アウクスブルク帝国への招聘16
「メガヒール!!」
黒い刃が私の身体を蹂躙するが、私の回復魔法が刃が傷つけたそばから治癒する。
「(糞! 私の魔法剣でも歯が立たないのだなんて、何て魔力高いの?)」
「(クリス、おかしいよ。いくら何でも魔力による防御が高すぎる。何かあるよ)」
「(そうです。クリスさんに斬れない魔族なんていなかった)」
確かに、前世程魔力は無いが、前世では加減していた。あまり魔力を乗せすぎると、周りへの影響が大きすぎるからだ。前世で最大魔力で魔法剣を使ったら、このディセルドルフの街ごと消し飛んで、クレーターができる。だから、そこまで魔力を込めて魔法剣を使った事はない。つまり、さっきの私の魔法剣は前世の魔法剣と同じ威力の筈なのだ。
「(クリス、死ぬ気で頑張ってね☆)」
アルが気軽に言う。これでも私、全力なんですけど!! アルが代わりに戦うべきだと思うんだけど! アルの身体がボロボロになっても、ちゃんと治癒してあげるから、その方が理にかなってるんですけど!)」
「(嫌だな、クリス。さっきは僕が死にそうになりながら戦ったんだから、今度はクリスでいいじゃないか?)」
「(いいわけねえだろ!)」
とはいうものの、千日手だ。黒い刃は去り、身体の治癒が終わったが、魔族も私も決定的な打撃を与える事ができなかった。リッチの攻撃魔法は私には通用しない。黒い刃の切り刻まれるそばから治癒する。一方、私の魔法剣も攻撃魔法も、この魔族には効かない。
「(ひぃぎゃああああああああああああああああ!? また攻撃くらった!?)」
だが、魔族はお構い無しに黒い刃で私を攻撃してくる。戦局を打開する手段を考える余裕もないほど、魔族の刃は執拗に私の身体を痛めつけた。
「メガヒール!」
何度目かの回復魔法をかけたが、ようやく私は刃を避ける手段を考えついた。探知のスキルを展開、そして、瘴気と魔素が濃くなる場所を正確に把握、そして、刃が現れた否かで、瞬歩で、回避する。
ガガガガ! と黒い刃と私の剣がこすれ合う嫌な耳障りな音を奏でる。しかし、魔族の刃を避ける術は身に付けたものの、依然として千日手だ。魔族は知能が低いからか、単調に何も考えずに攻撃を続ける。
「鬱陶しい、鬱陶しい。さっさと死ねばいい、貴様らは死ななければならない。この死の指輪に人の怨嗟の籠った瘴気を閉じ込めれば我らが魔王様は復活する」
そうか、死の指輪か!? 死の指輪。実在するとは思わなかった。呪いの魔道具最大のアクセサリー、死の指輪は魔力を増幅する。そして、身に付けたものの魂を食らい、人の怨嗟を食らい、魔王を復活させる魔族側のキーアイテムと言われている。それをこのリッチが身に付けているわけか。だから、私の魔法剣が効かない程の魔力を身に付けたか。
「クリスさん……私、見ていられません。こんなにボロボロになって…私にも助成させてください! クリスさんがここまで死にそうになるのを見てるだけだなんて、私には……」
アン、いい子。本当にアンはいい子だ。前世でも今世でもホントにいい子。
「アン、そんなこと、言わないで。絶対に……絶対に勝つから……!」
「クリスもそう言っている事だし、楽しく観戦しようよアン」
アル、彼氏のお前がそんな事いっちゃダメよね? 後で雷撃1000回ね。私は後のお仕置きの回数を増加させて、アルにお仕置きする事を想像して喜々となるが、とりあえず、魔族に対する決定打が思い浮かばなかった。
「クリス、今の君は聖女だよ。忘れてるよね?」
「ありがとう、アル、私、忘れてた!」
「勝ったら、キスしてあげるからね!」
なんだよ、この上から目線。アル、めっちゃムカつくんですけど…でも、私はキスの魅力に屈した。
「約束よ。アル、勝ったら、キスしてよね。できれば、優しい言葉もかけてね」
「やだな。僕はいつも優しいじゃないか」
嘘つけ、さっきのとても彼女へのものとは思えない言葉はなんだ? ゴキブリ扱いしといて良く言うよ。でも…そんな幼馴染のアルにキスしてもらう為に頑張ろうとする私…健気すぎない?
「リッチの魔族さん。貴方の魔力の正体を教えてくれてありがとう。既に死の指輪に魂を乗っ取られているのね。だから、そんな自爆発言をしたのね。貴方の負けよ」
「敵、敵だ。殺さないと、殺さないと……」
リッチは相変わらず理性を喪失している。勝った。私は確信した。知性が無いリッチなど、どんなに魔力が高くとも敵では無い。
「ライトニングギガボルト!!」
光魔法の攻撃魔法を使う、虚無の力で…そう、アンデッドの最大の弱点は炎では無く、聖なる光魔法なのだ。それに、魔道具である死の指輪も光属性の攻撃に弱い。
「殺さないと、殺さなければ。殺せば殺すころ殺したい、殺せころころころころころ……」
魔族は錯乱している、チャンス、私は魔法剣に魔力を込める、聖なる魔力が光り輝き私の周りに聖なるオーラが漂い、光の粒子と虚無の青い粒子が降り注ぐ、
「魔法剣、飛燕斬、神聖灰燼-激!!」
私の剣は魔族の右手の指を目指して振り下ろされた。そう、死の指輪を目指して。今のリッチを倒す事はできない。しかし、光魔法を纏った魔法剣でなら、指輪なら砕けるだろう。
「そんな、あと少しなのに、嫌だ、嫌だ。我の命をかけたのに!」
魔族も鈍い思考能力の中で、自身が陥っている窮地と、そもそも彼の目的が果たせない事に気がついた様だ。ここは一気に押す、死の指輪の無いこの魔族は通常の魔族、ならば!
「魔法剣、飛燕斬、神聖灰燼-激!!」
再び魔族を私の魔法剣が襲う、そして、
「ぎゃああああああああああああ!?」
耳ざわりな悲鳴に、思わずみな耳を塞ぐ、人外の者の声はやはり人外、この世の物とは思えない声を聞いてしまい、みんな顔色が悪い。
しかし、私の魔法剣に身体を分断された魔族は私の剣から発せられた聖なる光の魔法に包まれて、そのおぼろげな陽炎の様な姿がボロボロと崩れ始めた。
「(勝ったか?)」
「(クリス、楽勝じゃん!)」
「(流石クリスさん!)」
「(流石ですなクリス殿は)」
アンとエドヴァルドさんはともかく、アルにそんな事言う資格ない。私が死にそうになって戦っているのに、高みの見物である。これは相当周到に罰を与えないと…
「私の魔王様が! 指輪が、指輪が指輪が指輪指輪が指輪が指輪が指輪が指輪が指輪が指輪が指輪が指輪がああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「(ぴぇい……)」
ちょっと怖い。このリッチ、見た目はおぼろげな骸骨だけど、はっきり見えない分、気持ち悪さが半端ない。可視化されないとかえって怖い。
「魔王なんて復活させない。この世界は私が守る……人を害する事でしか生まれる事ができない存在など、存在を許さん。私が絶対にね!」
「クリスさん素敵!」
「クリスがきれいごと言ってる。外聞を凄く気にする性格だからな」
「いやだああああああああああああああああああああああ!!!!」
「いい加減滅んでくれない? 死者の王リッチ、お前は何処まで人から遠ざかれば気が済むの?」
「うがぁああああああああああああああああああああああああああ」
「最後まで人から外れて滅ぶのね。哀れ」
私はこの魔族を哀れと思ったが、今は冷たい顔をしているだろう。許されない事もある。この魔族は元は人だった筈だ。だが、彼に人として戻る必要などない、「じゃ、消えて」と心の中で冷たく呟くと、私は魔法剣を再び振り下ろした。
人外の存在はほの暗い姿を光り輝く聖なる光の魔法に飲まれて、邪悪な存在を世界に一片たりとも残すことなく完全に消えていった。。
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