メタフィクション その漆
このエピソードは、本編になんの関りもありません。
また、物語の世界観にそぐわない発言も多々ありますので、そう言うことが苦手な方は他のエピソードを読んでいただけると幸いです。
それでも良いよと言う方は、是非お目通し下さい。
「私達の物語のジャンルって、一応ラブコメディの類なんだけどさ……。」
もはや慣れ親しんだ、真っ白な空間。いつの間にか目の前に座っていた正子先輩は、唐突に口を開いた。
「ジャンルって何ですか……。僕達は分類に縛られながら日常生活を送っていたんですか?」
「そうなんだよ。」
困惑する僕の言葉に、先輩ははっきりと肯定の意を示した。
「私達はラブコメと言うジャンルの中で生きているけど、いつでも心は自由でいたいと思っている……。」
「これって何か深い話ですか……?」
真っ白な天井を見上げながら、先輩はうっとりとした表情を浮かべている。対面する僕は、未だに話のついていけないでいた。
何処からか現れた椅子に座り、僕達は話を続ける。
「決して深い話ではないけど、場合によっては将来に関わって来る話かも知れないね。」
「そんなに重い話ですか?」
「重い……想い話かもしれないね。」
先輩はおちゃらけた口調でそう言うと、明るい笑みをこちらに向けてきた。
「例えば優君が明日私に告白したとしよう。私は喜んでその告白を受ける。」
夢の中だからか、先輩は僕に都合の良い発言をしている。現実の彼女であれば、嫌っている訳でなくても僕の告白など受ける筈がないだろう。
先輩の口から話される前提はあくまでも虚像だが、現実でも嫌われていないと思いたいものだ。
「優、話を続けても良いかな?」
先輩は上目遣いに僕の顔を覗き込んで来る。
「あぁ、はい……。すみませんぼーっとしてました。」
「先輩の話を聞き流しているなんて、キミは失礼な後輩だな。」
そう言い悪戯っぽい笑みを浮かべて、僕のデコに自身の人差し指を当ててきた。
「あいてっ……。」
「お仕置きだよ。」
痛みと言うより驚きで、情けない声が出てきてしまう。そんな僕を他所に、先輩は話を続ける。
「それで、何だったかな……。優君と私が男女の関係になったとすると、それまで通りに遊興同好会として活動して行けるのかな……?」
「僕は……無理だと思います。お付き合いしたことを報告するにしても隠しておくにしても、部長への対応もおかしくなるんじゃないでしょうか。」
率直な意見だった。普段から三人で活動していたのに、ある日ある時ある場所で内二人が深い間柄になったら、それまで通りとはいかないだろう。
ラブコメディものの友人役や、恋愛ゲームでアドバイスをくれる友人は強靭なメンタルをしているものだと実感する。
「私もそう思う。」
先輩は頷き、話を続ける。真っ白な空間で、男女二人きり。何かが起きる事もない。
「でもさ、優君が私達の誰かに特別な感情を抱くことがあるかも知れないよね。」
「まぁ、無いとは言い切れませんよね……。」
実際、前世でどんな得を積んだのか分からない程に、僕の周囲には美人が多い。自分は恵まれている環境に居る事を、つくづく実感させられる。
僕が腕を組み天井を見上げていると、前方から声が続く。
「私とか良いんじゃない?」
先輩は唐突に自身の顔を指差して、そう言って来た。
「え?」
言葉の意味が理解できずに呆けてしまう。首を傾げている僕に、先輩は念を押すように言葉を紡ぐ。
「だから、私で良いんじゃない?キミが恋をする相手。」
「恋って理屈で落ちるものじゃないでしょう。」
恋だから、落ちるではなく堕ちるなのかも。
気を取り直して、僕は先輩の言葉に耳を傾ける。
「確かに、恋って言うのは本能的に落ちるものだけどさ、この空間のこと分かっていないことは無いキミじゃあないだろう?」
「まぁ、そうですね……。」
ここは夢の中でのみ訪れる場所で、目覚めた時にその記憶は残っていない。しかし、脳の奥底にここで話した記憶が残っているのは事実であり、この場所に来る度に今までのことを思い出していることが動かぬ証拠だ。
つまり、ここでの心象も脳のどこかに残っていると言うこと。ここで恋をしたとすれば、目覚めたときに忘れていても、その人に恋をしたと言う感覚は残っていると推測される。
「僕がここで先輩と深い関係になれば、現実でも無意識に意識してしまうとうことですよね。」
「そういうことだね。ある意味、無意識を装って恋を自覚する訳だ。」
言葉の意味は何となく理解できるが、随分と漠然とした表現だった。
「だからここで私とキスでもすれば、明日以降キミの意識は私に釘付けのなるだろうね。」
先輩はゆっくりと立ち上がり、僕の頬に手を伸ばす。
いつもより近い距離で見つめ合う。それは先輩と後輩と言うより、ひと組の男女のと言った感じだった。
「どう、キスでもしてみる?」
僕の瞳をじっと見つめる先輩の誘いに対し、僕は首を横に振った。
「折角ですけど、浅慮しておきます。」
「一応、理由を聞いても良いかな?」
「成り行きで恋するのも良いかも知れませんが……。今はまだ、いつも通りの日常を過ごしていたいんです。」
「そうか……。」
先輩は僕の顔から手を離し、再び椅子に腰を掛ける。
「残念だよ。」
「すみません……。」
謝る僕に、先輩はひらひらと手を振る。
「謝らなくていいよ。元より、こんな所で物語が進展してもつまらないしね。まぁでも、心の準備くらいしておくことだね。それがいつになるかは分からないけど。」
先輩は微笑みを交えた表情でそう言って、言葉を続ける。
そろそろ目が覚めそうだ。恋愛に準備などあるかは分からないが、心の準備だけでもしておかなければ。
言いたい事を言い終えたと言いますか、これ以上は本編に影響しそうですので、まことに勝手ながらメタフィクションは一旦最後にさせて頂きます、




