街外れの神社
土曜日。普段であれば一日中自室で怠惰を謳歌しているか、本屋にでも出掛けているところだ。
しかし、この日は違った。僕は制服姿で鞄を肩に掛け、街を歩いている。目指すのは街の外れにある神社。学校から徒歩数分自宅から徒歩十数分と言ったところだろう。
先日から話しが上がっていた梅見会。今日がその日だ。
「土曜日の午前十時頃に神社に集合ね。神社の方にはもう許可を頂いているから、遊興同好会の部員ですって伝えれば良いわ。梅の花を見ながら優雅に過ぎしましょう。私は簡単な食事を持ってくるから、二人は適当なゲームでも持って来てね。それと、ごみ袋も。」
金曜日の放課後。部長にそう伝達されていた。なので夜にあらかた準備を済ませて、家を出てきた訳である。
春の風が僕の頬を優しく撫でる。天気は薄く雲がかかった晴れであり、暑くも無く寒くも無い丁度良い気温だった。
『もうすぐ、目的地に到着します。』
ポケットに入れた携帯から、抑揚の無い声が聞こえる。携帯を取り出すと、画面には可愛らしい絵文字が映っている。彼女の名はコール、自称高性能アンドロイドだ。
つい二日前から僕の携帯の中に入っている。学校に居る時は部室にあるノートパソコンに入っているが、帰る時間になると、僕の携帯に入る様になった。
画面に表示された絵文字は、笑顔を浮かべている様に見える。彼女も、この催しを楽しみにしていると良うことだろうか。そうこう考えていると、神社の入口に辿り着いた。
街の外れにある神社は学校から離れ商店街を抜けた場所にある。山道に続く入口に、古びた看板がある。看板の文字は擦れていて、何神社なのかは分からない。
インターネットの地図上にも、神社の存在は一切記されていない。
ネット上に存在していない神社の場所をコール認識しているのは、どういう訳か分からない。彼女に聞いてみても、『ワタシは優秀なアンドロイドですので。』としか答えてくれない。
名前が分からないので、僕達はいつも神社や街外れの神社とそう呼んでいる。神社の敷地に入れば名前が分かるのだろうが、縁が無く今まで足を踏み入れたことが無かった。
「道は大分荒れているね……。コール、本当にこの道で会っているの?」
少し不安になって、携帯に向かって話し掛ける。傍から見れば電話をしている様に見えるの
『はい。ワタシのデータに間違いはありません。』
彼女がそう言うのであれば、信じるしかないだろう。反論する理由も材料も無い。
意を決して、整備されていない山道に足を踏み入れる。道には雑草が生い茂り、坂道と言うこともあり歩くだけでも一苦労だった。少し歩き、立ち止まって呼吸を整える。そんなことを繰り返している内に、やっとの思いで目的地に辿り着いた。
山道を抜けた先に石階段があり、その先に赤い鳥居。そこを抜けると、規模は小さいながら立派な本殿が見えた。いずれにしよ古い印象を受けるが、清掃が行き届いているのか汚れている様子はない。
息を切らしつつ鳥居を潜り、境内に足を踏み入れる。
「はぁ、はぁ……。結構疲れたね……。」
『日頃の運動不足かと思われます。』
コールの厳しい意見に苦笑いを浮かべつつ、境内を軽く見まわす。
清掃が行き届いているのは、建物だけではない。境内全体が落ち葉ひとつ無く、スッキリとした印象を受ける。広場の隅には、満開の梅の花。桜同様、派手だがどこか儚い花が咲き乱れていた。
「……あれ?」
二人はまだ来ていないかと周囲を見渡していると、拝殿の傍、賽銭箱の近くに人影を見つけた。巫女装束に身を包んだ、同年代くらいの少女。部長か先輩かとも思ったが、どうやら違うようだ。
少女も僕に気が付いたのか、パタパタと此方に歩み寄って来た。
「あ、あのぅ……。本日は、そのぉ、ご予約が入っておりまして……。参拝であれば、その、後日に……。」
人見知りなのか口下手なのか、たどたどしく話す少女の言葉を止め、僕は深々と頭を下げる。
「あの、自分は本日お世話になります。遊興同好会の秋月と言います。」
「あ、そうでしたか。でしたら、ご、ご自由にお過ごしください。御用があれば、い、いつでもお呼びください。ではっ、し、失礼します。」
少女は顔を真っ赤にして、捲し立てるように話して引っ込んでしまった。
「名前、聞きそびれちゃったね……。」
『今後も関りがあるのなら、顔だけ知り名前を知らないのは失礼にあたります。』
コールとそう話しつつ、僕は梅の木に近づいた。神社の敷地に咲いているものなので、間違っても触れない様に少し距離を置いて下から満開の梅の花を見上げる。
綺麗だが、ひとりで見ていてもつまらない。そう考えていると、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おぉ、優君早かったねぇ。」
「本当に、綺麗な梅の花が咲いているね。こういう光景を目の当たりにすると、無性に嬉しくなってくるね。」
部長と正子先輩は二人並んで鳥居を潜って来た。部長は僕に向かって大きく手を振り、先輩は梅の花を見て微笑みを浮かべていた。
「部長、正子先輩。お疲れ様です。」
「確かに、この山道は少し堪えたわね。もう少し、日頃から運動しようかしら……。」
「どうせ三日坊主だと思うがね。」
「なんだとぅ。山道の半分くらいでバテていたクセに。」
「晴れていたからだよ。曇っていたら、こんな山道で疲れないさ。」
二人は軽口を叩きつつ梅の木の下に歩いてきた。
「さぁ、管理人に挨拶をして遊興同好会主催の梅見会を始めましょうか。」
部長の宣言で、梅見会は幕を開けた。




