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少し高いシャーペン

 放課後の部室にて。僕はいつもの様に自身の定位置で課題に取り組んでいると、部長から声を掛けられた。

(ゆう)君、良いシャーペンを使っているのね。」

部長は僕の横に立ち、手元を覗き込んで来る。

「そのペン、私も同じものを使っているからつい声掛けてしまったわ。」

僕はペンを走らせていた手を止め、部長の顔を見上げた。

「少し値は張りますけど、書きやすさが違いますよね。」

僕の言葉に部長は大きく頷き、同意の意思を示す。

「そうなのよ。書きやすいうえに触り心地が良くってね……。愛用させてもらっているわ。」

部長はそう言いつつ、制服の胸ポケットから一本のシャーペンを取り出す。僕が使っているものと色違いのものだ。僕のペンは黒色、部長のものは銀色である。

「部長は銀を買ったんですね。黒よりも値段高かったですよね?」

「ええ、光っていて格好良かったからね。それに、高いと言っても数十円くらいだしね。」

小学生男子の様な感性だと思ったが、わざわざ言及することでも無いだろう。

「優君は黒だったのね。」

「黒も格好良いですからね。」

そう答えて、僕も部長のこと言えないなと内心苦笑いを浮かべた。

 僕達が和気藹々と話していると、正子(しょうし)先輩が立ち上がり僕達の元に近づいてきた。

「そのペン、そんなに良いものなの?」

「あ、先輩。そうなんですよ。このぺンは凄く書きや、太さも僕にとって丁度良いんですよ。」

「良かったら、正子もなにか書いてみればどうかしら。丁度、優君がノートを開いているみたいだし。」

部長が指差したのは、僕が課題を解いている途中のノートであった。進捗としては六割と少し程度で、部活が終わった後、家で少しやれば終わる見込みだ。

「数学の課題だね。(あさひ)もああ言っている事だし、少しだけノートを借りても良いかな?優君。」

「あ、ええ大丈夫ですよ。どうぞ……。」

僕たそそくさと椅子から立ち上がり、正子先輩に席を譲る。

「どうもありがとう。ついでにペンを貸してもらえるかな?」

「私のを貸すね。違うのは見た目くらいのものだろうし。」

部長がそう言ってペンを渡そうとする手を、先輩が素早く制止する。

「旭、気持ちは有難いのだけれど……。」

申し訳なさそうにする先輩の様子を見て部長は何かを察したのか、右手に持っていたペンを胸ポケットにしまった。そして僕の顔に目を向けてウィンクをする。

「ごめんね優君。私のシャーペン、芯が切れていたみたい。正子に貸してあげて。」

「それは構いませんが……。」

先輩の不自然な態度に言及しようとした次の瞬間、僕の首筋に鋭い痛みが走る。

 右の首を、針で刺されている様な感覚。頭が真っ白になったかと思えば、痛みは最初から無かったかのように消え失せた。

「それで……。あれ、何だったかな……。」

僕は思わず口籠る。何を言おうとしていたのか、ど忘れしてしまった様だ。

「まぁいいや。どうぞ先輩。」

「ありがとう。」

正子先輩は優しい笑みを浮かべて、僕が差しだしたペンを受け取る。そして、カチカチと芯を出しつつその黒い瞳を光らせた。

「さてと、このペンの書き心地を確かめさせてもらおうかな。」

先輩はそう言うなり、ノートにペンを走らせ始めた。

 カリカリと芯が紙と擦り合う音だけが、部室の中で木霊する。正子先輩は素早い手つきでペンを動かしている。その様子を、僕と部長は静かに見守っていた。

 五分ほどして、先輩はノートから顔をあげる。

「なるほど。二人が言う通り、良いペンだね。ノートの上で滑る様に走るし、芯も折れない。何より握り心地が良いね。」

「そうでしょう。正子も気に入ってくれたみたいで、私も嬉しいわ。」

先輩は僕にペンを返しつつ、席を立つ。

「優君、どうもありがとう。それで、調子に乗って課題をやっちゃったけど、どうするかは任せるね。」

「ええ、はい。まぁ筆跡が違うと怪しまれるので、解き方の参考にさせて貰いますよ。」

そう言いつつノートを手に取った僕は、驚きのあまり目を見開いた。」

 正子先輩の手によってノートに書かれた公式や回答、その全てがまるで僕が書いたと錯覚するような代物だった。筆跡や筆圧、記号を書く際の細かな癖まで僕のそれと酷似している。いや、酷似という表現では不適切だ。解いた覚えのない問題や書いた覚えのない公式は、僕そのものの字で間違いなかった。

「先輩、これは……。」

震える声でノートを指差す僕に、先輩は優しく微笑みかける。

「あぁ、キミの筆跡を真似させてもらったよ。よくかけているだろう?」

「ええ、ありがとうございます。」

「意外な特技だよね。優君も、夏休みの課題が終わらない時は正子を頼ると良いわ。」

「量が多い課題は、二度とごめんだよ。人の筆跡を真似るって、体力を使うんだ。」

部長の言葉に、正子先輩は苦笑いを浮かべている。

 しかし二人の口振りから察するに、部長は去年夏休みの課題を手伝ってもらったのだろうか。課題をやらずに呼び出されたりしている現状を見ると、一年生の頃からあまり変わっていないのだろう。

 あと数週間もすれば春が終わり、夏が来る。夏休みの課題も真面目に取り組むつもりだが、いざという時は頼らせてもらおう。他力本願な決心を、僕は心の中に仕舞っておくことにした。

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