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テスト勉強

 文化祭を終えると、すぐにテスト期間に入る。十一月の頭にはもう中間テストが行われる。

 遊興同好会も例外ではなく、放課後に集まりはするが基本はテスト勉強に取り組んでいる次第である。

 放課後の部室にて、僕達はせっせとテスト課題に取り組んでいた。正子(しょうし)先輩はいつもの席で問題集を解いており、部長は机に肘を付き苦しそうな表情で問題に向かっていた。


「何だか珍しい気もしますね。」


僕はペンを置き、部長に声を掛ける。


「ん、何が珍しいのかしら?」


部長はふと顔を上げて、キョトンとした表情で僕の方に目を向ける。


「いえ、普段は正子先輩に強制されていたりするので、自主的に課題をする姿が珍しいなと思いまして……。」

「馬鹿にしているのかしら?」


眉を顰める部長を見て、僕は身を震わせる。


「いえ、馬鹿にしているとかではなく……。何と言いますか……。」


本心として、嫌味や揶揄いの意図は一切なく、ただ珍しさから出た言葉だった。

 慌てる僕を見て、部長は苦笑いを浮かべる。


「まぁ良いわ。実際、やるつもりも無かったしね……。」


溜息交じりに話す部長を見て、僕は思わず口を開いた。


「やるつもりなかったんですか?いや、深い意図はなく……。」

「良いのよ。課題を踏み倒そうとしていたし……。釘、刺されちゃったんだけどね……。」


部長は心底忌々しそうにそう呟いた。

 しかし、釘を刺されたとは。呆然とする僕の肩に、いつの間にか背後に立っていた先輩の手が触れる。


「旭(あさひ)さ、今日のホームルームの終わりにね、担任の先生に耳打ちされたんだよ。課題を出さなかったら留年っての、あれまだ継続中だからなって……。」


先輩は困ったような笑みを浮かべて、そう話す。


「なるほど……。」


呻きにも似た声を上げつつ机に向かう部長を見て、僕は言葉を漏らす。

 いつまでも部長のことを観察していても仕方がないので、自分の課題をすることにする。


「ところで、優(ゆう)君も課題中だよね。分からない箇所があったら、私が教えようか?」


机の上に広げられた課題を覗き込み、先輩は魅力的な提案をして来た。


「良いんですか?丁度、授業だけだと理解できない所があって……。」

「相変わらず、数学に苦手意識があるみたいだね。」

先輩はそう言いつつ、椅子を持って来て僕の隣に腰掛ける。

「さて、どのくらい分からないのかな?」

「大まかな概要は理解できているのですが、いざ問題を解くとなるとどうにも進まなくて……。」

「そっか。それじゃあ、問題文を読み解く所から始めた方が良いかもね。早速、この問題からやってみようか。」


部長は僕に自身の身体を密着させ、問題文に目を向ける。

 少し距離が近い気がして、身体が硬直してしまう。


「優君、ちゃんと問題を見てるの?ほら、ここに何を求めるかが書いてあるよね。」

「え、あ……。はい。」

「もう、ちゃんと聞いておくれよ。キミは別としても、同じ説明を繰り返すのは面倒だよ?」


先輩は普段のクールな様子とは異なり、お茶目な仕草を見せる。

 まるで勉強デートみたいだ。そんな邪なことを考えてしまい、慌てて首を横に振る。


「おやおや優君、行ったに何を考えているのかな?」


先輩はニヤニヤと口角を上げ、持っていたペンで僕の頬をつついてくる。


「にゃ、何も考えていませんよ……。」


頬をつつかれている所為で、少し言葉がおかしくなってしまう。それはそうと、話したとしても良いことは無いし僕が抱いた邪な考えは隠しておくことにした。

 ふいっと横を向く僕にに、先輩は楽しそうに笑い掛ける。


「ふふ。こうしていると勉強デートみたいだね……。」


先輩の言葉に、僕はびくりと肩を震わせる。

 まるで僕の考えを見透かされている様で、少し怖い。


「なんて、冗談だよ。じょうだん。」


先輩は密着させていた身体を離し、けらけらと笑う。気のせいだろうか、少しテンションが高い気がする。

 そんな僕達をじっと睨みつけ、部長は小さく舌打ちをした。


「旭、行儀が悪いよ。」

「ふん。部長である私を放っておいてさ……。いいわよいいわよ。そうやって、ずっと二人でイチャイチャしていればいいのよ。」


憎まれ口をたたく部長とは対照的に、先輩は心底楽しそうだ。


「部長である旭がそう言うなら仕方がない。優君、勉強をしながらもう少しイチャイチャしていようか。」


そう言って、彼女は再び僕に身体を密着させる。女性特有の柔らかい感触が身体に触れ、僕の身体を緊張してしまう。


「さて優君。早速問題を解こうか。え、勿論このまま勉強するに決まっているだろう?キミさえ嫌でなければ、だけどね。キミは嫌なのかな?」


上目遣いにそう言われ、思わず口籠ってしまう。


「えぇっと……。僕はその、まぁ嫌では……無い、ですが……。」


言葉に詰まりつつもそう答えると、先輩はにこりと爽やかな笑みを浮かべた。


「それなら、問題無いね。話を戻すけど、この問題の解き方はね……。」


結局、それから約一時間程、先輩と身体を密着させたままテスト課題に取り組むことになった。

 部長は終始不機嫌な様子で、時折唸りつつも沈かに課題を説き進めていた。

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