合宿の予定
七月のある放課後。天気は快晴で、からっとした日差しが肌に突き刺さる。
この日は特に理由も無く同好会が早めにお開きとなったので、僕は軽い足取りで帰路に着いていた。
とは言え、早い時間に学校を出たとて暇である。別段何か予定がある訳でもないが、暇つぶしを兼ねて商店街に寄って行くことにした。
商店街はそれなりに人の往来があるが、閑散としており何処か物寂しい印象を受けた。
どこそこ見て回るつもりも無いので、本屋に寄って小説でも立ち読みしようか。そんなことを考えつつ歩いていると、古びた文具屋の前で見知った顔を見つけた。
「おや、あお……白亜ちゃんじゃないか。奇遇だね。」
僕がそう声を掛けると、制服姿の少女は驚いた表情を浮かべた。
「あ、えっと……。優さん。こんにちは……。」
白亜ちゃんは控えめな口調でそう言うと、可愛らしくはにかんだ。
いつも巫女装束の姿しか見ていなかったので、制服姿は新鮮である。この近くの、中学校の制服だろうか。大人しいデザインがかえって可憐な少女を引き立てている。
「今日は何か買い物かな?」
「え、ええ。文具と、本を少し見に来ました。優さんは?」
「僕は特に目的も無く……。暇を持て余して来てみたんだけど、まさかこんな所で会えるなんてね。」
「はい、私も驚きです。休みの日でもないのに優さんと会えるなんて……。」
彼女は俯きがちに、両手をモジモジとさせている。初々しい仕草で、見ている此方がかえって照れてしまう。
勢いのまま声を掛けてしまった所為か、何を話したものか分からない。こういう時に、普段時分から異性に話し掛けていない弊害が出てきてしまうものだ。改善しようと常々思ってはいるのだが、日陰者である自分にはハードルが高い話だ。
白亜ちゃんの後方に広がる商店街に視線を向けて話題を探していると、背後から突然襲い掛かってくる衝撃が僕を襲った。
「同好会が早く終わって何をしているかと思えば、まさかこんな所でナンパしているなんて。ねぇ、優君。」
「まったくだ。キミは硬派な男だと思っていたのにな。ともあれ今回の勝負は私の勝ちだな、旭。」
部長と正子先輩は、体当たりした拍子に左右から僕の肩に腕を回してくる。
「部長に、先輩……。どうしてこんな所に……?それに勝負って……。」
「まぁまぁまぁ……。」
「まぁまぁまぁまぁ……。」
二人は芝居がかった仕草で僕の肩を叩きつつ、白亜ちゃんの前に立つ。
「ひ、ひぃ……。」
彼女は怯えた様子ですっかり縮こまってしまった。
ちなみに、部長と先輩の身長はどちらも百五十センチくらいで、白亜ちゃんは百五十センチくらい。二人と比べて丁度頭ひとつ分くらい低い。怯えてしまうのも無理はないだろう。
身体を小さくして震えている白亜ちゃんを見て、二人は顔を見合わせる。
「怖がらせてしまったみたいね。正子が怖い顔しているから……。」
「失礼なことを言うね。旭が近付き過ぎたんだよ。個人のパーソナルスペースを侵食するのは良くない。」
「取り敢えず、一度離れて下さい。」
僕は部長達と白亜ちゃんの間に割って入る。
「ズルいわ優君。私も青嵐ちゃんとお話ししたいのに。」
「まったくだ。可愛い彼女を奪うつもりは無いから、そう怖い顔をしないでくれよ。」
「彼女じゃないですし、お話するなら適切な距離を考えて下さい。」
不服そうな顔をする二人に、僕はピシャリと言い放った。
少し間を置き、白亜ちゃんも落ち着いてきたようだ。
「あ、改めまして、青嵐白亜と申します。中学三年生です。先程はその、失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした……。」
そう言って深々と頭を下げる少女を見降ろし、困ったような笑みを浮かべる。
「謝らないで、怖がらせちゃった私達が悪いんだから。それで、改めて自己紹介するわね。私の名前は七咲旭、青丈高校の二年生よ。」
「私は藤野正子、同じく二年生だ。まぁ、これから仲良くしてくれると嬉しい。」
「どうも、よろしくお願いします。七咲さん、藤野さん。」
白亜ちゃんは再び頭を下げ、二人に向かって可愛らしくはにかんだ。
暫くして慣れたのか、部長は白亜ちゃんと楽しそうに雑談を交わしている。そんな二人を横目に、正子先輩は僕に近付く。
「そう言えば優君。この前共有してもらったものだけどさ……。」
彼女が言っている内容はについては、すぐに検討が付いた。
「あぁ、コールが調べてくれた合宿場所の候補ですね。」
少し前、僕達遊興同好会は夏休みを利用して合宿をしようと言う話をしていた。しかし保護者がいないのでどうしても日帰りするしかなく、移動時間などの問題もあり一頓挫した形だった。
「候補地はどれも良かったんだが、やはり日帰りとなると時間もそう使えないだろうしね……。」
「厳しそうですか……。思い出作りになるだろうし、出来る事ならやってみたいですけどね。」
「あの、何の話をしているんです?」
部長から目を逸らし。白亜ちゃんは僕達の方に声を掛けてきた。
誤魔化す理由も無い。僕達は同好会での合宿を予定しているが、場所など決まらず困っている事を話した。
「なるほど。」
彼女は少し考える仕草を見せ、上擦った声でひとつの提案をした。
「でしたら、あの神社で合宿をしてみてはいかがでしょう?おじい、管理人もいますので泊っても大丈夫ですよ。」
思わぬところから差し伸べられた救いの手に、僕達は目の前の少女が女神であるかの様な錯覚を受けた。




