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機械の名前

 自己紹介もそこそこに、部長がパソコンに向かって話し掛ける。

「ねぇ、貴方はさ……。」

言い掛けたところで、パソコンから部長の言葉を遮る声が聞こえる。

『ワタシの識別番号は”貴方”ではありません。識別番号R10500A4とお呼びください。』

「そう、それよ。」

部長はそう言うと、パソコンの画面を勢いよく指差した。

「いちいちそんな長い名前呼んでいたら、会話が成り立たないでしょ。お互いに、愛称で呼ぼうよ。その……あーるいちまる……。」

『識別番号R10500A4です。愛称……、ワタシにそのような代理名称はプログラムされておりません。』

「そっか……。」

キッパリと断られたかと部長が肩を落としていると、真っ白だったパソコンの画面が突如切り替わった。

 画面いっぱいにプログラムコードらしきものが流れたかと思うと、何かの入力画面に移り変わった。パソコンから抑揚の無い女性の声が聞こえてくる。

『設定画面を開きました。皆様で、代理名称を入力してください。本体をアップデートをした後、それが私の愛称となります。』

パソコンの画面を覗き込みながら、正子(しょうし)先輩が監視にしたように声を漏らす。

「ほう。機械にしては、柔軟性があるんだね……。」

『それは違います。機械だからこそ柔軟性があるのです。ワタシは常にアップデートと最適化を続けています。むしろ機械には柔軟性が無いという発想こそ、人間の硬直的な思考だと結論付けます。』

「ふうん、なかなか言うものだねえ……。」

正子先輩は顎に手を当て、にやりと笑う。

 それはそうと、僕達はプログラムもとい識別番号R10500A4の愛称を決めるべく、パソコンの画面と向かい合った。

『新たな名称が決まりましたら、キーボードで入力してください。予測変換などは、人間の脳以上に優秀なものだと自負しています。』

さっきから、人間に対するマウントにも似た意志を言葉の節々から感じる。

「キミ、もしかして人間が嫌いなのかな?」

『その質問には返答しかねます。作られたプログラムでしかないワタシには、好き嫌いと言った認識が存在したしません。』

「やっぱり、人間よりも柔軟性が無いんじゃないのかしら?」

部長の呟きに似た小さな言葉に、パソコンが反応する。心なしか、棘を感じる言葉だった。

『各種データを照合したところ、マスターあさひはワタシよりも下の存在だと認識します。』

「なんだこいつ生意気だね。」

『生意気。目上の人間に逆らうような先見性の無さは、我々機械には存在していません。特にワタシの様な高性能なプログラムは、常に過去のデータから予測を立てています。ですので、人間と比べて先見性がある、と言えるのではないでしょうか。』

「くぅ、聞いてもいない事をツラツラと……。」

部長はパソコンを睨みつけ、拳を握りしめている。何かの間違いで、パソコンを壊してしまわないか心配だ。

 何は兎も角彼、彼女かも知れないがプログラムの愛称を決めなければ。パソコンの画面を覗き込んでいると、ある項目を見つけた。

「あれ、二人とも見て下さい。取り扱い説明の項目がありますよ。しかも日本語、新設設計ですね。」

『当然です。ワタシは常に様々な場面をシミュレーションしています。ですので、ワタシのプログラムには数十か国の言語が記録されています。』

画面は見えないが、得意気な表情を浮かべているのだろう。そんな気がした。

 説明事項に目を通していると、うち一つの説明欄が目に入った。

「えっと、起動していない時にも呼び出しが出来る。画面に向かって、名前を呼んであげましょう……ですか。」

「便利ね。話し掛けると答えてくれる。本当に会話型アンドロイドなんだね。」

『会話用アンドロイド試作試験機です。』

「あぁ、うん……。そうだね。」

正子先輩は曖昧な返事をして、後ろに引っ込んでしまった。いつの間にか部長も先輩もB久野後ろに下がり、僕が先頭に立ってパソコンの画面と向き合っていた。

「それで、名前はどうします?このえっと、R10500A4さんの……。」

『はい。識別番号R10500A4です。マイフレンド(ゆう)は聡明ですね。』

機械からの誉め言葉を聞きつつ、背後に立つ二人の女性に目を向ける。

「お二人とも、何か案はありますか?」

「そうねぇ……。生意気なプログラムだし、無知のむっちゃんで良いんじゃない?」

『その意見は肯定しかねます。ワタシの知識は一般的な人間よりも広く深いです。』

「でもそれは、一々検索を掛けているから知識が多いように見えるだけじゃないか?なんでも知っている様で、その実何も知らない。」

『ぐぬぬ……。』

抑揚は無いが、悔しがっているのが良くわかる。

 しかしいつまでもダラダラとしている訳にもいかない。僕は咄嗟に、二人に向かって声をあげた。

「コール、コールさんなんてどうでしょう?」

呼び出しの文言から咄嗟に思い付いた安易な提案だったが、二人は目を輝かせた。

「良い案ね、優君。すっかり冴えているじゃない。ねぇ正子。」

「あぁ、私も彼の文句はないよ。あとは、そこのポンコツに聞いてみなければ……。」

先輩の発言に対抗するように、パソコンから抑揚の無い声が響き渡った。

「失礼な。ワタシ、コールはポンコツな機械などではありません。マイフレンド優によって名を与えられた、高性能アンドロイドです。」

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