メタフィクション
このエピソードは、本編になんの関りもありません。
また、物語の世界観にそぐわない発言も多々ありますので、そう言うことが苦手な方は他のエピソードを読んでいただけると幸いです。
それでも良いよと言う方は、是非お目通し下さい。
気が付くと、真っ白な空間に居た。上も下も右も左も、見渡す限りの真っ白だ。
広い空間で、周囲から雑音が聞こえてくる事も無い。出口は見当たらないが、空気もあるし腹も減らない。そんな都合の良い空間に、僕はひとり立っていた。
「あら、優君いらっしゃい。」
正面から僕を呼ぶ声がする。いつの間にか、僕の正面に部長がいた。何処から持ってきたのか、はたまた元からそこにあったのか、いつもの部室にある椅子に座っている。
「部長もここに来ていたんですね。」
「来ていたというか、元からいたというか……。まぁ良いから、遠慮せずにそこに座りなさいな。」
僕と先輩の間には、いつの間にか机と椅子が置いてある。気付かなかっただけで、元からあったのかも知れないが。まぁ部長も座っているのだし、危険も無いだろう。
僕は先輩と向かい合う様にして、椅子に腰を下ろす。
「それで、ここはどういう場所なんですかね?」
呟きにも似た僕の言葉に、先輩は曖昧な笑みを浮かべる。
「さぁね。私にもよくわからないわ。多分、意識がはっきりした夢の中だと思うけど……。」
「僕の夢の中に部長が登場したと、そう言うことですかね……?」
「んもう、優君ったらどれだけ私に会いたかったのかしら。」
きっぱりと否定は出来ないが、肯定もし辛い発言だ。
未だにこの状況に困惑している僕に対して、部長は何処か楽観的な様子だ。
「もしもこれが夢の中だとするなら、好き勝手にしていいのよね。」
「ええ、何を言ってもやっても、現実には何の影響も無いと思いますよ。」
これは深夜に見た夢であり、目覚めたときにこの空間で起こった事は綺麗さっぱり忘れ去ってしまうだろう。何となくだが、そんな気がするのだ。
ある種この状況を割り切った僕に、先輩が突拍子の無いことを話し始める。
「アニメのオープニングでさ、最後に可愛い女の子がジャンプするやつあるじゃない?」
「唐突ですね。最近あまり見ないですけど、確かにありますね。登場人物が集合して飛び跳ねるやつ。」
「私もあれやってみたいのよね。」
「意外ですね。寧ろ、格好良い感じのオープニングが好きだと思っていましたよ。」
部長がアニメを見ている事実が意外なのだが、わざわざ言うことでもないだろう。
「私はね、万にひとつこの日々がアニメになった時、オープニングのラストはジャンプで締めたいと常々思っていたのよ。」
「常々思っていたんですか……。しかし、ジャンプくらいなら僕も付き合いますよ。正子先輩だって何だかんだ言ってやってくれると思いますよ。」
「それじゃあ、今度皆でジャンプの練習でもしましょうか。あぁ言うのは、一見バラバラに飛んでいる様に見えて、その実しっかりとタイミングを計っていると思うのよ。」
「傍から見たら、バラバラに飛んでいる様に見えるタイミングを考えると言う訳ですか……。」
「ええ、そう言うこと。」
ジャンプの練習。簡単に言うが、実は凄く恥ずかしいことかも知れない。
とは言え、ここで話した事はすべて忘れるので気にすることも無いだろう。
「そう言えば、私の名前の由来って知らないわよね。」
「ええ、良い名前だと思いますが……。」
「今の遊興同好会のメンバーは、季節と時間帯の名前なのよ。私の苗字は七咲、冬の言葉である春の七草をもじったものね。名前は旭だからそのままね。」
「言われてみれば、季節と天気ですね。」
感心する僕を横目に、部長は語り続ける。
「正子の苗字は藤野。藤の花は四月から五月、春の時期に咲くからまぁこじつけよね。名前の正子は、午前零時を指す言葉だから、夜ね。一番単純なのは、優君よね。苗字が秋月だし、そのままよね。」
「でも、名前の優に時間の要素は無いじゃないですか。」
「何言っているのよ。私と同じくらいそのまま時間を現す言葉じゃない。」
部長はキョトンとした顔をしている。どういうことだと思考を巡らせて、ひとつ思い当たったものがあった。
「もしかして、名前の呼びですか?」
「そうに決まっているじゃない。優なんだから、夕ってこじつけられるでしょ。」
部長も言っているが、随分とこじつけたものだ。
「そうなると、部長が僕を誘う前に名前を聞いてきたのは、入部に相応しい名前かどうかの判定だったと言うことですか?」
「そういう側面が無いと言えば、嘘になるわ。でも、あの数分で貴方の事を気に入ったのは本当よ。」
慰めているのか、部長は僕の頭を優しく撫でている。
この年になって年上の女性に頭を撫でられるとは。夢の中とは言え、良い体験だ。
「そう言えば、この空間ってどうやったら抜け出せるんですかね。」
「どうやったら、ねぇ……。」
部長は椅子の背もたれに身体を預け、真っ白な天井を見つめる。
「ここが夢の中なら、目が覚めれば抜け出せるんじゃない?」
「目が覚めればって……。もしこのまま永遠に目覚めない可能性だってあるでしょう?」
「それは無いわよ。」
部長はキッパリとそう言い切った。いったいその自信は何処から来るのか。
「だってほら、目覚ましの音が聞こえて来たでしょう……。」
言われてみると、遠い場所から聞き慣れたアラーム音が聞こえてくる。アラームの音はどんどん大きくなっていき、遂に耳元にまで届く。
目覚めると、当たり前だが布団の上に居た。何か印象的な夢を見ていた気がするが、何も思い出せない。僕は首を傾げつつも、顔を洗いにリビングに向かうことにした。




