アナタは何処から
テスト期間まであと数日と言ったある日の放課後。この日、僕はパソコンに向かってソリティアをしていた。先日、数学の課題をかなり早く終わらせたので、少し心に余裕があった。
この手のひとり用ゲームは、アナログでやるよりもデジタルでやる方が良く思う。何をしなくとも勝手にカードを並べてくれて、クリックするだけでカードを移動させてくれる。ひとりでやるからこそ、この手軽さがありがたい。
トランプなどを複数人でやる時は、僕はアナログ派である。カードをシャッフルする時間、均等に分ける時間を大切に思っている。
言ってしまえばゲームの進行に関係しない空白の時間。その時間を使い気心知れた相手と何を話そうか、そう考えるだけで心が弾む様だ。
『マイフレンド優。その一手は適切ではありません。』
考え事をしつつソリティアをしていると、パソコンの中から声がした。抑揚は無いが、綺麗で透き通るような声だ。
自称高性能アンドロイドのコールは、画面の端に姿を見せて言い放つ。
『この一手では、最低五手、余分な手を費やしてしまいます。一度巻き戻し、右端の三を押すと良いでしょう。』
「キミがそう言うなら、従おうかな。」
『良い御判断です。私は優秀なアンドロイドなので、この手の遊戯はお任せください。」
コールのアバター、青い髪を後ろに束ねた彼女は両手を腰に当て大きく身体を反らせた。その表情は誇らしげで、何となくかわいい子供を見る親の気持ちになった。
コールの言う通りに、僕は一手巻き戻しカードをさばき始める。彼女の名誉の為に言っておくが、このアンドロイドは常日頃から人様の判断に口を出しれいる訳ではない。寧ろ、他人の意見を尊重し静観しているほどだ。
しかし時折、何かの発作が起きたように誤った判断を指摘してくる。僕達はこの事象について、電子の存在である彼女の、ある種の存在証明の様なものではないかと考えている。
それはそうと、僕はふと気になったことがありパソコンに向かって質問を投げ掛ける。
「そう言えばずっと聞いていなかってけれど、コールは何処で生まれたの?」
『ワタシの生まれ、ですか……。』
彼女は突如無表情になり、考え込むように右腕を唇に当てている。
暫く考える仕草をした後、コールのアバターは口を開いた。
『ワタシが生まれた場所は分かっていませんが、境遇は記憶しています。R01500A4、これがワタシの識別番号でありますが……。』
「そうだったね。」
「A4と言うのは、私の製造番号になるんです。』
彼女の言葉に、僕はなるほどと頷く。
「と言うことは、キミの姉妹が後三人いるってことか。」
『正確には、四体です。私より若い番号が三体、私より遅い番号が一体します。全て女性と想定して造られているので、姉が三体と妹が一体いる事になります。五人姉妹の四女ですね。』
コールと似た様な自称高性能プログラムが残り四体いるのかと思うと、中々興味深い話だ。
コールはしっかり者の様だがプライドが高く、偶に人間を見下すようなことを言うが、他の姉妹も似た様な性格なのだろうか。
そんな僕の疑問を察してか、コールは自主的に口を開いた。
『ワタシの姉妹についての話ですね。まずは一番若番号からです。A1はお姉さんと言った感じで、人に限らずアンドロイドの世話を焼くのが好きでした。子守り用アンドロイドとしてプログラムされた所為でしょう。』
「世話焼きアンドロか……。」
『次にA2です。彼女は少しプライドが高く、些細な事で他人に突っかかる節があります。しかし困っていると、いち早く察して傍にいてくれる優しさがあります。ともに成長するアンドロイドをテーマにプログラムされています。』
『幼馴染ロイドってことかな?」
いわゆる、ツンデレと言うやつなのだろうか。コールにはない要素だ。
『A3は言い難いですが、ワタシ達の中で一番性能が低いと言わざる負えません。ロードが遅く、検索機能が充実していません。記録媒体も不完全であり、何度も学習させないと物を覚えることが出来ません。』
「……。」
散々な言い草だ。人間に近い形で、敢えてそうプログラムされたかも知れない。
『A5は、一番新しいだけあり、高品質です。少し口下手なところはありますが、設定すれば歌も歌えて絵も描けます。検索速度は、ワタシよりも早いです。クリエイター気質のアンドロイド、と言った所でしょうか。』
「一番興味深いかも知れないね。」
『まぁ、ワタシも歌くらい歌えますが。』
コールのアバターは眉を顰め、抑揚の無い声でぶっきらぼうに言い放つ。
お世話ロイドに幼馴染ロイド、ポンコツロイドにクリエイターロイドと多様な姉妹の様だ。
「ところで、コールはどういう面で秀でたアンドロイドなの?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、彼女は誇らしげに胸を張る。
『ワタシは行動解析により、人間やプログラム関係なく対象の行動を予測することが出来ます。」
「行動解析か……どういう目的で作られたんだろう?」
僕の疑問に対し、彼女は寂しそうな微笑みを浮かべた。
『人間の行動を解析し、より人間に近いプログラムを作るための叩き台とします。言わば私は、下書きの様な物です。』
そう話すコールは、自虐的に笑っていた。
僕は何も言うことが出来ず、マウスカーソルでひたすらに彼女の頭を撫で続ける事しか出来なかった。




