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参拝

 ある日の休日。僕は傘を片手に山道にある石階段を登っていた。

 雨が降っている所為で石階段が滑りやすくなっていたが、普段から清掃が行き届いているお陰で落ち葉や道端のゴミに足を取られることはない。つくづく、行先にある神社の管理者には頭が下がる思いだ。

 石階段を最後まで登ると、雨の滴る鳥居。それを潜ると、ここ最近親しくなった少女と目が合った。

 巫女装束に身を包んだ少女は僕を見つけるなり、傘も持たずにパタパタと駆け寄って来る。

「あ、秋月(あきづき)さん。よ、ようこそいらっしゃいませ……。」

少し上擦った声。意図せぬ来客に驚いたのかも知れない。

「こんにちは、青嵐(あおあらし)さん。あの、雨に濡れてしまいますので……。取り敢えずこの傘に入って下さい。」

僕は髪を濡らしながら挨拶をする少女に歩み寄り、自身が持っていた傘の中に入れる。

「あ、あぁ……。ありがとうございます……。」

青嵐さんは戸惑う様に頭を下げてくる。

 意図せずして相合傘の様になってしまったが、敢えて気が付かないフリをしておくことにした。

「あ、あのぅ……。ほ、本日はどう言ったご用件で……?」

青嵐さんは上目遣いに、おずおずとそう尋ねてくる。

 僕は雨の向こうに見える神社の拝殿に目を向けつつ答える。

「今度、学校でテストがありますので、勉強の休憩がてら神様にお参りでもしようかと……。」

「あ、そうなんですね。どうぞ、ごゆっくり。」

雨が弱くなって来たのを見計らって、青嵐さんは傘を出る。僕も傘を畳み、拝殿へと歩みを進める。

 賽銭箱に小銭を投げ入れて、二拝二拍手一拝。この神社の神様が学問に関連しているのかは分からない。

 ただ、勉強に取り組み誠実に試験に取り組みますのでどうか見守っていて下さい。と、そう心の中で呟いて拝殿を後にする。

 要件はこれだけだったので後は帰宅するだけなのだが、今になって雨が強くなって来た。まるで、僕をここから帰すまいとしているかのように思えた。他に予定も無く、財布と携帯以外持って来ていないので手持無沙汰だ。

「あ、あのぅ……。」

途方に暮れる僕に、青嵐さんがおずおずと話し掛けてくる。

「雨、強くなってきましたし……、その、宜しければ雨宿り、していきませんか……?」

彼女は宿舎らしき建物に目を向けつつ、そう提案する。

 恐らく知り合いである僕を気遣っての提案なのだろう。青嵐さんの優しさに、心が温まる。

「是非、お邪魔させていただきます。」

内気な少女の勇気に、僕は甘える事にした。

 僕は青嵐さんの案内で宿舎に入り、従業員用の休憩所らしき和室に案内された。

「あの、お好きにしていただいて、大丈夫です……。」

畳の上に正座しつつ、彼女は僕にくつろぐように勧めてくる。

「では、お言葉に甘えて……。」

僕は気兼ねなく、しかし失礼にならない程度に足を崩す。

 雨音が近くに聞こえる和室で、僕達は無言で向かい合った。

 気まずい沈黙。青嵐さんは寡黙と言うか内気な人であり、僕もあまり話す方ではないのでこうなってしまうのも当然のことなのかも知れない。

 何を話したものかと考えていると、青嵐さんは急に立ち上がり和室の押し入れをゴソゴソと漁りだした。彼女は暫く首を傾げつつ押し入れを散策したのち、

「あ、あった……。」

と、控えめに感嘆の声を上げた。

「あの、秋月さん……。」

青嵐さんははプラスチックの小さなケースを両手で掴み、僕の目の前に戻って来る。

「これで、私と……勝負しませんか?」

ケースの中には、トランプカードが入っている。

 意外な提案にフリーズしてしまう僕を見て、彼女は慌てた様子で言葉を並べ立てる。

「あ、あの……これは違くて……。いえ、何も間違っていないんですが……。その、前に皆さんがいらした時に、楽しそうにゲームをしている所を見て……。その、憧れと言うか……羨ましいなって、思ったんです。」

なるほど、折角知り合いが来ているのだから、一緒に遊びたいと思うのも当然のことだろう。

 彼女の意思を理解した僕は、明るさを意識しつつ口を開く。

「良いですね。僕も雨が止むまでやることがありませんので、是非勝負しましょう。」

僕の言葉に、涙目になっていた青嵐さんの顔がパァッと明るくなる。

「あ、ありがとうございます……。」

「いえいえ。それより、何で勝負しましょうか……。」

青嵐さんは拙い手付きでトランプをシャッフルしつつ、うーんと天井を見上げる。

 僕も彼女のシャッフルを眺めつつ考える。トランプに置いて二人用の遊びは数多く存在するが、その殆どが気心知れた相手とやる前提のものだ。これから仲を深めていこうという相手とやる時に、最適のゲームは何だろうか。

 僕が考えている内に彼女はシャッフルを済ませ、カードを均等に並べている最中だった。

「あの……。二人だと盛り上がらないかも知れないですが、ババ抜きなんて……、どうでしょうか?」

「良いですね。やりましょうか。」

確かに、二人でやるババ抜きと言うのは、ジョーカーの持ち主が公開されているのでコミュニケーションも取りやすい。

 僕は青嵐さんの提案に、大きく頷いた。

 雨音が響く和室で、僕達はトランプを握って向かい合った。

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