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期末テスト前日

 放課後の部室。空にはどんよりとした雲がかかっていたが、雨は無い。

 この日はここ数日の間で、一番穏やかな日だと言っても過言ではなかった。

 正子(しょうし)先輩はいつも通り窓際の席に腰掛け文庫本を開いており、僕と部長は机を挟んで向かい合っていた。

「何だかこの感じも久しぶりな気がしますね。」

僕の呟きにも似た言葉に、部長は大きく頷いた。

「そうね、ここ一週間くらい、一緒にゲームをしていなかった気がするわ。」

「いや、昼休みになりましたけどね。サイコロ転がしただけですけど……。」

その結果二人で怒られた訳だが、まぁそれはいいだろう。

 机の上には、トランプカードが置いてある。

「久々だし、いつもので良いかしら。」

「構いませんよ。僕がシャッフルしますね。」

そう言って、トランプを手の中でシャッフルする。この同好会に入るまでは、トランプゲームなんか滅多にやって来なかったが、すっかりシャッフルするのも手慣れたものだ。

 最近になると、部屋でひとり呆けている時もトランプを手の中で混ぜていたりする。行儀が悪いとは思いつつも、辞められない。変な癖になっているんだと思う。

 カードを混ぜ終えた僕は、そのままトランプの束を部長に差し出す。

「それじゃあ、確認お願いします。」

「任せておいて。」

部長は慣れた手つきでカードを混ぜる。僕も少し手慣れて来たかと思ったが、まだまだ部長には敵わない。

 部長は軽くカードを混ぜ終えると、机の真ん中に置いた。

「それじゃあ、始めようか。」

部長の声に頷き、僕と彼女は交互にトランプの束からカードを一枚手に取った。彼女に見えない様に、自身のカードを確認する。

 僕の引いたカードはダイヤの三。どう考えても勝てる見込みは薄い。いや、無いに等しいだろう。

「僕は、カードを引き直しますね……。」

そう言って、手に持っていたカードを山札の下に滑らせる。その後、再びカードを一枚引き見ないまま手元に伏せた。もう後戻りはできないのだから、確認する必要もないだろう。

「うーん、私はこのままでいいわ。」

部長はそう呟き、手に持っていたカードを自身の前に伏せる。

 カードを開く前に、少しばかりの雑談を交わす。

「そう言えば、課題はもう終わったんですか?昨日は、必死に課題をやっていたみたいですが……?」

僕がそう質問すると、部長はふふんと得意気な表情を見せた。

「昨日で全部、終わらせたのよ。少しキツかったけれど、まぁ私に掛かればこんなものよね。」

「家に居てはやる気が出ないからと、泣きながら私に電話を掛けて来たんだけどね……。確か、二十二時を過ぎたくらいだったよね。」

文庫本に視線を落としたまま、正子先輩が口を挟んできた。部長はそんな先輩を無視して話を進める。

「それは兎も角、今回の罰ゲームはどうしましょうか。今は大して喉も乾いていないし……。優君はどう?」

「そうですね、僕も喉が渇いている訳ではないですし……。前みたいに、負けた方がおかしな語尾と話し方をするとか……どうでしょう?」

苦し紛れの提案だったが、僕の言葉に彼女はパァッと目を輝かせた。

「それよ、優君。素晴らしいアイデアだわ。」

「はは……。ありがとうございます……。」

褒められるほど良い提案をしたつもりは無いのだが、兎も角称賛されるのは悪い気はしない。

「それじゃあ、私が負けたら……どんな話し方をしようかしら。」

「部長は何と言うか、女の子らしい話し方ですから……。男の子みたいな話し方をしてみてはいかがでしょうか?」

「それは良いわね。それじゃあ、貴方が負けたら前みたいに一人称はオレで語尾はだぜでお願いするわ。」

「あれですか……。」

彼女の要求に僕は難色を示す。

前に例の話し方をした際、部長と先輩は腹を抱えて笑っていた。それだけ、僕には似合わない話し方だったのだろう。

「正直やりたくはないですが……。まぁ嫌なら罰ゲームとしては正しいですよね。」

 罰ゲームが決まった。カードを見せ合う前に、もう少し雑談をすることにする。

「そう言えば、明日から四日間テストですよね。」

「ええ。今日と明日、土日を挟んで月曜日と火曜日ね。分かっていると思うけど、その間は午前授業になるわ。」

「午前授業の時は、この同好会はどうなるんですか?」

「テストの当日はお休みよ。尤も、退屈しているのなら、ホームルームの後に顔を出してみても良いんじゃない?もしかしたら私達のどちらか、或いは両方ともいるかも知れないわ。」

「暇を持て余したら、顔を出しますね。」

そうして。と言う部長は優しい微笑みを浮かべていた。

 雑談もそこそこに、僕達は手元の伏せたカードに手を伸ばす。

「それじゃあ、そろそろ決着を付けましょうか。」

「臨むところです。いざ、勝負っ。」

僕は高らかに宣言し、カードを開く。

 僕のカードはスペードの十、まずまずの数字だった。

「良いカードだね。でも……。」

先輩は僕のカードをみて、にやりと笑う。彼女のカードは、クローバーのQだった。

 我を忘れて呆然とする僕の手を、部長の手がそっと触れる。

「さて、早速だけど指定した口調で話してもらおうかしら。可哀想だけど、罰ゲームだし仕方がないわよね。」

太陽の様に眩しい笑みで、僕の顔を覗き込んでいた。

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