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梅見会の一幕

 すったもんだあり、青嵐(あおあらし)さんは奥に引っ込んでしまった。残された僕達三人は梅の木の下にシートを敷き、満開の梅の花を愉しんでいた。

「やっぱり、お花見は良いものよねぇ……。」

暫く黙って梅の花を見ていたが、やがて部長がしみじみと呟く。それに呼応するように、正子(しょうし)先輩が口を開いた。

「現代社会はいろんなものに溢れているからね。こういう素朴ながら純粋な風景にこそ、人は心打たれるものなのかも知れないね。」

春の風が梅の木を微かに揺らす。花弁がはらりと舞い、ほのかに甘酸っぱい香りが僕達を包み込んだ。

「さてと……。」

部長はそっと立ち上がり、高らかに声を上げる。

「小腹も空いてきたし、軽食でも取ろうかしら。花見の席と言えば美味しいお酒と豊かな食事よね。」

「私達は未成年だからお酒は飲めないけどね。」

正子先輩はそう言いつつ、シートの端に置いていた鞄を近くに引き寄せる。

 花が咲き誇る梅の木の下、僕達はシートの上で身を寄せ合った。

「まず、私が持ってきたのはこれよ。」

部長が先陣を切り、鞄をゴソゴソと漁る。そして取り出したのは、袋に入れられた団子と煎餅だった。

「梅の花を見ながら、和菓子ってのも乙よねぇ。」

「良いですね。風情があります。」

「ふふん。そうでしょう、そうでしょう。」

部長は誇らしげに胸を張る。そんな様子を見て、正子先輩は自身の豊満な胸部を密かに触っていた。

「……正子、何をしているのかしら?」

「別に何でもないよ。それより次は私の番だね。私はね、こんなものを用意して来たんだ。」

何事も無かったかのように、正子先輩は鞄からあるものを取り出す。

「花見の席なら、和製の者が良いと思ってね……。」

それは小さな将棋盤だった。彼女の言う通り、咲き誇る花を見ながら将棋をするというのも、中々乙な物だろう。

「良いですね。やはりと言うかべきか、風情があります。」

(ゆう)君、さっきから同じことばかり言っているじゃない……。」

部長は少し眉を顰めながら、細い人差し指で僕の頬をつついてくる。痛くは無いが、少し喋り辛い。

「ボキャブラリーが無いんですよ。許してください。」

抵抗する気も起きずされるがままになっている僕に、正子先輩が話し掛ける。

「ところで、優君は何を持ってきたのかな?」

先輩の質問に答えるように、僕は頬をつつかれたまま鞄に手を入れる。

「正子先輩がボードーゲームを持ってくると思ったので、ゴミ袋と……これを持ってきました。」

僕が取り出したのは、花の髪飾り。目立つ部分に桜の花が施されており、花見の席にぴったりだろう。

 部長は髪飾りを前に、目を輝かせている。

「あら、随分と可愛らしいものを持ってきたのね。負けた人が、その髪飾りを着けて過ごすって感じかしら?」

「はい、そう言うつもりで持ってきました。」

「なるほど、誰も不幸にならない良い判断だ。」

正子先輩も感心した様に頷いている。誰も不幸には、と言っていたが僕が髪飾りを着ける事になったら少し不幸を感じてしまうだろう。今回の勝負では負けない様努めなければと、決意を新たにする。

 気合を入れ直す僕のポケットから、抑揚の無い声が聞こえてきた。

『マイフレンド優の功績のひとつ、それはワタシを連れて来た事です。』

コールは呆気にとられる僕達に向かって、言葉を続ける。

『高性能アンドロイドであるワタシが提案します。先程見えた少女青嵐を、この会合に招待するのです。彼女は私達と関わりたいと考えています。』

ふと本殿の方に目を向けてみると、巫女服に身を包んだ少女が物陰から此方の様子をじっと伺っている。一瞬目が合ったかと思うと、少女は慌てて身体を隠す。

 どうしてそんなことが分かるのかと若干訝しむ僕に対し、部長達は尤もらしい顔をして頷いていた。

「確かに、あの子も一緒に過ごせると嬉しいわね。」

「私も同感だ。と言う訳で優君。キミが責任もって、そこに隠れている可憐な少女を連れてくるんだ。」

「責任って……。僕に何の席にがあるんですか……?」

消極的な僕の顔を、正子先輩はビシッと指差す。

「女の子を赤面させた責任は大きいのだよ。」

「そう言う訳だから、行ってらっしゃい。」

二人に背中を押され、僕は渋々立ち上がり本殿の方に歩き出した。

 足が重い。想像するのは、拒絶された自分の姿。この短時間で嫌われたとは思いたくないが、あり得ない話でもない。意を決して、本殿の物陰に隠れた少女の声を掛ける。

「あのう……。」

「ぴぃ……。」

青嵐さんは微かに奇声を発し、身を竦ませる。怖がらせてしまったかと思いつつ、僕は言葉を続ける。

「よろしければ、此方で一緒に花見をしませんか?」

「ふぇ、あの……。」

予想外の言葉だったのだろうか、少女は言葉に詰まっている様子だ。

 目の前で同年代くらいの少女が言葉を探している。こういう状況ではどうすれば良いだろうか。考えていると、少女は言い淀みつつも言葉を紡ぎ出した。

「あ、あの、私で良ければ……。」

「そうですか、では一緒に行きましょう。」

僕は少女を連れて、二人の元に戻る。そして梅の木の下、僕達は代わる代わる将棋に興じた。

 永遠の様で一瞬の様な時間が過ぎ去り、いつの間にか夕暮れ。ノスタルジーな思いと共に、梅見会は幕を閉じた。

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