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別れの予感

 放課後の部室。部長は窓の際に肘を付き、物憂げな表情で溜息を吐く。

「はぁ、春ももう終わりね……。」

僕が聞くまでも無く、部長は溜息の理由を告白する。遊興同好会のメンバー全員に対して言っている様で、誰に対してでもない春の景色に対する言葉の様にも思える。

 春の気候の様に、曖昧な話し方だった。

 窓の外を眺めて再び溜息を吐く部長に、正子(しょうし)先輩が声を掛ける。

「春が終わると言っても、まだ四月だろう?別れの寂しさを感じるには、少し早すぎるんじゃないのかい?」

先輩はいつもの様にカーテンを閉め切り、外の景色を遮断した場所にいる。手の中でハードカバーの本が開かれている。タイトルからして海外文学だろうか。英文でタイトルが書いてあるからそう思ったのだが、事実は分からない。

 部長は物憂げな表情のまま首を横に振り、囁くように話始める。

「もう春は終わりよ……。だって、ほら……。桜が散ってしまうわ。桜との別れは春との別れ。いずれまた会うその時まで……。」

詩的にも感じる文言を話す部長を見て、正子先輩は呆れた様子でパソコンに向かって声を掛ける。

「コール、ちょっと良いかな?」

彼女の呼び掛けに応えるようにパソコンの画面が白く光る。数秒としない内に、抑揚の無い女性の声が耳に届いた。

『お呼びでしょうか?マム正子。』

「キミは春の終わりを感じるかい?」

正子先輩の問いに対して、コールは淡々と答える。

『機械であるワタシには、気温や季節を感じる肉体がありません。しかし現在は四月中旬。暦の上ではまだ春が続きます。五月の七日からは立夏と言い、夏の訪れを感じる季節となります。』

「だ、そうだ。良かったね(あさひ)、まだ春を味わえるってさ……。」

先輩はそう言うと本に目線を落とし、コールも画面をオフにしてしまった。

 冷たい二人の反応に、部長は顔を真っ赤にしてる増えている。

 そして、

「もう、正子もコールちゃんも全然分かってないじゃんっ。」

部長は癇癪を起した子供の様に、先輩に詰め寄る。掴みかかる様な事をしないのは、彼女の育ちの良さからだろう。

「桜が散ったら春の終わりでしょうが。季節の移り変わりを感じつつ、寂しさと期待に胸膨らませる季節でしょうが。冷めた態度なんかしちゃってさ、そんなことをしなくても私の胸は膨らんでいますって言いたいの?」

「すまない、すまなかったからそんなに詰め寄らないでくれ。それと、私の胸の事を言うのはやめてくれ。こんなもの、あっても良いことなんてないんだから……。」

部長の勢いに押されたのか、正子先輩は本で顔を隠しつつ謝罪する。

「ふー、ふー、ふしゃー。」

「ステイステイ……。いい子だから落ち着いて……。」

興奮しすぎて猫の様になった部長を宥めつつ、先輩は懇願するような視線を僕に向ける。

 部長を落ち着かせるために何かいい案を出してくれ。そう言いたげな視線だった。

 正子先輩の頼みとあれば、断る事は出来ないというもの。僕は充分に考えないまま、部長の元に歩み寄る。

「落ち着いて下さい部長。折角の季節の変わり目ですし、声を荒げるよりも何か楽しい事をした方が得ですよ……。」

(ゆう)君……。」

部長が首だけ動かし、僕の顔を睨みつける。人間離れした、獣の様な威圧感を感じる。

 恐怖のあまり固まっていると、部長の手が僕の肩に触れる。

「キミの言う通りだね……。ここは部長としての威厳を保とう。」

まだ威厳が残っているのかは定かではないが、部長が機嫌を直してくれたようで良かった。

「それで、季節の変わり目だからこそのイベントって何かあるかな?」

「そうですね……。コール?」

なにも思いつかなかったので、自称高性能アンドロイドに助けを求める事にした。

『マイフレンド優、お呼びでしょうか?』

パソコンの画面が光を帯び、抑揚の無い声が聞こえてくる。

「この時期だからこそ出来る、イベントごとってあるかな?」

『この時期だからこそ、ですか……。桜が咲いていれば花見をして良いのですが、桜の散った気を見ても仕方がないでしょう。この時期であれば梅の花が咲いていると思いますので、梅を見るのはどうでしょう?』

「いいねそれ、採用。」

部長はパソコンの画面を指差して、声をあげる。僕は何の案も出していないが、お気に召したようで何よりだ。

 部長は僕と正子先輩をひとりずつ指差して、高らかに宣言する。

「今週末。桜との別れを惜しみ、我ら遊興同好会は梅見会を行う。予定は未定。各自、食べ物を持参してくること。良いね。」

「分かりました。」

「私も良いけど、場所に当てはあるのかな?コール、この辺で梅の花が咲いていて多少騒いでも良い場所ってあるかな?」

『学校付近にある神社の境内に梅の木が生えています。その他には、バスで二十分の場所に大きな公園があります。その他には、該当する場所は見つかりませんでした。』

「それじゃあ、神社にしようかしら。神主さんには、私から許可を頂いておくわね。」

そう言う訳で、僕が遊興同好会に入って初めてのイベントが決定した。色々と曖昧な部分もあるが、ともあれ今は楽しみだ。

 この先、梅見会は遊興同好会の伝統行事となるのだが、そんなこと当時の僕達には知る由も無かった。

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