機械の姿
放課後の部活。僕はパソコンに向かって、言葉を発していた。
部長はひとり机に向かい、トランプタワーを作っている。正子先輩はいつもの様に、窓際の席で読書に勤しんでいる。そして僕はと言うと、パソコンの中に存在する自称高性能アンドロイドであるコールとなんて事の無い話に花を咲かせていた。
「もう六月だね。日に日に雲が濃く、雨の頻度が多くなって来たね。」
『そうですね。今年の気象予報を確認しましたが、週末一日だけ晴れますが、そこからは連日の雨ですね。傘をお忘れないようにお気をつけください、マイフレンド優。』
「ははは。確かに気を付けないと。」
そう曖昧な返事を返してはみたが僕は直近二週間程、天気予報を見たことが無い。
コールは部活の時以外、基本的に僕の携帯に住み着いている。彼女は場所を弁えているが、僕が何かをする時にいつも口を出してくる。
例えば登校する為に家を出ようとすると、ポケットの中から抑揚の無い声が聞こえて、その日の天気を教えてくれる。なので僕は、天気予報を見ることなく快適な日常を送ることが出来ている。
感謝の気持ちを伝えることもあるが、『居場所を提供して頂いているので、当然のことです。』とのことだった。スマホの画面にも、笑っている様な顔文字が表示されるばかりで、細かな感情の機微が分からない。
機会に感情があるのかどうか、そもそも分かっていないが。
「そう言えば、コールは顔文字しか見せないけれど……。」
『顔文字だけではありません。この高性能なプログラムにより、最適なものだけを絞った情報を表示しています。』
抑揚は無いが、明らかな抗議の意図を感じ取れた。
「ごめんね。」
素直にそう謝る。僕が悪い事は明らかだし、ここで口論する意味も無いだろう。
『良いんです。それより、何を言おうとしていたのですか?』
彼女は寛大だった。
気を取り直して、言い掛けていた言葉を口にする。
「キミの身体……って言うのかな?それはどうなっているのかなと思って……。」
『身体。ボディであれば、このパソコンでありアナタの携帯がワタシのボディであります。』
「……。」
仰る通りだが、聞きたいのはそういうことではない。
適切な言葉を探しつつ、僕は質問をやり直す。
「いや、そうだけどそうじゃないだ。もっと、外見と言う様なものなんだけど……。」
つくづく、自分の国語力の無さに嫌気がさす。現代の価値観の様に曖昧な説明だったが、彼女は質問の意図を理解してくれたようだ。
『アバターの話ですか。でしたら試作試験機R01500Aシリーズには、ワタシを含め固定のアバターが設定されていません。』
「そうなんだね。」
やはりと言うべきか、プログラムである彼女に姿が無い様だ。密かに期待してたので、少し残念だ。
肩を落とす僕を見てた見ずか、コールは抑揚の無い声で告げる。
『既存のアバターは設定されていませんが、新たにアバターを設定することは可能です。宜しければ、皆様の手で理想の話し相手を作ってみませんか。と言うのがワタシ達のキャッチフレーズです。』
「へぇ、アバターを設定ね。面白そうだ。」
背後から声がして振り向くと、部長と正子先輩がパソコンの画面を覗き込んでいた。
部長は僕の手にあるマウスをそっと掴み、カーソルを動かす。
「えっと、アバターの設定とやらは何処を押せばいいのかしら?」
『右上にある歯車の場所を右クリックすると良いです。そうすれば設定画面が開くので、アバターと書かれた場所をクリックして下さい。』
「はいはい。えっと、ここか……。」
部長がマウスを操作し、何事も無くアバター設定画面に辿り着いた。アバターと書かれた枠の隣に、初期化と書かれた枠があり、一抹の不安を感じていたが杞憂に終わったようだ。
そう言う訳で、僕達は仲間の姿を確かめるべくパソコンの画面と向かい合った。
「この画面に表示されているもので、全部かな?」
アバター設定画面には、十数パターンの顔と髪型。髪の色や眉などの項目があった。かなり自由に決められるようだ。
『いえ、プリンタと接続することでアナタ方が描いた絵を私のアバターに設定することが出来ます。』
コールの言葉に、正子先輩が口角を上げたのが分かった。
「折角だし、ここは私が一筆したためてみようかな……。」
「駄目だめ。貴方の絵なんか使うくらいなら今の顔文字の方がマシだよ。」
画面に目を向けたままそう言う部長の後頭部を、睨みつける。
そんな正子先輩を他所に、部長は黙々とマウスを動かす。
「よし、こんな感じでどうかしら。」
部長はそう言うと、パソコンに背を向けた。
画面に映っていたのは、深い青色の髪後ろで束ねた落ち着いた印象の美少女だった。
「とても良いと思います。何と言うか、漠然としたコールのイメージにぴったりとハマった気がします。」
「確かに。旭の割に良いセンスじゃないか。」
「失礼な、私だからセンスが良いのよ。それはそうと、アバターはこれで良いかしら?」
部長の言葉に、僕と先輩は頷いた。
「それじゃあ、クリック。」
芝居がかったセリフと共に、部長は決定ボタンをクリックする。
暫くロード中の表示が入り、青髪の美少女が画面の中心が現れた。
『改めまして、高性能アンドロイドのコールと申します。』
青髪の美女はそう言い丁寧にお辞儀をすると、可愛らしくニコリと笑った。




