一学期終業式
昼下がりの部室。僕と部長はいつもの席で向かい合い、ババ抜きに興じていた。正子先輩も普段通り窓際の席に座り、カーテンを閉め読書に耽っている。
この日は青丈高校の一学期終業式があり、午前中でホームルームが終わり解散になった。なので僕達はホームルームが終わるなり部室に集合し、怠惰な青春を謳歌している訳だ。
「よし、これで私の勝ちだね。」
静かな部室に、部長の元気な声が響き渡る。彼女は二枚揃った三のカードを見せつけ、得意気な笑みを浮かべている。
「優君、相変わらず駆け引きがおざなりだねぇ。」
「むむむ、ありがとうございました……。」
僕は手元に残ったジョーカーのカードを置き、頭を下げる。勝負の後、礼儀を欠かせないのが遊興同好会の決まりだ。
部長も僕に合わせ、丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございました。それじゃあ、お待ちかねの罰ゲームね。」
顔を上げた部長は怪しい笑みを浮かべ、そう宣言する。
今回の罰ゲームは、負けた方が購買近くの自販機まで走り飲み物を買ってくると言うもの。代金は勿論、自分の分は自分で出す。お金が関わる勝負はしないと言うのが、この同好会の決まり事だ。
「仕方がありません、ひとっ走り行ってきます。」
「お願いね。私はいつものをお願い。」
「あぁ。優君待ってくれ。ついでに私の分もお願いして良いかな?」
僕の答えを聞く前に、正子先輩は僕に向かって小銭を放る。百円玉と五十円玉が一枚ずつ、小さな弧を描き僕の手の中に吸い込まれていく。
「いつも飲んでいる缶コーヒーをお願いするよ。お釣りはあげる。」
「ありがとうございます。それじゃあ、行ってきます。」
「はぁい。」
「行ってらっしゃい。」
二人に見送られて、部室を後にする。
購買は、一階の中庭にでる渡り廊下のすぐ横にある。部室からはのんびり歩いても大体五分くらいだろう。
廊下を歩いていると、グラウンドの方から雄叫びにも似た声が聞こえてくる。
こんな暑い中で、よくやるものだ。夏の日差しにも負けず練習に励む運動部に対して、尊敬にも似た想いを抱きつつ僕は階段を降りる。自販機に向かい、小銭を入れる。缶コーヒーと野菜ジュース、ついでに炭酸ジュースを一本ずつ買って部室に戻る。
部室の扉を開くと、部長と正子先輩が向かい合い何かを話している様子だった。
「ただいま戻りました。」
そう声を掛けると、二人の視線が僕の方に向いた。
「あら、おかえりなさい。」
「おつかい、感謝するよ。」
「何の話をしていたんですか?」
部長に野菜ジュースを、先輩に缶コーヒーを手渡しつつ僕はそう聞いてみる。
「ああ、合宿の予定について話していたのよ。」
「快く場所を提供してくれる後輩がいたからね。日程をいつにしようかとね……。ところで優君、夏休み中で都合の悪い日はあるかな?」
「前にも言いましたが、僕に予定なんてありませんよ。強いて言うなら、お盆の時は遠慮するくらいですかね……。」
自分で言っていて悲しくなってくるが、他三人の都合に合わせられるので結果良しとして置こう。
「それは私達も同じよ。それじゃあ、私達と青嵐ちゃんの都合を擦り合わせてから。新溜めて予定を決めるわね。貴方はそれで大丈夫?」
「はい。問題ありませんよ。それよりも……。」
僕は炭酸の缶を開きつつ、部長の顔に目を向ける。
二人は既に飲み物を喉に流し込んでいる最中だった。
「ひとつ質問いいですか?」
「ん、何かしら?」
野菜ジュースのストローから口を離し、部長は小首を傾げる。
「夏休み中は、この同好会はどうなるんですか?普通に活動する感じです?」
「ええ、そんな感じよ。」
「具体的には、平日の午前九時から十一時くらいまでかな。別に強制参加と言う訳でもないから、自由にすると良いよ。」
「いやまあ、活動があるのなら参加しますよ。お陰で、退屈しなくて済みそうです。」
そう話していると、正子先輩が何か思いついたのかパンと手の平を合わせる。
「そうだ。夏休みの前半は、それぞれ課題を持ち寄って来るのはどうだろうか。早い内に課題を終わらせておけば、終盤になって焦る事もないだろう。」
「えー……。面倒臭い……。」
不満げにそう漏らす部長に目を向け、先輩は低い声で話す。
「何処の誰とは言わないが、夏休み終盤まで課題に一切手を付けずに市乳に泣きついてくる奴もいるからね。誰とは言わないが……。ねぇ旭?」
「ぐぬぬ……。」
痛い所を突かれたのか、部長は渋い表情で口を噤んでしまった。
先輩は部長を無視して、僕の方に視線を向ける。
「優君はどうかな?やっぱり、長期休暇の課題は最後まで残したいかな?」
誰に対してかは定かではないが、棘を感じる言い方だ。誰に対してかは定かではないが。
「僕は良いと思いますよ。課題ってひとりでやると、どうしても後回しにしがちなので……。」
「それなら良かったよ。さて旭、これで二対三だが、まだ何か言い分があるかね?」
勝ち誇ったような先輩の言葉に、部長は苦し紛れの反論をする。
「勝負しましょう、勝負。私達は遊興同好会、こう言うことはゲームで決めるべきじゃない?」
本当に悪足掻きの様な言葉だったが、先輩は納得したように頷く。
「それもそうか。なら、旭と私で決着をつけるとしようか。キミが仕掛けた勝負だ、ルールはこちらで提示させてもらおうか。」
その後、部長と先輩はポーカーで勝負をすることになった。その日の夜、僕は学校指定の鞄に筆記用具と課題を入ることになった。




