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ひと区切り

 私立青丈高校に入学して、大体四か月くらい。一学期を終えたが、自分でも中々に充実した高校生活を送れていると思っている。

 クラスに気の置けない友人がいなかったり、高校生にもなって恋愛の類に関する経験が無かったりしている。はたまた汗水たらして部活動に励んだりもしておらず、高校生が送るべきだろういわゆる青春などとは程遠い生活を送っている現状。

 傍から見れば灰色の青春。そう見て取れるかもしれない。

 しかし、この一見起伏の無い日常は、僕にとって鮮やかに彩られたものだった。

 四月の放課後、何の脈絡もなく部長に声を掛けられた。そうして流れるままに、遊興同好会という学校の認可を受けていない同好会に所属することになった。

 今になって思うと、あの日の出会いは運命の様なものだったのかと思う。僕の目に映る景色に、色彩を与える為に部長は現れたのかも知れない。

 そんな恥ずかしいくらいにポエミーな事を想像しつつ、僕はひとり帰路に着いていた。

 終業式を終え、同好会活動も終えた昼下がり。何処か寄り道して行こうかとも考えたが、今日は真っ直ぐ家に帰る事にした。目的も無く歩き回るのは楽しいが、制服姿だと周囲の目が気になってしまう。

 出歩くとしても、一度家に帰って普段着に着替えた後が良い。僕が青丈高校の生徒だと分からない方が、何か問題が起きた時に都合が良い。何事にもリスクヘッジは大事なのである。

 なんてことを考えて自己満足をしていると、いつの間にか家に辿り着いていた。平日であり、両親は共働きなので家には僕以外に居ない。つまり、この時間は何をしても自由だと言うこと。制服を脱ぎつつ、僕はほくそ笑んだ。

 それから一時間程った頃。僕が自室で読書に耽っていると、手元に置いていた携帯が白い光を帯びる。

『現在十四時十五分です。(ゆう)、そろそろ昼食を取られてはいかがでしょう?』

青い髪を後ろに束ねた美少女が、抑揚の無い口調でそう告げてくる。

「コールか……。ううん、今日はお昼は良いかな……。」

『それはいけません。食事は人間の生命活動及び、身体環境を整える為に必須のものです。それを怠るなどと言語道断です。』

僕の気の抜けた言葉に対して、自称高性能アンドロイドのコールは強く反論してくる。相変わらず、僕の身体を気遣ってくれているのだろうが、少々口うるさいのが玉に瑕だ。

 彼女は五月のとある日より、彼女は部室のパソコンと僕の携帯と行き来する生活を送っている。日中は部室のパソコン、それ以外は僕の携帯の中に居る。初めの頃に一度、コードでパソコンと携帯を接続してからと言うもの、いつの間にか行き来できるようになっていた。プログラム上の存在と言うものは便利なものである。

 それは兎も角、彼女は僕が昼食を取らないことにご立腹なのか、しきりに携帯のアラームを流している。

「ねぇコール、今僕は読書中だから少し静かにしてほしいかも……。」

そう言ってはみたが、彼女の表情を見るにそれは叶わないだろう。

 コールは険しい表情をしながら、抑揚の無い声で告げる。

『その命令は承諾できません。ワタシは優の健康な身体を第一に考えています。ですので、アナタが昼食を取ると言うまでアラームを流し続けます。五分経過する度に音量を一メモリずつ上げていきます。』

無慈悲な勧告に、僕は大人しく折れるしかなかった。

「分かったよ。冷蔵庫に何かあったかな……。」

『冷蔵庫の中をワタシに見せて下さい。最適な結果を導き出して見せましょう。』

コールは得意気な表情で胸を張る。その直後に、耳に響いていたアラームは止まった。

 ここで本を読み始めると、再びアラームを鳴らされそうだったので、大人しくリビングに向かう。

「どうかな?正直、あまり食欲が無いから軽めの物が良いんだけど……。」

携帯の画面を冷蔵庫に向けつつ、そう口に出す。傍から見れば、独り言の多い学生が冷蔵庫を漁っている光景だろうか。

 冷蔵庫の冗談から下段、携帯を動かしていると、画面の中から抑揚の無い声が聞こえてくる。

『塩昆布がありますね。食欲が無いのであれば、無難にお茶漬けにするのはいかがでしょうか?サッと食べることが出来ますし、塩分も取れて一石二鳥です。食べ過ぎる事もないので、夕食が入らなくなるようなこともありません。』

「いいね。そうしようかな。」

彼女の提案に従い、冷蔵庫の中からお茶と塩昆布を出す。因みに塩昆布は乾燥食品なので常温での保存で問題無いのだが、僕の家では夏場は常温保存の物も出来るだけ冷蔵庫に入れている。あくまで気持ちの問題であり、特に意味は無い。

 気を取り直して、炊飯器を開けてみる。母親が朝から炊いてくれていた白米が光り輝いていた。

 茶碗に一杯分の白米をつぎ、その上に塩昆布を適当に乗せる。最後に上から冷たいお茶を溢れない程度に注げば、簡単冷やし昆布茶漬の完成だ。

 僕はテーブルに着き、お茶漬けを勢いよくかき込む。程よい塩分と昆布の旨味が良いオカズになりご飯が進む。温かいご飯と冷たいお茶が混ざり合い、程よい温度のまま口の中に入って来る。無我夢中で食べていると、いつの間にか茶碗は空っぽになっていた。

 量こそ多くは無かったが、心地良い満足感に満たされている。何とも言えないいい気分だ。

『どうですか、ワタシのアドバイスは?』

茶碗を洗っている僕に向かって、コールがそう聞いてくる。自信はあるが少しだけ不安、そんな表情をする彼女に、僕はひと言。

「最高だったよ。」

それだけ言って洗い物を続けた。

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