神社の友人
梅雨も明けテストも終わり、来たる夏休みを待つだけのある土曜日。
僕はひとりで街外れにある神社に訪れていた。特別、何か用事がある訳でもない。ただ、散歩のルートのひとつになっていたと言うだけのこと。
目的も無く来ただけの僕を、巫女である青嵐さんは快く迎え入れてくれた。彼女に言われるままに休憩室に通され、暖かいお茶を出される。
「どうもありがとうございます……。」
「い、いいえ……。お気になさらず……。」
礼を言う僕に、青嵐さんは慌てた様子で首を横に振っていた。
綺麗な畳が敷かれた和室の休憩所。僕と青嵐さんは、向かい合う様に畳の上に座っている。
「……。」
「……。」
少し気まずい沈黙。お互いにあまり話すようなことは無い事は知っているが、話し出すタイミングを伺い過ぎてドツボに嵌っている状況だ。
何を話そうかと考えつつ、焼き物の器に注がれたお茶を口に運ぶ。
緑茶の香りが口一杯に広がり、心が落ち着く。
「このお茶、美味しいですね……。」
僕は独り言のように、しかし青嵐さんの耳に確かに届くようにそう呟いた。
「あ、ありがとうございます。」
彼女は畳の上に正座したまま深々と頭を下げて、可愛らしくはにかんだ。
「そのお茶、その……。祖父の知り合いから、安く仕入れているものなんです。本来の値段は少し張りますが……、味は確かです。」
「そうなんですね。道理で美味しいわけだ……。」
僕は湯飲みをまじまじと見つめながら言う。
少しだけ会話が繋がったが、やはり少しぎこちない。何か、良い話題はないものか……。
「あ、あのう……。」
思考を巡らせている僕に、青嵐さんが遠慮がちに話し掛けてくる。
「ん、どうかしました?」
「あのう、そのう……。」
彼女は両手の指を遊ばせつつ、しどろもどろに言葉を紡ぐ。そうして暫くモジモジとした後、意を決したように僕の方に目を向けた。
「さ、差し支えなければ、その……。年齢を教えて頂いても……?」
「あぁ、年齢ですか。今は十五歳で、高校一年生ですよ。」
僕がそう言い終えると、彼女は身を乗り出してくる。
「あの、でしたら、私はひとつ年下ですよね。秋月先輩、と呼べばいいのでしょうか?」
可愛らしく首を傾げる少女の言葉に、僕は微妙な言葉を返す。
「先輩はちょっと……。青嵐さん、確か今中学三年生でしたよね。」
「はい。今年高校受験です。第一志望は、私立青丈高校です。」
「そうか……がんばってね。問題とか起こさなければ、大丈夫だとおもうから……。」
青丈高校は私立の進学校を謳っているが、偏差値はそこまで高くない。青嵐さんの学力は分からないが、少子化の時分であり問題なく入学できるだろう。
僕としても、この時期からそこそこ親しい後輩が出来るのは嬉しい限りだ。
「そこで。相談なのですが……。」
青嵐さんは更に距離を詰めてくる。控えめと言うか、大人しい子だと思っていたのだが、案外積極的な性格の様だ。しかし、何にしても距離が近い。
戸惑いのあまり言葉を失う僕に、彼女は言葉を続ける。
「私のこと、呼び捨てで呼んで貰えませんか?あと秋月さんは私の先輩なので下の名前で、出来ればタメ口で話して欲しいのですが……。」
「呼び捨てに、タメ口ですか。ううむ……。」
僕は少し後ずさりして、思考を巡らせる。
入学して一学期の間、部長や先輩と関わったお陰で異性に慣れていない訳ではない。しかし、未だに対等な異性の友人がいない為、後輩と言えどタメ口は少し抵抗がある。
あまり良い反応を見せていない僕に、青嵐さんは更にさらに詰め寄って来る。
「お願いです。私、学校では友達って呼べる男の子がいなくて……。歳の近い異性の友人と言うものに憧れているんです。」
これが先程までおどおどとして、話すタイミングを伺っていた少女の姿だろうか。積極性は、部長以上の逸材かも知れない。
ずっと詰め寄られている状態では、絵面的にも僕の心臓的にもあまりよろしくない。
「わかりま……。分かったよ。白亜、さん……。」
僕が根負けしたようにそう言うと、彼女はパァっと顔を輝かせる。可愛らしく、眩しい程に明るい笑みだ。
これで満足したかと思いきや、青嵐さん改め白亜さんは、これで満足してくれないみたいだ。
「あの、図々しいようですが……。もうひとつよろしいですか?」
「うん、なんです……何かな?」
僕は言い直しつつ彼女の顔を見る。異性へのタメ口と言うのは、やはり慣れない。そんな僕を他所に、白亜さんは話を続ける。
「私の呼び方なのですが、呼び捨てにしていただけないでしょうか?その方が、仲良しみたいなので。」
「それは駄目だよ。」
僕は手の平を前に出し、きっぱりとノーを突きつける。
「タメ口ならまだしも、呼び捨ては良くない。僕の心が慣れてくれない。」
「むぅ……。」
白亜さんは不満げに頬を膨らませている。可愛いのだが、だからと言って彼女の要求を全て飲んでやるつもりは無い。
「でしたら、せめてちゃん付けでお願いします。」
「そのくらいなら……。だったら、僕のことも名前で呼んでくれるかな?白亜、ちゃん……。」
照れ臭さから、口籠りつつもそう言う僕に、青嵐さん改め白亜さん改め白亜ちゃんは眩しい笑みを浮かべる。
「はい。これからよろしくお願いします。優さん。」
こうして、僕と白亜ちゃんのこれから長く続く交友関係が始まった。




