文化祭 そのに
お化け屋敷を後にした僕は、時間を持て余して口内を彷徨い歩いていた。
三年生の方はステージ発表と模擬店と半々と言ったところだろうか。体育館に行けば少なくとも退屈はしないだろうが、何となく行き辛い気分。
何をしようかと考えて、取り敢えず教室に戻ってみる事にする。階段を登っている途中、上の階から騒ぐような声が聞こえて来た。何か問題が起こったのか、それとも有名人でも来ているのだろうか。
階段を登り、一年生の廊下に目を向けると、教室の前で人だかりができているのを見つけた。少し興味が湧き、人だかりの外から中心を覗き込んでみる。
「あっ……。」
思わず声が出てしまい、慌てて口を噤む。
人だかりの中心には、部長の姿があった。部長は普段通りの制服姿ではなく、血の付いたナース服。お化け屋敷の宣伝だろうか。手には、「二年B組、お化け屋敷やってます。」と書かれた看板が握られている。
しかし、ナース服姿の部長は新鮮だった。足の部分など露出が多く、目のやり場に困るがそこがまた同級生にウケているのだろう。
同級生は男女問わず部長の元に群がっており、「可愛い」や「衣装は手作りですか?」など、はたまた「お名前と連絡先を……。」なんて口々に言っている。傍から見ても大変そうだが、部長は嫌な顔ひとつつせずに対応している。
「衣装は同級生が作ってくれたの。連絡先は教えられないけど、是非二年生の教室に遊びに来てね。」
部長の言葉に、小さな歓声が上がる。さながら、アイドルとそれを囲むファンサークルの様だった。
僕が人だかりの一番外側から眺めていると、くるくる回りながら手を振っている部長と目が合った。部長も僕に気が付いたのだろう、何も言わずに僕のいる方向にウィンクしてきた。僕に向かってだと分からない様に、しかし確かに僕の存在に気が付いていると言うことを伝えたかったのだろう。
僕は小さく頷き、人だかりに背を向ける。これ以上、ここに居ても仕方がないだろうと考えたのだ。
一年生の廊下を後にし、二年生の廊下も素通りする。部室で退屈を凌ごうかとも考えたが、人の目についてしまうのは良くないだろう。どうしたものかと思考を巡らせた後、解放されている図書室へと向かう。
文化祭中だからか図書室の中は閑散としていたが、ひとりの時間を過ごすのには丁度良かった。鼻歌交じりに本棚を見て回っていると、海外文学の棚に見知った少女を見かけた。
「やぁ白亜ちゃん。奇遇だね。」
僕がそう声を掛けると、名前を呼ばれた少女はビクリと肩を震わせこちらに振り返った。
「あ、優さん。こんにちは……。」
白亜ちゃんは僕の顔を見ると安心したように息を吐き、深々とお辞儀をした。
「こんにちは。今日は文化祭の見学かな?」
僕の質問に対し、彼女はコクリと頷いた。
「はい。課外活動の一環で……。志望校のイベントに参加するとともに、校内の雰囲気を知っておこうと言うことで……。」
「そうなんだ。それでどう?この高校の雰囲気には慣れそうかな?」
また頷くかと思ったが、僕の予想に反して白亜ちゃんはふるふると首を横に振った。
「いえ、文化祭なので普段よりも賑やかなのは分かっているんですが……。」
不安そうな表情を浮かべる少女に、僕は励ましの言葉を贈る。
「きっと大丈夫だよ。初めは少し困惑するかもしれないけど、日が経つごとに少しづつ慣れてくるから。それに、僕や部長達もいるから、いざとなったら頼ってくれていいし……。」
「あ、ありがとうございます。」
白亜ちゃんは礼を言い、深々と頭を下げてきた。別段大したことも言っていないので、少しむず痒くなってしまう。
話題を変える。
「そう言えば、教室の場所なんかは大概把握しているのかな?」
最近では、事前に校内の地図を配ったりする高校もあるらしいが、この高校はどうなのだろうか。
「あ、いえ……。この高校の中についてはよく分かってなくて……。ついさっき、やっとの思いで図書室を見つけたんです。」
「そうなんだ。それじゃあさ……。」
有難迷惑になるかも知れないと思ったが、当たって砕けろの心持で提案することにする。
「僕で良ければ、校内を案内しようか。教室の中までは入らないけど、大体の場所くらいは……。」
嫌な顔をされたらどうしようかと思ったが、僕の不安は杞憂に終わったようだ。
「はい。是非よろしくお願いします。」
白亜ちゃんは眩しい笑みを浮かべて、三度深々と頭を下げてきた。僕はひと安心して、可愛い後輩を連れて図書室を後にした。
一階にある三年生の教室から始まり、二年生の教室、家庭科室、社会科準備室などを順に見て回る。最後に三階の一年生の廊下に来たところで、クラスメイトの姿が目に入った。彼等は僕の隣に居る白亜ちゃんを見るなり、早足に近づいて来た。
「おいおい秋月。彼女を連れて交際を散歩とは、随分と良い御身分だなぁ?」
やくざの様な口調になりながら、クラスメイトはそう声を掛けてくる。
「彼女じゃなくてただの後輩。授業の一環で文化祭を見学に来たみたいなんだよ。」
「ほーん。」
同級生は顎を撫でつつ、白亜ちゃんをまじまじと見つめる。彼女は視線に当てられ恥ずかしくなったのか、身体を小さくして僕の後ろに隠れてしまった。
同級生は苦笑いを浮かべ僕の肩を軽く叩くと、その場から立ち去ってしまう。
彼には後で弁解しておこう。そう決意した僕は、気を取り直して校内案内を続けた。




