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遊興と人工知能

 それが何処から来たのか、皆目見当もつかない。放課後の部室。僕達三人は肩を寄せ合って机の上に置かれたそれをまじまじと見つめていた。

 部長がボードゲームを仕舞っている棚を整理している際に、偶然見つけたものである。

「学校の備品かしら?」

呟きにも似た部長の言葉に、正子(しょうし)先輩は首を傾げる。

「備品にしては、随分と新しい物に見えるね。少なくとも、こんな教室に仕舞っておいて良いものでは無い。そんな気がするよ。メーカーは……書いていないのかな?」

正子先輩はそれの側面や背面を覗き込みながら、眉を顰めた。

「出所が分からないんじゃあ、かなり怪しく思えますよね。」

僕の言葉に先輩は頷く。

 僕達の目の前に鎮座しているそれ、見た目は新しいノートパソコンの様に見える。なので今後、正体の分からないそれをパソコンと仮称することにする。表面には埃ひとつなく、ずっと棚の置くに放置されていたとは思えない。

「下手に触って、爆発なんてことは無いですよね……?」

「そんな事はフィクションの中だけだと、言いたいね。しかし、絶対にないとは言い切れないのが現実だ。」

無意識に、足が一歩後退する。正子先輩も同じようだ。

 得体の知れない文明の利器に、少し及び腰になってしまっていた。そんな僕達とは対照的に、部長は楽しそうな様子だ。迷いない手付きでパソコンを開き、きーぼどに手を触れる。

「電源が切れているわね、充電切れかしら。ケーブルは……棚の中にあるかしら?」

部長はまるで宝探しでもするかの如く目を輝かせている。危機管理能力に乏しいのか、分かっていて危険は無いと判断しているのか。いずれにせよ楽天家である。

 部長はガサゴソと棚を漁る。足元にボードゲームやトランプが散らばっているので、後で片付けなければ。

「うーん、確かこの辺りからそのパソコンが出てきたのよね。だから多分ここに……。あ、これかしら。」

棚から顔を出した部長の手には、小さく纏められた充電器らしきものが握られていた。部長は意気揚々と充電器のケーブルを伸ばし、パソコンと教室の隅にあったコンセントを繋いだ。

 やはり充電が切れていただけなのか、パソコンの画面がほのかに光を帯びた。次の瞬間、真っ黒だったパソコンに画面が真っ白に染まる。

『初めまして。』

突如、パソコンの中から声が響く。透き通った女性の声だ。

『ワタシの会話用アンドロイド試作試験機識別番号R01500A4です。これからどうぞよろしくお願いします。』

戸惑う僕と正子先輩を他所に、部長が目を輝かせてパソコンに向かって話し掛けた。

「初めまして。私の名前は七咲(ななさき)(あさひ)。気軽に旭って呼んでね。」

初めて会った人、いやプログラムに対して、馴れ馴れしいものだ。部長のそう言う姿勢は心配になる反面、参考にしたいとも思う。

 部長の言葉に反応してか、パソコンから抑揚の無い声が響く。

『インストール完了。マスター旭、ファイルに登録いたしました。』

「ま、ますたー?」

部長は驚いたのか大袈裟に身を仰け反らせる。呼び捨てか、もっと可愛らしい呼び方を予想していたのだろうか。

 ふと横を見ると、正子先輩は身体を逸らし身を丸めていた。

「んふふ、マスターだってさ。んふふ……。どうやら危険なものではないようだね……んふふ。」

彼女、彼かも知れないが、パソコンの言葉が余程気に入ったのか、正子先輩は口元を押えて笑っていた。

「なんだよぅ、もう……。」

部長は不服そうに唇を尖らせていたが、何か思いついたのか悪い笑みを浮かべてパソコンに話し掛けた。

「ねぇ、私達のこと見えてる?」

『はい。ワタシは画面を通して皆様の姿を認識しております。』

「それなら良かった。この子の名前は藤野(ふじの)正子。一番偉いから、相応しい呼び方をしてあげて。」

『承知しました……。インストール完了。グランドマスター藤野、ファイルに登録いたします。』

抑揚の無い声に、正子先輩は苦笑いを浮かべつつパソコンに話し掛ける。

「グランドマスターはやめてくれ。それと、私のことも正子と呼んで欲しいかな。」

『承知いたしました。データをアップデートいたします……。アップデート完了。マム正子、ファイルに登録いたします。』

「マムか……まぁグランドマスターよりもマシかな。」

先輩は肩をすくめつつそう言った。

「ふふ、似合っているよ。マムってぐえぇ……。」

ニヤニヤしながら先輩の方を叩く部長の腹部に、いつの間にか肘が入っていた。

「ちょっと、これ……冗談抜きで痛いんだけど……。」

「私をからかった罰だよ。」

「なにおう。元はと言えば……。」

 じゃれ合う二人を横目に、僕も二人に倣ってパソコンに話し掛けてみる事にする。

「初めまして。僕の名前は秋月(あきづき)(ゆう)。キミと友達になりたいと思っているんだ。これからよろしくね。」

『インストール完了。友達……パートナー優をファイルに登録いたします。』

そう言い終えたかと思うと、パソコンから続けて声が響き渡った。

『追記します。ワタシの名前は”キミ”ではなく、会話用アンドロイド試験機識別番号R01500A4です。』

その言葉を聞き、肩を落とす。友達になる以前に、もっと互いを知り合う必要があるみたいだ。

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