋を見回している中、僕は畳の上に無造作に腰を下ろした。
「あら優君。随分と慣れた様子じゃない。ここに来るのは何度目なのかしら……?」
「まだ二、三回くらいですよ。この前、散歩のついでに立ち寄った時に案内してもらったんですよ。」
「ほう……。つまり青嵐ちゃんは、キミを自分のテリトリーに招き入れたと……。なるほど。」
部長は真っ直ぐな瞳で僕を見つめ、正子先輩は怪しい瞳で僕を見降ろしている。
「変な言い方をしないでで下さい。僕はただ……白亜ちゃんと友達として、親交を深めただけで……。」
「ずっと思っていたんだけど、白亜ちゃんって呼び方も……ねぇ……。」
「そうだね。私や旭に対するよりも親し気だよね。」
二人は仁王立ちしたまま、畳の上に正座する僕を見降ろしていた。
「正子はまだ良いじゃない、名前で呼ばれているんだから。私なんて部長よ、部長。まったく、距離が遠いったらありゃしないわ……。」
部長は肩を竦めつつ、芝居がかった口調でそう話す。
「それはまぁ、仕方が無いよ。とは言え、たまには名前で呼んであげても良いんじゃないかな?優君。」
「そうですね……。だったら、合宿の間は旭部長って呼びますので、それで勘弁しては貰えませんか?」
僕の言葉に、部長は「うーん」とわざとらしく首を傾げる。
「無理矢理言わせたみたいで気は進まないけど……。まぁ良いわ。それで勘弁してあげる。」
悪いことをした自覚は無いのだが、部長から許しをえることが出来た直後、和室の襖が勢いよく開いた。
入口には、白亜ちゃんと着物に身を包んだ老爺が立っている。
「遊興同好会の皆さん、いらっしゃい。あたしはこの神社の管理人をしております、青嵐と申します。いやはや、ようきなさった。何も無い所ですが、まぁゆっくりして言って下さいな。」
老爺はそう言って頭を下げる。僕と初めて会った時と同様、丁寧な話し言葉だ。白亜ちゃんと話していた時の様な、少し訛りが入った話し方も好感が持てるが、今の話し方も老紳士と言う感じで親しみやすい。
僕は立ち上がり、部長と先輩の横に並ぶ。
「本日はお招き頂きありがとうございます。私、遊興同好会部長の七咲と申します。」
そこまで行った所で、老爺こと青嵐さんはひらひらと手を振った。
「まぁまぁ、固い挨拶はその辺で。一応引率と役を引き受けましたが、ずっと監視するつもりも何かを強要するつもりもありませんで、気楽に過ごして下さい。」
「そうですか、ありがとうございます。」
僕達は揃って頭を下げる。
休憩室で僕達遊興同好会の三人と、管理人の青嵐さんと巫女の白亜ちゃんは畳の上に円になって腰を下ろした。
「足、崩して楽にしてくださいな。」
青嵐さんの言葉で、正座していた僕達は楽な姿勢を取る。ひと息ついたところで、青嵐んが口を開く。
「初めに、この神社について説明させて貰ってよろしいですかな?」
「はい、お願いします。」
部長がそう返事を返すと、青嵐さんはゆっくりと話し始める。
「この神社は現在、セイラン様という神様を祀っているのですが……。元々この場所に神社なんて無かったんですよ。あたしの父の代に九州の半島からこの場所に移ってきて、神社を構えて神様を祀ったのです。」
青嵐さんが話し終えると、正子先輩が身を乗り出した。
「お父上がこの場所に来たのって、何か理由があったんですか?」
「ええ。あたしがまだ幼い時分、地元で伝染病が流行しましてね。誰が言い出したか分かりませんが、神社に祀られた神の祟りだと言う噂が広まった訳です。境内は荒らされ、毎日の様に苦情の手紙が届きまして……。あたしは当時十一歳、学校で嫌がらせを受けましてね、どうしたものかと一家全員途方に暮れていたのであります。
そんな折、あたしはとある夢を見ましてね。真っ白な空間にひとりの男性が立っているのですよ。秋月さん、丁度貴方の様な方でした。あたしが黙っていると、男性はこう言うのです。『お前、明日にでも引っ越せ。この街に来い。』次の日には両親に進言して、数日以内に引っ越しました。こうしてあたしたち一家はこの街にやって来たと言う訳です。
まぁ、急な引っ越しだったので良い立地を探す暇もなく、この様な辺鄙な場所になったのですがね……。」
話を終えた青嵐さんは、大きく深呼吸をしてゆっくりと立ち上がった。
「さてと……。話したい事も終わったので、あたしはこの辺りで失礼いたしますね。最後に、セイラン様は若い人の声を聞きたいでしょうから、どうかお参りしてやって下さい。」
それだけ言い残して、青嵐さんは部屋を後にした。




