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いざ勝負

 放課後の遊興同好会部室にて。

「おかえり、(ゆう)君。(あさひ)の次は私と遊んでもらえるかな?」

部長に負けた罰として缶コーヒーを買って部室に戻ると、正子(しょうし)先輩にそう告げられた。彼女は先程まで部長が座っていた椅子に腰を下ろしている。

 部長はと言うと、ふくれっ面で床の上に正座していた。

「お二人で一体、何をやっていたんですか?」

「何って……この同好会でやる事と言えば、ゲームに決まっているじゃないか。」

つい先程まで読書に耽っていた人が良く言うものだ。

「それとも……キミが部室を出て中庭まで言って帰ってくるまでの、早くて五分。遅くても七、八分の間で私達が何かするとでも思っていたのかな?」

「いや、思ってないですけど……。それで、どうして部長はそんなところに座っているんですか?」

僕の質問を聞き、正子先輩は得意気な笑みを浮かべる。

「簡単な話だ。キミが旭の命令でコーヒーを買いに行った直後、私は彼女とゲームをした。その結果、私はキミと勝負する権利を得て、彼女は椅子を失った。今日限りの話だけどね。」

僕の居ない時に、本日二度目の勝負が決まってしまっていた。それが同好会の活動内容なので文句はないが、心の準備はさせて欲しい。

 僕達は基本的に、勝負の結果を翌日まで持ち越すことはない。敬語を使うなと言われればその日限りため口で話すし、前髪を上げろと言われればその日限り前髪を上げる。前日の罰を引きずらず、新鮮な気持ちで遊びに興じることが出来るのだ。

「それじゃあ優君、私と勝負をしようか。お互いのプライドを賭けて、ね。」

正子先輩は勢いよく立ち上がり、僕に向かってトランプを突き出す。長い黒髪がふわりと揺れて、映画のワンシーンの様だ。

 プライドも何もない一般学生である僕に、勝負を断る理由は無かった。

「良いですよ。方法はどうします?いつものでいいですか?」

「いいえ……。」

僕の提案に対して、先輩は首を横に振る。

「今日は、インディアンポーカーで雌雄を決しよう。」

雌雄を決するなんて格好良いことを言っているが、その実放課後に学生二人がトランプゲームに興じているだけである。負けたとて命を危険に晒すわけでも無いし、この先の人生に何か影響がある訳でもない。なんて言ってしまうのは、無粋も良い所だろう。

 インディアンポーカーのルールは、トランプゲーㇺの中でもかなり有名な部類なのでわざわざ説明する必要も無いだろう。

「インディアンポーカーに限らず、トランプゲームと言うのは運要素がかなり強い。でもね、運以上に駆け引きの楽しみってものがある。そうは思わない?」

正子先輩は僕に語り掛けつつ、トランプを愛おしそうに撫でた。色白の細い指先がカードの裏面に描かれた模様をなぞる様にゆっくりと弧を描く。何てことない仕草の筈だが、妙に色っぽく見えてしまう。

 兎も角、僕と先輩は机の上に置かれたトランプを挟んで向かい合った。ぼんやりとした教室の中、僕達の間に緊張した空気が流れる。

「公正を期す為に、カードシャッフルは旭にやってもらおうかな。キミも、それで構わないね?」

「えぇ、異論はありません。」

正子先輩がそう言うと部長はゆっくりと立ち上がり、何も言わずにトランプを混ぜる。そして裏向きのまま、カードを一枚ずつ僕達の手元に滑らせた。

 手袋を着け直しつつ、正子先輩は勝気な笑みを浮かべる。

「それじゃあ、準備は良いかな?」

「ええ、いつでも……。」

「せえのでカードをあげるよ。せえのっ。」

正子先輩の掛け声と共に、僕達はカードを頭上にかざす。

 先輩のカードはダイヤの六。負ける確率よりも、勝てる確率の方が高そうだ。

「さぁて、私が勝った暁には何をして貰おうかな。」

正子先輩は随分と自身がある様子だ。つまり、僕のカードが余程弱いと言うことだろうか。

「私が勝ったら、明日の昼休みの時間を私のクラスで過ごしてもらおうかな。キミが上級生に囲まれてどんな反応をするのか、是非見てみたいね。」

ここまで言われてしまうと、勝負を降りたくなる人もいるだろう。しかし、余裕に満ちた彼女の表情が、僕の闘志に火をつけた。

「良いですよ。その代わり、僕が勝ったら正子先輩には僕の課題を手伝ってもらいましょうか。数学は少しだけ苦手なんですよ。」

「おや、勝負をするんだね。今更降りるなんて、言わせないよ?」

先輩は顎に手を当てて、にやりと笑う。吸い込まれそうな程黒い瞳に、怪しい光が宿っている。

 勝負を降りなかったことを後悔しそうになるが、ここで引き下がってしまっては男が廃るというもの。

「男に二言はありませんよ。僕は勝負します。」

「その心意気やよし。いざ勝負っ。」

僕達は一斉にカードを机の上に下ろす。

 僕のカードはスペードのK(キング)。先輩のカードは六なので、僕の勝ちである。

「うーん。やっぱりハッタリは効かなかったか……。」

正子先輩は自身のカードを見ながら苦笑いを浮かべている。

「ハッタリって……。随分と思い切りましたね。」

「キミの数字を見た瞬間に、九割がた敗北だと思ったんだよね。だから精一杯強がってみて、勝負から降りてくれる方に賭けたんだ。結果、私の思惑は外れたんだけどね……。」

「先輩が勝負から降りれば良かったんじゃないですか?」

「まさか。」

僕がそう言うと、正子先輩は自身有り気な笑みを浮かべて言った。

「敵前逃亡はしないよ。私は勝ち戦も負け戦も、前のめりでいたいのさ。」

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