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ババ抜き

 梅見会と言うちょっとした非日常を終え、僕達は普段の日常に戻って来た。

 何事も無い平日の放課後。遊興同好会の部室にて、僕と部長はトランプを数枚持ち向かい合っていた。

 今日やっているゲームはババ抜きである。ルールは今更説明することでも無いだろう。今回は普段と違い、罰ゲームを設けていない。ただし、負けた人が先日梅見会で場所を貸してくれた神社に、菓子折りを持って礼に行くということになっている。

 元々三人でやっていたのだが、正子先輩は早々に勝ち上がってしまい現在はひとりパソコンに向かっていた。時折首を傾げつつ、キーボードを叩いている。

 自称高性能アンドロイドであるコールを相手に、ゲームに興じているのだろうか。

「おやおや優君。余所見なんてしていていいのかしら?」

目の前で、部長が怪しい笑みを浮かべている。ハッタリか勝算あってのものだろうか。

「二人だからね。今からは加速度的にカードが減っていくわよ。」

本格的な駆け引きの始まりということだ。僕は部長の顔を見据え、虚勢を張ってみた。

「いよいよ本番ですね。もう二人なので言ってしまいますが、部長がジョーカーを持っていますよね?」

「ええ、わざわざ隠す必要も無いわよね。」

部長はそう言いつつ、手に持ったカードで口元を隠す。

「次、キミの順番よ。」

「はい。とは言え、まだお互いにそれなりにカードを持っていますからね。気楽にいきましょう。」

僕はそう言いつつ、迷いなく右端のカードを取りペアを作る。

「気楽に、ねぇ……。本番なんて言った矢先、こんな空気間で良いのかしら?」

「正直、言うタイミングを間違えたと思っています。」

「そうよね。私も、もう少し勝負が進んでから格好つければ良かったわ。」

そんなことを話しつつ、互いにカードを取り、ペアを作る。

 ジョーカーは部長の手札から動かず、気が付けば僕の手札は残り一枚になっていた。部長の手札は二枚、ここでジョーカーでないカードを今回であれば三のカードを引くことが出来れば僕の勝利である。

「そろそろ緊張感を醸し出しましょうか。」

「そうね。え-コホン。さぁ優君、私の手札は残り二枚。一枚は三のカードで、もう一枚はジョーカー。もしも三をのカードを引けたならキミの勝ち。ジョーカーであれば私の勝ちよ。」

「いや、例え僕がジョーカーを引いたとしても、別に部長は勝たないでしょ。」

僕がジョーカーを引いた場合、今度は部長がジョーカーを引くか引かないか、二分の一勝負になる。負けはしないが、勝利がが確定する訳ではない。

 心に少し余裕を持っていた僕に、部長はさらりと告げる。

「いいえ、勝つわよ。間違いなく、ね。」

「言いますね……。」

さも当然かの様な言い方に、少し戸惑ってしまう。ハッタリにしても、随分とはっきりと言うものだ。

「戸惑っている様ね。そんな事では、私に勝つなんて一年早いわよ。」

「早いのは一年だけなんですね。」

随分と甘い評価をしてくれているものだ。

 それにしても、部長が浮かべている勝利を確信した笑み。何か秘密があるのだろうか。

「気になっている様ね。特別に教えてあげましょうか、キミがババ抜きで勝てない理由を。ただし、この勝負が終わった後にね。」

「今教えてくださいよ。」

「いやよ。私の勝利が確定しなくなるじゃない。」

酷い先輩だ。しかしそうなると、ここでジョーカーを引かなければ僕の敗北らしい。

 気合を入れ直し、先輩の手札にあるカードを一枚手に取る。こういう時は、思い切りが肝心だと思っている。他の人は知らないが、僕に関しては考える程ドツボに嵌ってしまうので出来るだけ悩み過ぎない様に努めている。

「引いたカードは、ジョーカーですか……。」

肩を落とす僕を見て、部長は微笑みを浮かべていた。

「ふふ、残念だったわね。それじゃあ、私の番かしらね。」

「待ってください。僕のカードをシャッフルしますから。」

僕はそう言い、机の下で二枚のカードを素早く混ぜる。目線は部長の方をじっと見据えているため、どちらがジョーカーか自分でも分からない。

 このままカードを出せば、二分の一の勝負になる。しかし、それでは恐らく勝てないだろう。ならばどうすれば良いのだろうか。

 数秒間思考を巡らせた後、僕は賭けに出た。自分でも見えない位置で混ぜたカードを、確認せずに机の上に置いた。

 分かるのはカードの裏面のみで、自分でもどちらが正解か分からない。人事を尽くして天命を、という心境だった。

「考えたね。まさかそんな手で来るとは……。」

僕の奇策に、部長は少し口角を上げる。

「これで勝負は運に委ねられた訳ね。なら、折角だしキミが勝てない理由も教えようかしら。」

細い指でカードの裏面を撫でつつ部長は秘密を教えてくれた。

「優君はねぇ、トランプなんかをする時に大事なカードをチラチラと見るのよね。だからキミの目線を見て居ればある程度の事は分かっちゃうのよね。それとね……。」

「それと、何ですか?」

部長は机の上に置かれたカードを一枚捲り、得意気な表情で言った。

「今日の星座占い、私が一位だったから。」

三のカードを僕に見せつつ、部長は無邪気な笑みを浮かべていた。

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