表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/45

神社の管理者

 ある休日。僕は試験勉強の息抜きの為、降りしきる雨の中を進んで街外れの神社までやって来た。

 参拝するまでは良かったのだが、突如として雨足が強まってしまう。途方に暮れていた僕は、青嵐(あおあらし)さんのお慈悲で雨宿りさせて貰うことになったという訳だ。

 現在、宿舎内の和室に案内された僕は、青嵐さんと二人でババ抜きに興じている。彼女の要望であり、時間を潰すには丁度良い遊びだ。

「どちらでしょう……。」

青嵐さんは迷い箸ならぬ迷い指をしつつ、可愛らしく首を傾げている。

 現在は互いにカードを殆ど破棄してしまい僕の手札はジョーカーを含む二枚、彼女の手札は残り一枚である。先程まで、ぽつりぽつりと当たり障りのない会話をしつつカードを取ってはペアを作り、カードを取ってはペアを作り、いつの間にか残ったカードは三枚だけになっていた。

 青嵐さんは少し唸った後、決心したように僕のカードを一枚とる。

「あ……、ジョーカー、でしたか……。」

彼女は残念そうに肩を竦める。次は僕の番だ。彼女が二枚のカードを混ぜ終わるのを待ち、手を伸ばす。

 その時、和室の扉が勢いよく開いた。

白亜(はくあ)よ、悪いが後で買い物に……。」

そう言いつつ入って来たのは、背広に身を包んだ老爺だった。渋く整った顔立ちの何処かに、青嵐さんの面影を感じる。

 老爺は僕の存在に気が付くと、にこやかなに笑い掛けてくる。

「おやや、お客様が来ていたとは……。何も無い所ですが、どうぞごゆっくりして行って下さいな。」

挨拶をしない訳にはいかないので、僕はその場に立ち上がり深々と頭を下げる。

「ありがとうございます。自分は、秋月(あきづき)(ゆう)と申します。」

「これはこれは、ご丁寧にどうも。して、秋月さんと申しましたかな?」

老爺は顎に蓄えた髭を撫でつつ、僕の顔をまじまじと見てくる。

「え、ええ……。」

「すると貴方が、白亜が話していた……。」

「お、おじいちゃんっ。」

老爺が何かを言い掛けた所で、青嵐さんが口を挟む。彼女の言い方からして、間の前に居る老爺は彼女の祖父なのだろうか。

 青嵐さんは老爺の元に駆け寄り、小声で何かを話しているようだ。

「いらんことは言わんでってゆうたとん。」

「ばってん、折角お友達が来てくれちょっとで。ちいとなっと話したかとん。」

そう言ったことを話している。所々何を言っているのか分からない箇所があるが、聞き耳を立ててしまうと失礼だろう。

 暫く待っていると話し合いが終わったのか、老爺が僕に歩み寄って来る。

「初めまして。あたしは青嵐白亜の祖父で、この神社の管理者です。名前は、憶えて頂く様な物でもありませんで、気にしないで下さい。」

「ああ、どうも……。」

そう言って差し出された老爺の手を、僕はしっかりと握る。しわがれているが、しっかりとした力強い手だ。

「今後とも、よろしくお願いします。」

老爺の言葉に、僕は黙って頷いた。

「では、あたしはこれで……。」

老爺はそう言うと、僕に背を向けて和室を後にする。

「あ、そうだ……。」

去り際に、老爺は青嵐さんに声を掛ける。

「来年は先輩になっとかも知れんけん、仲良うせんばよ。」

「わかっちょるよ。」

「そいぎらよか。じゃあ、改めてゆっくりして行って下さいね。」

ゆっくりと閉められた和室の扉を、僕は暫く見つめていた。

 ふと我に返り、僕達は向かい合って座り直す。足元に置いていたカードを手に取り、ババ抜きを再開する。

「少し聞いても良いですか?」

彼女が差し出した二枚のカードの内、一枚を取りつつ僕は言う。

「あ、はい。何ですか?」

「先輩になるって言っていましたけど、もしかして青嵐さんって……。」

「え、ええ……。今中学三年生です。」

彼女は気まずそうな笑みを浮かべている。部長や先輩と比べて少し幼い印象を持っていたが、本当に年下だったとは。だからと言って、何かが変わる訳でもないのだが。

「あと、もうひとつ良いですか?」

彼女の年齢もそうだが、僕にはもっと気になっていたことがあった。

「な、何でしょう……?」

青嵐さんは思い当たる節が無いのか、不思議そうな表情を浮かべている。

「先ほど、管理者さんが話していた言葉のことなんですけど……。」

「ああ、おじいちゃんの言葉ですか……。」

一体何を想像していたのか、青嵐さんはホッと息を吐いている。そして、優しい笑みを浮かべつつ説明を始めた。

「おじいちゃんの出身は長崎の半島で、熊本弁と長崎弁が混じったような方言を話すんですよ。」

「そいぎらよかって言うのは?」

「それなら良いよ、ってことです。『ぎら』と言うのが『~だったら』みたいな意味でして、地域によっては『ぎっと』なんても言うみたいです。」

「『しちょる』て言うのは『している』であっていますか?」

「ええ、あっていますよ。所々聞き慣れない言葉があるかも知れないですが、ニュアンス?は標準語と似ています。」

方言のこととなると、偉く饒舌に話すものだ。ひょっとしたら、彼女は標準語で話しているから言葉遣いがたどたどしいのかも知れない。

 そんなことを考えつつ僕達は交互にカードを取り合う。どう言う訳か、互いにジョーカーしか取らない。この時間がもっと続けば良いと、僕達は声に出さずともそう考えているからなのかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ