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機械と数字

 放課後の部室。

 部長は泣きながら机に向っており、正子(しょうし)先輩はその横で仁王立ちをしていた。

「部長は、課題をしている最中ですか……?」

僕の質問に、先輩は呆れた様な笑みを浮かべている。

「そうなんだ。もう来週の頭には課題を提出しなくちゃいけないのに、いざ蓋を開けてみると数学の課題しか終わっていなかったみたいなんだ。」

「それで、先輩が見張って課題を指せているわけですね。」

「そう言うことさ。(あさひ)は人に見られている内はちゃんとするから、仕方なくね。」

先輩はそう言うと、机に目線を戻す。

 僕はそんな二人から目を逸らし、パソコンに向かう。

「コール、起きている?」

僕の声に反応するように、パソコンの画面が光を帯びる。

 真っ暗な画面が白く染まり、青髪の美少女が現れた。

『お呼びでしょうか?マイフレンド(ゆう)。それと、プログラムであるワタシは眠ることなどありえません。』

自称高性能アンドロイドであるコールはそう言い、画面いっぱいにその姿を映す。

「僕、少し時間を持て余していてさ……。良かったら相手してくれないかな?」

『ワタシはユーザーが使用していない時間、何をしている訳でもありません。なので、アナタと数十分間の時間を過ごすことは可能です。』

彼女は抑揚の無い声でそう話す。

 僕を歓迎してくれているのか分からないが、遠慮せずに声を掛けて良いらしい。

「それじゃあさ、僕とゲームをしようか。」

『受けて立ちましょう。ワタシが何故高性能アンドロイドと言われているのか、それをお見せいたしましょう。』

「……。」

誰がそんなことを言っているのか分からないが、わざわざ追及することでもないだろう。

 そんな事より、勝負の内容をどうするかだ。将棋やチェスなどのテーブルゲームでは、逆立ちしてもコールには敵わない。彼女と過ごして一、二カ月程経つが、何度かゲームをしている内にその事実を十分に思い知らされた。

 じゃんけんは、ある種運のゲームなのだが、これまでの日々で僕の行動は完全に解析されてしまっているだろう。であれば、勝てる見込みは無いだろう。

 悩んだ末に、僕は彼女に質問を投げ掛ける。

「コール、道具が無くても出来る二人用のゲームを教えて。」

『かしこまりました。検索するので、少々お待ち下さい。』

画面の向こうに居る青髪の美少女は、少し考える仕草をしたまま制止する。

 数秒後、画面の前に幾つかの文言が表示される。

『検索し、幾つかをワタシの方で選別し表示します。お題を言ったら負けゲームや山手線ゲームなどがメジャーですが、どうでしょう?』

「うん、ありがとう。」

僕は彼女が表示してくれた幾つかのゲームとその内容に目を通す。

 山手線ゲームなどは、内部に検索エンジンを備えたコールに勝つことは非常に困難だろう。少なくとも僕では、電子辞書でも持って挑まなければ絶対に勝てないだろう。

 考えた末、僕は勝ち目が薄そうなゲームを選択する。

「三十を言ったら負けゲームをしよう。」

三十を言ったら負けゲーム。二人が順番に最大三つずつ数字を言っていき、三十に到達した方の敗北である。勝者を決めると言うより、敗者を確定させるゲームである。

『了解いたしました。先手後手はどうしますか?マイフレンド優が選択しなければ、ランダムで設定しますが……。』

「あくまでも勝ちを目指したいから、僕の先手で良いかな?」

『ワタシは構いません。どうぞ。』

彼女の了承を経て、いざ勝負開始である。

 僕は思考を巡らせ、何を言うか考える。最終的に相手に三十と言わせればいいので、僕の番で二十九を言うことが出来れば良い。つまり……、どうすれば良いのだろうか。

 考えていても、頭が混乱するばかり。僕は計算を感覚に全てを委ねる事にした。

「それじゃあ行くよ。一、二。」

『では、ワタシの番ですね。三、四、五。どうぞ。』

「うぅむ……。六、七……それでいいか。」

『八、九。アナタの番です。』

僕達は互いの様子を伺いつつ、ひたすらに数字を言い続けていた。

 部長は物言わずに机に向かい、正子先輩はそれをじっと見張っている。放課後の部室の中で、僕と弧^ルの声だけが響いていた。僕は番が回るたびに少し考えていたが、コールは番が回って来るとノータイムで数字を言っている。高性能ならではの計算か、何かの作戦だろうか。

「十、十一、十二……。」

『……十三、十四、十五です。どうぞ。』

「十六、十七、十八。でいいか……。どうぞ。」

『十九、二十、二十一。どうぞ。』

「えっと……。二十二、二十三。」

『二十四、二十五。どうぞ。』

「むむむ……。」

僕は右手を頭に当てて呻き声を上げる。いつの間にか、八方塞がりになってしまっていた。

 数秒間の沈黙の後、僕は小さな声を発する。

「……二十六。」

『二十七、二十八、二十九。どうぞ、最後の数字を言って下さい。』

彼女の言葉が、降参を進めている様にも聞こえてくる。

 僕は絞り出すような声で、自身の敗北を宣言した。

「さ、三十。僕の、負けだね……。」

『ありがとうございました。』

画面の向こうでは、青髪の美少女が深々と頭を下げてくる。

 後から聞いたことなのだが、最後の数字が三十の場合は常に奇数で相手に手番を渡すことが必勝法らしい。テストが終わったら、部長や先輩に試してみる事にしよう。

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