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遊興同好会

 私立青丈(しりつせいじょう)高校(こうこう)。片田舎の、ごく平凡な進学校である。他の学校との違いがあるとすれば、少子化のあおりを受けて使用されなくなった教室が多いくらい。そしてそんな空教室の殆ど、学校側の管理が行き届いていないと言うことだろう。

 さて、そんな私立青丈高校の二階は、学校の管理が外れた空き教室が時に多い。僕が通っている遊興同好会の部室もそのひとつだ。部長が同好会を立ち上げる際に、最初に目を付けたのが今の部室なのだそう。同好会を立ち上げる時、本来であれば学校側の承認が必要なのだろうが先輩達はそう言う手続きは一切やっていないらしい。

 つまり同好会とは銘打っているものの、その実、生徒が空き教室を勝手に利用している様なものだ。しかし先輩達は見逃されている。そう言った大らかさが、この高校の良い所であり悪い所だと思う。

 青丈高校の二階。廊下の隅に部員不足で廃部になった文芸部室がある。その隣には、狭いが鍵も無く学校から管理もされてない空室がある。そこが遊興同行会の部室であり、僕達の活動拠点だ。


 いつもと変わらない平穏な放課後。僕は同好会活動の為に、部室の扉を開くと室内から元気な声が響き渡る。

「ねぇねぇ、暇だし私に付き合ってよ。何かして遊ぼうよ。」

声の主は七咲(ななさき)(あさひ)。この高校の二年生、僕の先輩であり遊興同好会の部長だ。少し茶色掛かった短い髪を揺らしながら、部室の隅に向かって仁王立ちしている。

「ねぇねぇねぇ、私の相手してよ。」

部長は懇願する様な声で、部屋の隅に椅子を置き腰掛けている女子生徒に話し掛けている。

 足を組みハードカバーを読み耽っている彼女の名は藤野(ふじの)正子(しょうし)。部長のクラスメイトであり、遊興同好会の副部長だ。いつも部室の隅でカーテンを閉めて、日光が当たらない様にした場所に椅子を置き本を読んでいる。物静かだが、話していて楽しい先輩だ。

 正子先輩は黒い手袋を着け、ハードカバーに目線を落としたまま返事をする。

「私としてもね、旭と楽しく遊びたいと思っているんだ。嘘偽りない、本心からの言葉さ。しかしだね、難しい事に、この本が私を話してくれないんだよ。いやぁ困った困った……。」

話しつつ右手で横の髪を撫でる。艶めいた黒い長髪が揺れ、高校生とは思えない色気を漂わせる。

 それにしても、随分つらつらと言葉が出てくるものだ。やはり読書量が違うのだろうか。

「むぅ……。」

部長は唇を尖らせて、正子先輩に背を向ける。

「ふんだ。いいですよーだ。貴方はそうやって活字とお友達していればいいさ。その間に、私は可愛い可愛い後輩と遊ぶんだから。」

可愛い後輩とは僕のことだろうか。この同好会には僕と先輩二人しか所属していない。消去法からして、可愛い後輩とは僕のことなのだろう。

 部長はズンズンと言ったような重々しい足取りで課題をしている僕の前に座った。部室での僕のスペースは、廊下側に無造作に置かれた机と椅子である。それに向かい合う様にして椅子が一つ置かれており、二人用のゲームをする時などは先輩たちがその椅子に座る。

秋月(あきづき)(ゆう)君。今から私と勝負をしましょう。」

先輩はそう言うと、制服のポケットからトランプを取り出した。

 課題は途中だったが、提出期限もまだ先だし何より部活動中だ。僕に断る理由は無かった。

「……勝負の方法は?」

教科書とノートを片付けつつ僕はそう問い掛ける。先輩は自身に満ちた表情で答える。

「いつものでいいでしょう。」

いつもの、と言うのは戦争というトランプゲームをアレンジしたものである。

 戦争と言うのはよくシャッフルした山札の上からカードを一枚ずつ引き、互いに見せ合って数字が大きい方の勝ちという運要素が強いゲームである。そこに申し訳程度の駆け引き要素を加えたくて、僕達の間では一度だけ引き直しが出来るようになっている。勝負する前に自身のカードを見て、気に入らなければ裏向きのまま山札の下に置く。そうしたら、カードを一枚新たに引くことが出来るのだ。結局運だけのゲームに変わりはないが、何だかんだ楽しめている。

 部長は鮮やかな手付きでトランプをシャッフルする。例えイカサマをしたとしても、僕は気付くことは出来ないだろう。部長はトランプをよく混ぜた後、机の中心に置いた。

「それじゃあ、私からカードを引くわね。」

「どうぞ。」

部長は山札の上からカードを一枚引き、一瞥してから机に伏せる。

「僕もカードを引きますね。」

そう言って、カード一枚引き数字を確認する。

 ダイヤの七。あまりパッとしないが、最弱ではない。勝てる確率は半分かそれ以下だろう、。しかし、カードを交換して今より強い数字になる保証も無い。

「僕はこのカードで勝負します。」

「オーケー、私もこのままでいいわ。」

僕達はカードを伏せたまま見つめ合う。今すぐに決着をつけても良いのだが、それではつまらない。

 僕が口を開く前に、部長が悪い笑みを浮かべている。

「さて、私が勝ったら何をして貰おうかしら……。そうねぇ、中庭の自販機まで言ってコーヒーでも買って来て貰おうかしら。あ、勿論お金は出すわよ。」

「じゃあ、僕が勝ったら部長がコーヒー買いに走るんですよね。」

「臨むところだ。さぁ勝負っ。」

部長の声に合わせて、僕はカードを表向きにする。僕のカードはダイヤの七、先輩のカードはハートのQ(クイーン)だった。言い訳のしようも無い、完敗だ。

 項垂れる僕に、先輩は得意気な顔で告げる。

「さぁて、それじゃあ早速買って来て貰おうかしら。あ、お金渡すからちょっと待ってね。」

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