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梅見会開始

 土曜日。初めての梅見会で神社に集まった僕達は、管理人への挨拶をする為に本殿の前に立っていた。

「すみません。私達、先日連絡をさせて頂いた遊興同好会の者ですけど……。」

部長が本殿に向かって声を張り上げる。

 神社が山の中にあるので、ある程度大声を上げても近所迷惑にならないだろう。とは言え過剰なまでに声を張り上げてしまうと、山に住む動物たちを刺激してしまうかも知れないので程々が肝心だ。

「あら、出てこないわね……。いないのかしら?」

反応が無く首を傾げる部長に、僕は先程出会った少女の話をする。

「管理人がいるかは分かりませんが、巫女さんみたいな女の子ならいましたよ。」

「そうなの?私達が来た時には、貴方ひとりだけだったけれど……。」

『ワタシもいるので、二人です。』

ポケットの中から聞こえる抗議の声に、部長は苦笑いを浮かべる。

「そうだね、二人だったねぇ。それで、私と正子(しょうし)はその女の子を見ていないのだけれど。」

「そうでしょうね。僕が遊興の人間だと伝えると、名前も告げずに引っ込んでしまいましたから。」

僕がそう言うと、正子先輩が身体を近付けて来て小さな声で問い掛けてくる。

「参考までに聞くけれど、巫女っぽいと言うことは巫女服を着ていたんだよね?どう、可愛かったの?」

「確かに。ワタシもそれ気になるわ。巫女さんを間近で見る機会なんて滅多にないわけだし。歳はどのくらい?気軽に話せるくらいの年齢?」

正子先輩と部長は巫女服姿の少女に興味しんしんの様子だ。

 二人に倣って小声になるよう努めつつ、僕は口を開く。

「歳は僕と同じくらいでしたよ。と言うか、どうして小声で話しているんですか?」

(ゆう)君。人の外見とか年齢とか、あんまり大声で話すと失礼でしょう?」

「まったく。(あさひ)の言う通りだ。キミはもう少しデリカシーと言うものを理解したまへ。」

「その話題を出したのは二人でしょうが……。」

多少の理不尽さを感じながら拝殿の方に目を向けると、奥から巫女服姿の少女がパタパタと走って来た。

「お、おぉお待たせしてもも申し訳ありません……。」

随分と慌てているのか、少女は絞り出すように小さな声を上げている。

 可愛らしいというか微笑ましい様子なのだが、見ていて心配になって来る子だ。

「あぁいや。此方の方こそ、押しかけてしまって申し訳ありません。」

部長は穏やかな口調でそう言い、姿勢良く頭を下げる。

「改めまして、私立青丈高校から参りました。遊興同好会の七咲(ななさき)と申します。本日はよろしくお願いします。」

そよ風が吹き、部長の茶色掛かった髪を揺らす。その上品な仕草からは、普段から課題をやらずに怒られている人と同一人物とは到底思えない。

 失礼なことを考えていると、部長に足を踏まれた。

 痛みに悶える僕を横目に、正子先輩も頭を下げる。

「同じく遊興同好会の藤野(ふじの)です。」

僕が二人に倣って頭を下げようとすると、巫女服の少女が先に頭を下げつつ声を上げた。

「ご、ご丁寧にどうも……。わわわたくし、あの、青嵐(あおあらし)白亜(はくあ)とも、申します。か、管理人の祖父は現在、その、数日留守にするとのことで、その間は私が、この神社の、管理をま、任されております……。」

要件を言い終えて安心したのか、青嵐と名乗った少女はホッと胸を撫で下ろした。

 男女問わず、人見知りの人を相手に色々と聞いて良いものかと悩んでいると、青嵐さんは僕の方に目を向けてきた。

「あ、あの、秋月(あきづき)さんとは、先程ご挨拶をさ、させて頂きましたね。」

「ええ、そうですね。さっきは名前を聞きそびれてしまいましたが……。」

「そ、そうでしたか……。も、申し訳ありません。」

青嵐さんは慌てた様子で僕に頭を下げてきた。

 思わぬ謝罪に戸惑う僕の横腹を、部長が膝で軽く突いてくる。

「ちょっと優君、女の子イジメちゃダメじゃないの。」

「あぁいえ、そんなつもりじゃあ……。」

「意図してないにしろ、こんなに可愛い子に一方的に頭を下げさせるなんて、悪い男だね。」

二人は悪い顔をしながら僕の顔を覗き込んで来る。何か企んでいる時の顔だ。

「……僕は一体何をしたらいいんでしょうか。」

二人は一瞬顔を見合わせて、僕の方に向き直る。そして交互に話し始めた。

「まず、青嵐さんの前に跪きましょうか。」

「こうですか?」

僕は目の前で呆然としている少女の前に膝をつく。

「そしたら、キミの右手で彼女の左手を取ろうか。精巧なガラス細工に触れるように優しくね。」

「こうすればいいですか。」

御伽噺のワンシーンの様に彼女の右手をそっと手に取る。

「あわわわ……。」

青嵐さんは顔を真っ赤にして固まってしまった。

 巻き込んでしまって申し訳ない気もするが、取り敢えず次の指示を仰ぐ。

「次はどうすれば良いですか?」

「取った左手の甲に、そっと唇を当てればフィニッシュね。」

「明るい未来を祝福するファンファーレが響き渡るよ。」

「やりませんよ、いい加減にしてください。」

僕は青嵐さんの手を放し、二人に抗議する。

「二人とも最初っから僕で遊んでいるんじゃないですか。」

「まさかそんな無いわよ。ねぇ……。」

「そうそう。これは異性と仲を深める最適な方法なんだ。」

「それが最適なのは絶世の美男子だけですよ。僕は対象外です。」

僕が二人に文句を言っている間、青嵐さんは僕に握られた左手をまじまじと眺めていた。

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