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幾つかの問答

(ゆう)君、十の質問をしましょう。」

部長は僕の肩を叩きながら、眩しい笑顔でそう言った。

 放課後の部室。正子(しょうし)先輩はいつもの様に教室の隅で読書に耽っており、僕は時間を持て余しハンドスピナーを回していた。そんな時に振って降りた先輩からの提案に対し、僕は頷き言葉を返す。

「構わないですけど、念の為にルールを確認しても大丈夫ですか?」

ルールを知らない訳ではないが、こう言うゲームで互いに認識の齟齬があっては楽しみも半減だ。前以ってルールを確認しておくことで、認識の擦り合わせを行うのが得策だろう。

「良いわよ。それじゃあ、私からゲームのルールについて説明させて貰うわね。」

部長はそう言うと、僕と向かい合う様に席に着いた。

 彼女はひと息つくと、得意気な顔で話し始める。

「十の質問と言うゲームは、道具の類を一切必要としない、人と時間さえあれば出来るゲームと言うのは知っているわね。遊び方だけど、まずは出題者と回答者に分かれる。そして出題者は何でもいいから何かひとつ思い浮かべるの。具体的な制限はないけれど、共通で認知があるものが良いわね。回答者が知らない物を思い浮かべても、つまらないからね。ここまでは良いかしら?」

「はい。僕の認識と差異はありません。」

「次に、回答者が出題者に思い浮かべてものに関する質問をして、出題者は『はい』か『いいえ』で回答する。それを十回繰り返して、出題者が思い浮かべた正解に辿り着く。勝ち負けを競うというより、コミュニケーションを目的としたゲームよね……。」

ふうと、説明を終えた部長は大きく息を吐く。

「これが大まかなルールだけれど、他に何か質問や提案はあるかしら。」

「いいえ。何の不平不満もありません。始めましょうか。」

 改めて、僕達は机を挟んで向かい合う。

「それじゃあ始めるんだけど、私が出題者で良いかしら?」

部長の言葉に、僕は頷き口を開いた。

「勿論。僕は先輩の思考を当てさせていただきます。」

「あら、凄い自身ね。期待しているわよ。それじゃあ……。」

部長は唇に指を当て、天井を仰ぐ。かと思えば顔を下げて僕の顔をじっと見つめてきた。

「お題はもう決まったから、いつでも質問してきて良いわよ。あ、ある程度何でも答えるけど、私の身体なんかについては回答を控えさせてもらうわよ。良いわね。」

「言われなくても、そんな質問しませんよ。部長は僕のことを何だと思っているんですか?」

「可愛い後輩だと思っているわよ。真面目だし揶揄い甲斐があるし。」

おまけに不思議なくらいゲームに弱いし。と、部長は小さな声で呟く。気に入ってもらえるのは嬉しいが、釈然としない。

 何はともあれ、ゲーム開始だ。僕はひとつ目の質問を投げ掛ける。

「部長が想像しているそれは、生き物ですか?」

まずは在り来たりだが決して無駄にならない質問。これで大まかに回答を絞れるはずだ。

「はい。生き物よ。呼吸はするし身体も動く。」

部長は『はい』『いいえ』以外に、ひと言加えて回答する。

 ここからは、続けて質問を投げて選択肢を絞っていくことにする。

「それは人間ですか?」

「いいえ。人間ではないわね。知恵はあるのだろうけど、文明があるかは怪しいわね。」

「それは小さな動物ですか?」

「何をもって小さいとするかは、私の基準で決めさせてもらうわね。はい、小さな動物よ。」

「部長はそれを、可愛いと思っていますか?」

「はい。文句なしに可愛らしいわね。」

「それは人間の目で尻尾が確認できますか?」

「はい。尻尾が見えるし、触れるわね。」

「それの尻尾は長いですか?」

「種類によるとしか言えないわね。因みに私は長い方が好きね。」

「それは四足歩行ですか?」

「はい。人間の様に、二本足で歩くのは難しいでしょうね。」

「それは愛玩動物ですか?」

「はい。可愛らしいんだもの。愛さなくてどうするの?」

「それは高所から落下しても平気ですか。」

「はい。私が知る限り、ある程度の高さなら降りられるわね。」

これで合計九回の質問をした。この時点で、僕の中で答えはかなり固まっていた。初めてやるゲームと言うことで、部長も簡単な答えを用意したのだと思う。

 兎も角、僕は最後の質問を投げる。

「このゲームの結果で、僕達のどちらかが罰ゲームを受ける事はありますか?」

「いいえ。あくまでクイズ形式のコミュニケーションよ。罰ゲームなんて考えていなかったわ。」

先輩は優しい笑みを浮かべて、最後の問答に入る。

「それで、合計十回の質問に答えた訳だけど、貴方の中で答えは纏まったかしら?」

「ええ、大丈夫です。」

僕は大きく深呼吸をして、回答を口にする。

「部長が想像していたのは、猫ちゃんで間違いないですね?」

「……はい。大正解よ。」

正解の告知を受けた僕は、流れるように部長とハイタッチを交わした。何の打ち合わせもしていなかったが、お互い通じ合えたのが嬉しかったのだ。

「案外、答えられる物なのね。」

部長は苦笑いを浮かべ首を傾げる。彼女の意見に、僕も同感だった。何のヒントも無い所から、こうも政界に辿り着けるものなのかと素直に感心した。

 今更ながら、僕達の遊び方が十の質問というゲームの正しい遊び方なのかは分からない。ただ、不完全だとしても十分楽しめたので、今後もこの遊び方をしていこうと思う。

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