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昼下がりの喫茶店にて

 平日の所為だろうか。丁度昼食時にも関わらず、喫茶店の店内は閑散としていた。

 テスト最終日の放課後。僕達三人は昼食をとる為に。商店街の路地裏にある喫茶店に足を運んでいた。

 喫茶店内に僕達意外の客はおらず、クラシックな音楽が静かな店内にはっきりと響き渡っていた。

「良い雰囲気のみせだろう?」

正子(しょうし)先輩は独り言の様にそう呟く。その声色は、心底楽しそうだった。

「確かに、素敵な場所ね。最近のいわゆる溜まり場めいた喫茶店ではない、隠れ家の様な背徳感があるわ。」

部長はそう言いつつ、店内を見渡す。

 良くも悪くも古めかしい店、そんな印象を受ける内装だ。こじんまりとした店内には、木製のテーブルが三つと同じく木製の椅子がそれぞれ四つずつ並んでいる。

 テーブルには真っ白なテーブルクロス。所々黄ばんでいることから年季が伺える。店内に流れているクラシックな音楽も、人の心を懐かしい場所に連れて行くようだ。

 妙に心が落ち着くその空間で、僕達は注文した品を待っていた。席の配置は部長と先輩が隣り合わせ、二人と対面するように僕が座っている。

十分弱待っていると、夏だと言うのに厚いコートに身を包んだ老年の店主が、カップを乗せた盆を持って僕達に近づいてきた。

「お待たせいたしました。まずは、お飲み物をお配りいたします。」

しわがれた様な低い声だが、不思議と嫌な感じはしない。

「ああ、どうもありがとうございます。」

正子先輩は盆からカップを取り、僕達に配ってくれる。

 部長はホットのストレートティー、先輩と僕はホットコーヒーを注文していた。

「では、すぐにお食事をお持ちいたしますので、ごゆっくりお過ごしください。」

店主は頭を下げ、盆を片手に置くに引っ込んでしまった。

 僕達はそれぞれ飲み物をひと口飲み、大きく息を吐く。

 初めて飲んだ喫茶店のコーヒー。口内に広がる苦みの中に、旨味の様な物を感じる。酸味や嫌味などは全くなく、すっきりとした飲み心地だ。雰囲気の所為か材料が違うのか、理由は定かではないがこの店で初めて飲んだコーヒーは何とも言えず美味しく感じた。

「ところでさ……。」

カップをテーブルに置き、部長が口を開いた。

「よくもまあこんな穴場を見つけたわよね。ねぇ正子。」

彼女の言葉に、先輩は頷いた。

「実は、私も偶然見つけた店なんだ。しかし人通りの無い場所に、こんな良い店があるとは。我ながら大発見だと思うよ。」

「まったくね。」

二人は上品な笑みを浮かべる。つい先程まで、真剣な表情でじゃんけんに興じていた人達とは、にわかに信じ難い。

 話している内に、店主が盆を持ってやってきた。

「お待たせいたしました。シュガートーストをご注文いたしましたのは……。」

「あ、はい。私です。」

部長はにこやかにそう言い、店主から中くらいの皿を受け取る。

「お次に、ショートケーキをご注文いたしましたのは……。」

「ああ、私です。ありがとうございます。」

正子先輩も淑やかな声色で礼を言い、ケーキの乗った皿を受け取った。

「最後に、ナポリタンは、お兄さんのご注文ですね。」

「はい。ありがとうございます。」

ナポリタンの皿をずっしりと重く、そこそこ量があるようだった。

「他に何かありましたら、テーブルの呼び鈴を鳴らしてください。では、ごゆっくり……。」

店主はそこまで説明すると、おぼつかない足取りで奥に引っ込んで行ってしまった。

 残された僕達は、昼食を口に運びつつ雑談に興じる。

「そう言えば、もうあと何週間で夏休みじゃないですか。」

僕がそう言うと、部長がトーストを頬張りつつ頷く。

「そうね。学生の青春、待ちに待った夏休みがすぐそこまで来ているわ。」

「後半は手を付けていなかった課題に追われ、(あさひ)が泣く羽目になる夏休みだね。」

ショートケーキにフォークを通しつつ、正子先輩が口を挟む。

「もし危なくなったら手伝ってね……。」

消え入りそうな声で部長はそう呟く。何でも、課題を忘れた瞬間に補習か留年が決定するらしい。

 自業自得なのだろうが、同情してしまう。

 話を戻そう。部長の課題事情に関心がないわけではないが、僕が聞きたいのはもっと他のことだ。

「夏休みの間って、同好会活動はどうなるんですか?」

そんな在り来たりな質問に、先輩が答える。

「土日とお盆以外の日は、一部室に来るつもりだよ。時間は大体十時頃かな。優君はどうするつもりなのかな?」

「今日行ったばかりですが、僕に予定なんて物は無いので、部室に行こうかなと思っています。」

「良い心掛けね。」

そう言った直後、部長は何かを思いついたのか椅子から身を乗り出す。

「良い事を思い付いたわ。夏休み、三人で合宿をしましょう。」

「合宿、ですか……?」

突然の提案に、僕は戸惑いを隠しきれずにいた。第一、放課後の空き教室で遊びに興じているだけの同好会が、合宿をして一体何をすると言うのだろう。

 先輩の方に目を向けると、呆れたように首を傾げていた。

「旭、高校生だけで何処かに寝泊まりする時は、必ず責任能力のある大人が必要になるんだ。だから現状、誰かの家に泊まりに行くならまだしも合宿となると機微良いんじゃないか。」

「それもそうね。」

急に落ち着いたのか、スッと席に座る。

「それじゃあ、夏休みをより楽しめる様に何か考えておくわね。」

部長はそう言い、上品な仕草でカップに注がれた紅茶を口に含んだ。

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