若気の至り
放課後の部室。それを実感するのも、随分と久しい気がする。
体育祭に文化祭、はたまたテストがあったので多少バタバタとしていたので、ゆっくりとした放課後を過ごすのも久しぶりに感じるのかも知れない。
正子先輩はいつもの席に腰を下ろし、静かに読書に耽っている。僕と部長は向かい合って、久しぶりにババ抜きに興じていた。
「そう言えば……。」
カードを引きつつ、部長はポツリと呟く。僕はジョーカーを手放せたことに安堵しつつ、彼女の言葉に耳を傾けた。
「優君ってさ、中学生の頃に何か熱中していたものとかあるのかしら?」
「そうですね……。」
部長の手からカードを一枚取りながら、僕は答えた。引いたカードは四。元々持っていた四のカードとペアを作って、机の上に放り捨てる。
「中学生の頃は部活もやっていなかったし、こうして放課後を面白おかしく過ごすことも無かったですからね……。ひたすら図書室に入り浸って読書をしていましたよ。あ、でもカードゲームは少しやってましたよ。」
「予想通りと言うか、あんまり面白くない回答ね。」
「面白く無くても、事実なのでしょうがないですよ。」
そう言ってまた、同じ数字のカードを机の上に置く。
いつの間にか、僕の手札はゼロ枚になっていた。今回の勝負は、僕の勝ちである。
「勝つんだったら、ご褒美を設定しておくんでしたよ……。」
「優君、普段から負けてばかりだものね。」
「ぐぬぬ……。」
痛いところを突かれて、思わず呻き声を上げる。悔しいが、勝てていないのは事実なので反論も出来ない。
僕は右手の人差し指を立て、上目遣いに部長の顔を見る。
「それじゃあ、もう一度勝負しましょう。次はご褒美ありで……。」
その提案に対し、部長は笑顔で頷いた。
「私は構わないわよ。私が勝ったら、優君の恥ずかしい話でも聞かせてもらおうかしら。」
「それじゃあ罰ゲームと変わらないんじゃ……。」
「良いの。今日はそう言う気分だもん。」
気紛れな人だと思いつつも、勝負を仕掛けているのは僕の方だ。変なこだわりを見せて勝負を降りられてもつまらない。
「部長がそう言うなら、良いですよ。」
僕は渋々了承しつつ、トランプを混ぜ始める。
「僕が勝ったら、先輩の手袋を強奪してきてもらいましょうか。」
「それこそ罰ゲームじゃないの。」
そんなことを言い合いながら、僕達はカードを均等に分けて勝負を開始する。
勝負のの途中、僕はふと部長に問い掛ける。
「そう言えば、部長っって中学生の頃とか何かやっていたんですか?」
「何もやっていない訳だも無いけど、そうね……。絵をかいてみたり料理をしてみたり、そんなものかしら。」
「結構、色々とやっていたんですね。」
「まぁ、そのどれもあまり長続きしなかったけどね。」
部長は苦笑いを浮かべつつ、カードを机に上に置く。
気が付くと部長の手札は残り一枚になっていた。僕は二枚。ジョーカーを持っているのは僕である。
「さて、私の引きで決着がつく。さながら、ラストターンよね。」
部長はそう言い僕が持っているカードに手を伸ばす。
「これで最後とは思わない事です。」
「強がるなら、お好きなだけどうぞ。私は貴方の表情を見てカードの位置を知ることが出来るんだから……。」
強がりを言う僕に対し、部長はしたり顔だ。
部長の手がカードに触れる直前、僕は咄嗟にカードを自分の方に引き寄せる。
「ちょっと優君?」
「少し待ってください。」
眉を顰める部長を制止しつつ、僕は机に二枚のカードを伏せ混ぜ合わせる。
「どれだけ負けたくないのよ……。」
部長は少々呆れた表所を浮かべていたが、僕は構わずにカードを混ぜ続ける。
もう自分でもどちらがジョーカーか分からなくなったところで、僕は両手の平を部長に見せる。
「さぁどうぞ。ラストターンにはなりませんように……。」
「願望になっているじゃない。」
部長は苦笑いを浮かべ、右側のカードを指でそっと触れる。
「こっちにしようかしら。魂込めるわ。」
彼女はそう言うと、さながらランプを擦るかの様にカードの裏面を擦る。その動作に何か意味があるのか分からないのだが、僕のカードを混ぜる動作も意味がないと言えば無いので大人しく見守っておくことにする。
部長は一頻りカードを擦った後、神妙な面持ちでカードを捲る。カードに記されていたのは、四の数字。
「ふふ、私の勝ちみたいね。」
「そうですね……。」
項垂れる僕に対して、部長は誇らしげである。
「それじゃあ、私が勝ったことだし、聞かせて貰おうかしら。優君の恥ずかしい話。」
トランプを片付けつつ、部長は怪しい瞳をこちらに向けてくる。
僕から仕掛けた勝負だ。今更なかったことには出来ないだろう。
「分かりました。話しますけど、少し待っていて下さい。」
「あら、思い出さなければいけない程、少ないのかしら?」
「逆ですよ。多すぎるから困っているんです。」
憐れまれつつ、僕は思考を巡らせる。そして、話しても問題ない話題をひとつ見つけて口にした。
「実は僕……。」
「ふむふむ。」
部長は身を乗り出し、僕の顔をじっと見つめてくる。
そんな大した話でも無いので、期待させるだけ申し訳ないが取り敢えず話してみる。
「中学生の頃、自作の小説を書いていたんですよ。」
「なにそれ、見たい。」
目を輝かせる部長に、僕は手の平を突き付ける。
「残念ながら、無理ですよ。高校に上がる前に全部捨てましたもん。」
こうして白状したのも、物理的に見られるる心配がなかったからである。
「なんだ、つまらないわ。」
唇を尖らせる部長を見て、僕は何だか可笑しくなり声を上げて笑ってしまった。
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