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テストを控えて

 そう言えば、もうすぐテスト期間に入る。学校の決まりでテスト期間中は原則部活動禁止なのだが、遊興同好会も暫く活動を休止するのだろうか。

 放課後の部室。連日の雨で泥の様になってしまっている部長に、僕は問い掛けた。

「部長、この同好会ってテスト期間中はどうなるんですか?他みたいに休みですか?」

僕個人としては、大して部活らしいこともしておらず、勉強をしようと思えば出来るので同好会の活動があった方が嬉しいのだが。

 部長は覇気の無い声で、ボソボソと答える。

「テスト期間中も、普段通り活動しているわ。尤も、家に居た方が勉強に集中できるのなら、休んでも構わないけれどね。」

僕を気遣っての発言だろうが、僕はそんな部長の言葉に対し首を横に振る。

「いえ、僕としても同好会が活動していてくれた方が嬉しいです。家に居ても、あまり勉強する気が起きないので……。」

「同感ね。私も同好会があってくれた方が嬉しいわ。そうしないとテスト前に配られる課題、正子(しょうし)に見せて貰えないもの。」

(あさひ)も、偶にはひとりで頑張って欲しいんだけどね……。」

正子先輩は文庫本を開いたまま、大きく溜息を吐く。

 テスト期間中は遊んでいないで勉強をする様にと、五教科から課題が配られる。それなりに量があるが、テスト範囲の復習も兼ねているので真面目に取り組まなければならない。

 僕のクラスでは、テスト当日に課題を提出しなければいけない。もし遅れたら、部長の様に職員室に呼び出されるのだろうか。

「ところで(ゆう)君、テスト課題はもう配られたのかな?」

正子先輩は文庫本を閉じつつ、そう聞いてくる。

「ええ、数学と英語の課題が配られました。」

「どちらか、苦手な教科はあるのかな?」

先輩の言葉に、僕は一瞬閉口する。自分の恥部を晒す様で気が進まないが、黙っていても仕様が無いので渋々と口を開く。

「……どちらもですね。数学も英語も苦手です。」

英語は単語さえ暗記できれば何とかならない事も無いが、数学だけはどうにもならない。数式を覚えて計算しても、必ずどこかに小さなミスがあり答えが合わない。それに、公式が多すぎて一々覚えていられない。

 正子先輩は文庫本を鞄に仕舞い、僕の席に近づいてきた。

「良かったら、勉強教えようか?こう見えて私、去年の成績は学年で三位だったし。」

こう見えても何もそう見えていますと、そう突っ込みたくなる。

 正子先輩は見た目からして、優等生と言った印象を受ける。賢くて淑やかで、話し方は男子のそれに似ているが、そこもまた彼女の魅力になっているのだろう。

 クラスの女子達が、正子先輩の噂をしているのを耳にしたことがある。その殆どが格好良いだとか、憧れるだとかそう言った言葉ばかりだった。男としては、正直嫉妬してしまう。

 それはそうと、僕は正子先輩の言葉に甘えて、数学の問題集を取り出す。

「数学を教えて頂いても良いですか?」

「いいよ。高校一年生一学期の範囲なら、問題なく教えられるよ。」

先輩は笑みを浮かべながら、窓際に置いている椅子を僕の傍まで持ってきた。

「さて、今日で数学の課題を終わらされる勢いでやろうか。」

先輩はそう言い、僕の隣に腰掛ける。ふわりと甘い香りがして、思わず身体が硬直してしまう。

 固まる僕を他所に、正子先輩は僕の問題集を手に取りパラパラと捲る。

「課題の葉には何処までだったかな?」

「四十七ページまでです。最初の十数ページは授業でやっています。」

「そうか。ここからなら、今日で終わってしまいそうだね。取り敢えず、始めようか。」

「はい。よろしくお願いします。」

「ふふ、良い返事だね。」

僕は鼓動が早くなるのを自覚しつつ、筆記用具を取り出した。

 僕達は隣り合わせになり、勉強を始める。

「ここの問題は、この公式を当てはめれば……。」

「これですか……。公式が多いとどれを使えばいいのか、頭がこんがらがるんですよね……。」

「数学の先生は誰かしら?」

「川村先生です。あの、背の高い……。」

「あの人なら、この公式とこの公式ね。この二つの使い方さえ覚えておけば大丈夫よ。点数だけ取りたいならね。理解したいのなら、問題文に書かれた『求められているもの』と数式を関連付けると良いかも知れないよ。」

「なるほど……。頑張ってみます。」

「素直でよろしい。」

正子先輩はそう言い、僕の頭を優しく撫でてくれる。気恥ずかしさから、身体がくすぐったくてならなかった。

 正子先輩の教え方は分かり易く、苦手な公式やグラフの問題への理解が深まった。

「あーあー、勉強と銘打ってイチャイチャしちゃってさ。」

泥の様になっていた部長が、項垂れたまま僕達にそう言って来た。少し機嫌が悪そうに見える。

「別に、イチャイチャしているつもりは無いよ。」

先輩はそう弁明するが、部長は体勢を変えずに鼻を鳴らす。

「ふん、どうだか……。私だって優君に勉強を教えるくらい出来るんだから……。」

「え、部長って勉強できたんですか?」

失礼は承知の上だったが、そう言わずにはいられなかった。

「失礼ね。私は課題を出さないだけで、テストの点数は取れるんだから。」

「具体的には、学年で一桁の順位に入るくらいにね。」

正子先輩が横からそう口を挟む。

 部長が課題をしないのは、授業時間で勉強する内容を理解してしまえるから、課題をする意味を見出せないのだそう。天才とは本当に要るものだと、つくづく感心することになった。

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