アウクスブルク帝国への招聘17
魔族が滅んだが、日が落ちようとしていた。もうじき夜だ。しかし、魔族が滅んだ事で、魔物の軍勢は尻尾を巻いて森へ帰っていった。誰も追う物はいない、既にディセルドルフの街は無数の魔物の軍勢に取り巻かれ、辛うじて侵入を防げていた。
私と三人の従者、アル、アン、エドヴァルドさんも皆、私と同じ様に虚無の光の粒子に包まれて青い髪へと変わっていた。
この後、どうなるのだろうか? 魔族は倒したものの、盛大に虚数魔法使い、青の魔導士だという事を暴露してしまった。なまじこの地方が青の魔導士にゆかりがある地であるから、多くの者が私の存在を知っている。そして、ここは帝国の領土なのだ。この街の人が私を守る為に…という時は自身で命を絶とう。アル達はどうなるのだろうか? アルは一緒に逃げようと言ってくれた。でも、もし、討伐対象が私だけなら、私が命を絶てばいいだけ。それにアンやエドヴァルドさんを巻き込みたくない。
「クリス、君、状況によっては自身の命を絶つつもりじゃないのか?」
ぎくり、アルは鋭い、流石幼馴染、私はアルに心を見透かされて焦った。
「い、嫌ね…私がそんな殊勝な子だと思う?」
「思うよ…君はなんだかんだ言って、人がいい…」
「…」
「そうです。クリスさんは悪ぶっているだけの小悪党ですから!」
「そ、そんな、クリス殿が小悪党だ等! 我らのアイドルクリス様ですぞ!」
「み、みんな…」
私は言葉に詰まった。もう、この4人で国外逃亡するか? でも、この大陸に帝国の力の及ばない処なんてない。大陸外だと、誰も行った事の無い人外未踏の大陸しかない。そこへ4人で行くのか? 生きていけるのか? もし、人が住まない、魔物や魔族しか住まない地なら、無理だ。
「クリス様、とりあえずディセルドルフの街に戻りましょう。日が暮れる」
「わかりました。中隊長、とりあえず帰ります。後の事は後で考えます…」
「あまり思いつめるな。我ら騎士団はクリス殿の味方だ」
だから、マズいのよ。万が一、中隊長が知っていて庇っていたのなら、アクイレイア王国は彼を処分する必要に迫られるかもしれない。王国でも私は討伐対象なのだ。例え、青の魔導士が無実だとわかっていても、帝国への手前、そうなる可能性が高い。
街が近づくと、街の正門が開かれており、既にたくさんの住人が出てきていた。街の騎士団、冒険者、そしてそれを上回るたくさんの普通の住人達。そして、
「やはり、聖女様は青の大魔導士様だ! 救世主として、再びこの地にお戻りになられたぞ!!」
「青の魔導士様、二度もお救い頂いてありがとうございます!」
騒ぎは大きくなり、正門からたくさんの人々が出て来てしまった。そして、たくさんの街の住人が私達を迎えてくれた。私はこの人達を守れた。聖女として当然の行いができた。私は嬉しく思った。これで、マジで私の罪は消えたわよね。うんうん、消えた。自分でもそう言ってあげたい。あの人達に手でも振ってあげよう、そう思いながら、速足で街へとを歩いて行く。
すると、ちょうど日没の時間となり、空が真っ赤に染まった夕焼けへと空の色が変わった。あの時もこうだった様な気がする。そう、500年前もだ。茜色の細長い雲が色づいた西空に広がる。思わず空を眺めてしまった。
日没ね。良かった。夜は魔物の時間、もう少し遅ければ街に被害が出たかもしれない。そう思いながら、西の空を見上げていたが、再び、街を目指して歩く。だんだんと街に近付いてきて、住民たちの顔が見えるくらいの距離になったので、にっこりと営業スマイルで手を振ろうとそう思って、手を振ると…
なんだろうか? なぜか住民たちは皆、驚愕したかのような顔で私を見つめていた。そして、
「ええぇ!?」
何? まさかの人外の私の力が怖くなって、驚愕の顔をしてるのかな? そう思って、ちょっと悲しい気持ちになり、顔を下に俯かせてしまった。でも、もう一度、ちらりと皆を見つめると…
私の目線に合わせて、人々がばたばたばたと地面にうずくまり始めた。立っている者は1人もいない。
「はい?」
私は訳が分からなくなった。500年前はただ、街の住人と手を取り合って、喜びあった。
「何これ?」
一体どうなってんの? と思って住民の一人に近付いて、声をかけようとすると、住人はその場に跪き、女神様に祈るような姿勢でこう言った。
「……ああ、青の魔導士様」
「…… 伝承通りだ、何と尊い事か」
私は察した。前世の私の戦闘服とそっくりのアクレイア王国の騎士服を着て、空に聖龍、傍らには聖獣ロデム、そして伝承通りに3人の従者を引き連れて、青い髪をなびかせて微笑んでいる古の魔導士アリシア……そう、500年前の光景が今、再現されたのだ。
だから、住民たちは私の姿に伝説の救世主、青の魔導士を重ねたのだろう。いや、本人なんだからしょうがないけど…
「皆、聞け! このお姿を良く覚えておくのだ! そして未来永劫いい伝えるのだ! 我らの救世主様に感謝の念を忘れてはならない。未来永劫忘れてはならないのだ!」
糞団長ボリス君、何を言い出す?
「青い髪、空には聖龍、地には聖獣、そして3人の青い髪の従者を引き連れ、何もかもが伝説の通り。ここに本物の青の大魔導士様が蘇ったのだ!」
この街の領主にして騎士団長のボリスが皆の前で演説を始めた、
「ちょっと、冗談じゃないわ」
ホント、正式本物認定しないでよ。せめて他人の空似路線も考えてたんだから! 私だけじゃないの! アルやアン、エドヴァルドさん、それにもしかしたら中隊長の命もかかっているの!
「あ、あの…ボリス騎士団長、できれば内密にして欲しかったのですが…」
私はボリス団長の傍らに行くと、そう言って、抗議をした。ちょっと、口がとがっていたかもしれない。ちょっと、困ったのである。
ボリス団長は私を視界にとらえると、流れる様な所作で、私の傍に跪き、こう言った。
「あなたが帝国の仇敵となっているのは皆存じ上げております。それにも関わらず、貴方様は我が街をお救いになられた。これを感謝しないでおられるのでしょうか? あなたにとってこの街は何のゆかりもない街……だからこそ、あなた様は尊いのです。私達はあなたのその尊さを理解しています。そして、このご恩を決して忘れはしません。私はいつか必ず、あなたにこの恩をお返ししなけれなりません。今世だけでなく、500年前の分も含めて…青の魔法使い様クリスティーナ様、いやアリシア様。騎士として、あなた様に誓います」
「えっ、ちょ……!」
ボリス団長は流れる様に素早く私の手を取り、私の手の甲に口づけをするかしないかの所作をする。これは正しく、騎士の誓いだ。地方とはいえ、貴族の領主が私に一生の忠誠を誓ったのだ。
それを見たディセルドルフの街の人々が、感極まって騒ぎ出す。私は焦っていた。まさか、私に帝国と戦争しろという事?
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