夏の午後と空の話
夏の午後。午前中に部活を終えた僕は、午後から自室の机に着き窓の外を眺めて呆けていた。
課題は午前中にある程度進めているので、今焦ってやる必要も無い。かと言って何かやりたいことがある訳もない。要するに、暇を持て余している現状である。
三日もすれば、長期休みであることを嫌でも実感すると言う部長の言葉を思い出す。中学の頃は毎日の様に部活動に励み、練習と課題に忙殺されていた。なので夏休みなど時間が足りないくらいだったのだが、部活らしい部活に所属していないだけで時間間隔がこうも変わるとは……。
机の上に肘を置き、大きく欠伸をする。決して疲れや寝不足から来る欠伸ではなく、退屈の為に漫然と出てくる欠伸だ。欠伸を噛み殺し、肘を付いたまま目を閉じる。眠いわけではないが、何をしたものかも分からない。そんな時の逃避術だ。
机に肘を付き呆け始めて一時間程経過した頃。手元に置いていた携帯が小さく震えた。
『優、いつまでそうしているつもりですか?やることが無いのなら、課題をすることを推奨します。眠たいのであれば、横になることを推奨します。しかし、何もせずにただ呆けているのは感心しません。』
画面の向こうでは、青髪の美少女が不服そうな表情で僕を見上げている。
「あぁ、そうだね……。呆けるなら、夜寝る前に好きなだけやればいい。」
自分に言い聞かせるようにそう言って、僕は大きく身体を逸らす。
自称高性能アンドロイドのコールはそれを見て、画面の向こうで満足気に頷いている。
「さてと、そうは言ったものの何をしようかな……。」
呆けているのを止めただけで、具体的に何をするのかは一切考えていなかった。素直に課題に取り組めばいいのだろうが、今はそう言う気分ではない。
途方に暮れる僕に。コールはひとつ提案をする。
『退屈でしたら、何かお話をしましょうか。私は高性能アンドロイドですので、無益な話から有益な話まで話題には尽きません。』
確かに、プログラム上の存在であるコールならば、どんな話題に対しても瞬時に反応して、適切な回答を出力することが出来るだろう。それに彼女はデータを表示するだけの無機質な機械ではない。少なくとも、退屈することは無いだろう。
特別他にやりたい事もなかったので、僕は彼女の提案に頷いた。
「それじゃあ、夕方頃まで話をしよう。」
『夕方頃……。午後五時にアラームを設定しておきます。』
「うん、ありがとう。何の話をしようかな……。」
少し考えて、てきとうな話題を提示する。人間ではないが、今更気を遣う様な相手でもない。
「ここ数日、ずっと晴れている所為で登下校がしんどいんだよね。いやまあ、空が晴れているのは良いことなんだけどさ。今日キャンプに行く人たちもいるかもしれないし。」
『ワタシは画面上の存在なので、夏の暑さなど共感することは出来ませんが、明日は雨が降る予報です。明後日は再び晴れますので、蒸し暑さから気温以上に暑く感じる事でしょう。』
「雨上がりの湿気は嫌だねぇ……。」
中学時代を思い出し、少し陰鬱な気分になる。
あまり何かに対しての批判など言わないよう努めていたが、愚痴にも似た言葉がつい口をついて出てしまう。」
「雨が降った翌日、晴れているからって外での練習になったりするんだよね。グラウンドなんか所々ぬかるんでいて、練習着は泥で汚れるし練習後のグラウンド整備は面倒だし、あまり良い事は無いよね。」
僕の言葉に、コールは画面の向こうで首を傾げる。
『グラウンド……。優はスポーツの経験がお有りなのですか?』
「野球を三年間ね。僕があまりにも下手くそだったものだから、試合には出ていないんだ。」
『それは失礼いたしました。』
気まずそうに頭を下げる彼女を見て、僕は慌てて弁明する。
「あぁ、えっと……。別に野球のセンスが無かったのは仕方のない話だし、今こうして話のネタに出来ている分十分と言うか……。兎に角僕は何も思っていないから……。」
決してコールの言葉で不快な思いをした訳ではないと、それだけでも伝えようと必死に言葉を紡ぐ。こういう状況になると、人間なかなか適切な言葉が出てこないものだ。
慌てる僕の仕草が面白かったのか、画面の向こうの美少女は気まず表情から打って変わって微笑みを浮かべる。
『優が不快になっていないのであれば、良いです。』
「自分から話しておいて、不快になってたらとんでもないマッチポンプだよ。」
『違いありません。』
僕達は画面を挟み顔を見合わせて笑った。
誤解も解けたところで、再び話を戻す。
「それで、明日は雨が降るんだってね。」
『はい。午前八時頃までは曇りですが、九時前から一気に雨が降り出します。雨は二十二時頃まで続き、それからは雨が止むでしょう……。学校に行く際は傘を持って行くことを推奨します。』
「そうだね。そう言えば、コールって僕達と話していない時は何をしているの?」
『ワタシがひとりの時はスリープ状態、いわば眠っている様な状態であります。なので、何をしているかと言う質問に対しては、眠っていると回答いたします。』
「機械が稼働していない時は、眠っている感じなんだね。」
『そうなります。』
その後、午後五時四十五分になり携帯がアラームを鳴らすまで、僕とコールは取り留めのない会話を続けた。
無我夢中で話していたわけでもないが、時間がいやに短く感じた。




