集合写真
一学期の終業式を明日に控えた放課後。僕達はいつもの様に部室に集り思い思いに過ごしていた。
夏の日差しが差し込む部室で、平和を物語る様な静寂が広がっている。今日の同好会は、このスタイルで過ごしても良いかも知れない。そう考えていると、部長がおもむろに立ち上がり口を開いた。
「記念撮影をしましょう。」
「記念撮影、ですか……。」
言葉の意図が理解できず困惑する僕を一瞥し、部長はゴソゴソと自身のバッグを漁りだした。
十秒程して、部長がバッグ中から取り出したのは、少し値が張りそうなカメラと三脚だった。
「優君、セッティングするから手伝ってもらって良いかしら?」
「それは良いんですけど……。どうやってその中に入れていたんですか?」
部長のバックの大きさを考えると、カメラは兎も角三脚迄入らなそうなに見えるのだが。
「最近のこういう商品は便利よね。何でも折り畳み式になってコンパクトに纏まるんだから……。」
「だとしても三脚の長さとバッグのサイズが合っていないでしょ。」
折り畳まれた三脚ですら、バッグに入れると少しはみ出してしまいそうである。見えてしまえば、不要物の持ち込みとして生徒指導の的になる様な代物だ。
「そこは気合よ。気合。」
「気合ですか……。」
気合で物の大きさまで変得ることが出来たらせわしないだろうと、そう言い掛けて飲み込んだ。それよりも、記念撮影についてである。
「それで、どうして急に記念撮影なんて言い出したんですか?」
「終業式の日は荷物が増えるからね。今日の内に皆で写真を撮ろうと思い立ったわけなのよ。」
「聞きたいのはそこじゃないんですが……。」
ともあれ今日カメラを持って来た理由は分かった。
次は、記念撮影そのものをする理由である。
「それで、記念撮影をしてどうするんですか?ここの壁にでも飾るんですか?」
僕がそう聞くと、部長は微笑みを孕んだ瞳で僕を指差した。
「ご明察。さすがは優君、頭の回転が早いわね。」
適当を言っただけなのだが、褒められてしまうとは。意図していない分、微妙な気分である。
小首を傾げる僕を他所に、部長は話を続ける。
「私には夢があるの。ちょっとした夢なんだけどね……。」
脚立を組み立てつつ、部長は窓の外に目を向ける。
今日の天気は雲ひとつない快晴。鋭い程の日差しが、部室の中を明るくしてくれている。脚立を組み終えて、カメラをセッティングしたところで、部長は部室後方の黒板を指差す。
「あそこに、私達の写真を貼りたいのよ。来年はその隣、再来年はその隣。そうして私達が去った後も、私達が作ったこの同好会がその歴史を刻み続ける事。それが私のささやかな願いよ。」
「歴史が刻まれた写真の中で、私達が初代メンバーとして残り続ける。自身の証を残せると考えると、これ程嬉しい事は無いね。」
いつの間にか背後に立っていた正子先輩は、そう言いつつ優しい笑みを浮かべている。
どうやら僕以外、記念写真を取ることに乗り気らしい。いや僕も、別段反対している訳でもないのだが。
「部長、話し方的に歴代の部員の集合写真を残していく。って感じですよね。」
「ええ、そうなるわね。まず私達三人の写真が貼られて、その後も毎年この時期に集合写真を撮って張っていく感じよ。そうなって欲しいと願っているわ。」
また遠い場所に羨望の眼差しを向ける部長に、僕は至極真っ当な疑問を投げかける。
「歴代の写真なら、部長と先輩の二人だけの写真もあるんじゃないですか?」
「無いわよ。」
キッパリと言い切られてしまう。
困惑する僕に、正子先輩が説明してくれる。
「私と旭の二人だけの時は、いわばエピソードゼロの様なものだからね。キミが来てからが、遊興同好会のエピソードワンなのさ。」
「何だか長編映画みたいな言い方ですね。」
遊興同好会の物語であればこの先ずっと続いて行くのかも知れないが、僕と遊興同好会の話であれば長くてもあと二年、部長達は一年しかない。
長くても、エピソードスリーで打ち切りである。
「兎も角、遊興同好会は二学年以上の生徒が寄り集まって、初めて完成するものなのよ。まぁ今決めたことなんだけど。」
「最後の言葉で、全部台無しですよ。」
てっきり壮大な構想の上につくられた同好会だと思ってしまったが、どうやら行き当たりばったりなものだったようだ。
「まぁまぁ、みんなで写真を撮りたいって言うのも、それを伝統にしたいって言うのも本当のことだから。」
部長はそう言いつつ、部室後方の黒板の前に僕達を並ばせた。
部長が真ん中で、正子先輩が右側。僕は左側に立ち、間も無くタイマーを設定したシャッターが切られる。
「折角だから、多少遊びのある写真にしたいわね……。」
カメラを眺めつつ、部長はそう呟く。映っているのは、僕達が一列に並び直立した写真。それはまるで、学校のでの真面目な写真撮影の様だった。
「もう一度撮り直すわよ。今度は私達らしい写真にしたいわね。」
そう言って部長は再びシャッターのタイマーを押す。
僕達らしいとは、どうしたものかと考えていると、突如両腕が柔らかい感触に包まれる。
見ると、部長と先輩が僕の両腕に抱き着いている。驚いている内にシャッターが切られ、遊興同好会の第一回集合写真が飾られることになった。




