↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
111/112

味覚の平均値

 昼下がりの中華料理屋。食事を終えた僕達は、テーブル席に座り談笑していた。

 店内に僕達以外の客はいなかったので、多少のお喋りなら大丈夫な様に思えた。勿論、追加注文でアイスクリームをひとつずつ頼んでいる。


「そう言えば二人に話そうと思っていたことがあるのよね。」


アイスをスプーンですくいつつ、部長は僕達の顔を見た。


「なんですか?」

「最近の子ってさ、ピーマンやトマトが苦手って言わないのかしら?」

「突拍子もない話題だね。何のきっかけでそんな事考えたんだい?」

「前にテレビでそう言う趣旨の番組をやってたのよ。全国の小学生が苦手な食べ物ランキングみたいなの。」


そんな番組があったのかと言う関心と、部長も最近の子でしょうという突っ込みを、僕はアイスと共に噛みしめた。冷たさが口内に広がり、側頭部がジンと痛くなった。

 密かに顔を顰める僕を他所に、部長は話を続ける。


「緑黄色野菜が苦手な子ってあまり聞かなくなったけどさ、エビとかカニみたいな甲殻類が苦手だって話はよく聞くじゃない?」

「確かに。甲殻類は結構好みが分かれるよね。お魚と比べて海の香りが強いから、それを魅力と捉えられるかどうかじゃないかな。因みに私はエビもカニも好きだよ。」


正子(しょうし)先輩はコップに注がれた水を飲みつつ、すまし顔で言う。

 好き嫌いが無いことは素晴らしいが、高校生になってもそれで得意気になるのは少々可愛らしい。


「ところで、旭(あさひ)や優(ゆう)君は自分の味覚に自身はあるかな?私は結構自信アリだよ。内蔵系の料理が少し苦手なだけで、割と平均値に近いと思っているよ。二人はどう?」


先輩の質問に対し、部長は苦笑いを浮かべる。


「私はあまり自信が無いかも……。基本何でも食べるのだけど、ナスが少し苦手なのよね。」


以外だと思いつつ、僕も続く。


「僕はどちらかと言えば平均よりだと思います。苦手食べ物は、鳥の皮ですね。あの嚙み切れない感じがどうも……。」

「へぇ、お肉や魚が苦手って言う人はいるけど、皮だけ苦手って言うのも何だか珍しいわね。内臓料理なんかは、甲殻類同様好みが分かれてきそうだけど……。」


部長はそう言ってスプーンの先端をこちらに向けてくる。少し行儀が悪いが、此処にそれをとがめる人はいない。

 アイスを食べ終えた僕達は、容器をテーブルの端に置き話を続ける。


「逆に、好きな食べ物とかあるかしら?先に行っておくと、私が好きなのは焼き魚と煮魚、お刺身も好き。」

「何と言うか、渋いですね……。」

「えへぇ、それ程でもないわよ。」

「いや、褒めてはいないんですが……。まぁいいや、僕はうどんと天ぷらが好きです。アツアツのかけうどんに、エビやナスの天ぷらを浸して食べるのが最高ですね。」

「キミも大概、人のこと言えないじゃないか。」


先輩は呆れた顔で、僕の顔を見つめている。確かに焼き魚を渋いと言っておいて、自分はうどんに天ぷらでは何と言うか矛盾の様なものすら感じる。


「そう言う先輩はどうなんですか?」

「私はねぇ、好きな食べ物と言われても思い浮かばないんだよね……。」


先輩は顎に手を当て、天井を見上げる。まさに知的な女性と言った感じだった。

 暫く沈黙した後、先輩は何か思いついたのかパンッと両手を合わせた。


「ひとつあったよ。好きな食べ物。」

「それだけ考えて導き出した好物って、何だか信憑性薄いわよね。」


部長はテーブルに片頬をつき、冷めた視線を向ける。先輩はそんな視線を他所に話を続ける。


「普段から食に関心がある訳じゃないからね。いざ好きな食べ物と聞かれたら、回答に困ってしまったんだよ。兎も角、私はパスタが好きだね。カルボナーラやペペロンチーノ、種類問わずに好んで食べるね。」

「ハイカラですね。」

「パスタが好きなだけでハイカラかどうかは分からないけど、どうもありがとう。」


先輩は笑みを浮かべて、コップに水を勢いよく飲み干した。

 部長も水を飲み干して、ゆっくりと席を立つ。


「さてと……。もういい時間だし、そろそろ行こうかしら……。二人とも忘れ物は無い?」

「私は大丈夫だよ。」

「僕も大丈夫です。」

「よろしい。ここの会計は私が出すから、素晴らしい部長に感謝を感じておきなさい。」


部長は財布を取り出して、レジに向かっていった。

 僕と先輩は顔を見合わせて、無言で頷き合う。


「ご馳走になります部長。」

「いつも感謝しています部長。」

「白々しいわね。正子は敬語なんか使ってさ、何がいつも感謝なのか……。」


部長はぶつぶつ言いながらも会計を受け持ってくれた。今度、何かお礼をすることにしよう。

 帰り道、僕は数歩前を歩く部長の横に駆け寄り声を掛ける。


「そう言えば僕達、昼間から制服で飲食店に入ってお喋りしていたじゃないですか。」

「そうね。」

「学校の関係者に見られたら怒られません?」

「大丈夫よ。」


部長は即座にそう答えた。


「怒られるのには慣れているから。」


彼女の言葉に安心しかかっていた僕は、思わずずっこけてしまった。


「そう言う問題ですか?」

「そう言う問題よ。」

「僕、先生に怒られるの慣れていないんですけど……。」

「これから慣れれば良いのよ。」


僕はガクリと肩を落とすが、部長は動じずに歩みを進める。置いて行かれまいと僕は慌ててその背中を追いかけるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。