アウクスブルク帝国への招聘11
「ブラッディナイト」
その言葉が発せられるとアンの周囲に血で作られた無数の剣がアンに殺到した。
「アン、逃げて!」
私は思わず叫んだ。このままではアンが殺られちゃう。私も参戦しよう。魔族相手に律儀に決闘のルールを守る必要などない。
「アリシア様、ここはお任せください。この様な雑魚にアリシア様のお手間をおかけしません」
「雑魚だと? 貴様、この高貴なる我を雑魚だなどと、何処まで不敬か!」
「だから言ったでしょ? 不細工に人権なんてないのよ」
「貴様、重ね重ね、許せん」
「それはこちらのセリフよ」
「だが、どう戦うつもりか? 我は死なぬぞ? それに貴様の技をまねた我の技、おかげで我は最強格の魔族となれたわ」
「最後まで立っていた方が勝者、それだけの事よ」
「お前に勝機が無い様に見えるがな?」
「それはどうかしら?」
アン、大丈夫? この魔族は光魔法の攻撃を食らって消滅しても、おそらく直ぐに蘇る。死を超越した存在。そんな魔族は聞いた事がない。永遠に戦い続ける事なんてできない。つまり、この戦いはアンが消耗した時点で負けてしまう。アンには悪いけど、アンが消耗してきたら、救援に入ろう。しかし、この魔族、どう滅ぼせばいい?
「百花繚乱!」
「ブラッディナイト」
アンと魔族がそれぞれの技を繰り出す。しかし、
「くっ……!?」
アンが吐血する。アンの身体は、予想外の処から血より生まれた剣によって貫かれていた。
「アン、今、回復してあげるから」
「アリシア様、気遣い不要です。この程度の魔族相手に…ハンデです」
「…ア、アン」
アンが怒れる顔でそう言った。いつも穏やかで怒った顔なんてあまり見た事がなかった。でも、今のアンの顔は怒りに満ちていた。
私が躊躇している間にも、魔族の剣はアンを傷つけようと襲い掛かってきていた。アンに重症を負わせたからだろうか? 魔族は嬉々としてその剣の数と勢いを増しているように見える。殺しても完全に止めを刺す事ができない。さっきから何度も魔族は滅びている。技はアンの方がはるかに上だ。だが、直ぐに蘇ってしまう魔族。そんな状況で、アンは重症を負いながらも尚を必死に魔族と戦い続けていた。
アンは憎悪の形相で戦いを続けているのだが、そこに余裕はまったく感じられない。これまでの肉体的損耗、魔力の損耗、体力の疲労、続く苦痛や度重なるダメージという精神的疲労、それらは今もなお現在進行形で蓄積していて、アンの動きに大きな影響を与えている。
「(アンの動きが悪くなっている)」
アンの全身には、剣で貫かれた出血が見て取ることができ、戦いの為に身体を動かすたびにポタポタと地に血の滴を垂らしていた。
「ほう、美しい血だな。これは良い香りだ。極上の血だ」
「あら、貴方、そんな悠長な事を言っていていいのかしら? さっきから段々復活の速度が落ちているわよ」
はっ! そうか! いくら魔族が不死身で、直ぐに復活すると言っても、瘴気が枯れたら復活は不可能だ。再び瘴気が貯まるまで待つ必要がある。そしてここは聖石が埋まっている街なのだ。ここで瘴気が枯渇すれば魔族は滅びる。
「はははっは、そんな事を期待していたのか? 馬鹿か貴様? 我はあと1000回は生き返る事ができるぞ!」
「そうなのね? あと1000回でいいのね?」
1000回という絶望的な数字を聞いても尚もひるまないアン、私は思わずアンに叫んだ。
「アン、お願い! 助成させて! このままじゃ、アンが死んじゃう!」
「アリシア様、私ごときをご心配頂き、ありがとうございます。しかし、この程度の魔族にアリシア様のお力は不要」
いや、私でも勝てる自信が無いんですけど…もしかして、無理ゲーになってない?
「我があと1000回死ぬ前に貴様が死ぬのは明白ではないか? 貴様気は確かか?」
「確かよ。あなた、私の技の事、良くわかっていない様ね?」
「何だと?」
「貴方は500年前に私と戦っておくべきだったわね。そうしたら、私も貴方を滅ぼす好機に恵まれなかったかもしれない」
「なんだと? ごふっ……」
「効いてきた様ね。貴方、綺麗な花には棘があるって諺知ってる? 私の花の棘にはね。毒があるのよ」
「ど、毒だと? げふっ……」
「ええ、遅効性の猛毒がね。そろそろ効いてきたから、あなた何度も死ぬわよ」
「なんだとぉおおおおおお!」
魔族の身体は急速に真っ黒となって行った。そして、その体積を拡大させてドロドロのスライムの様な形になった。
「醜い姿ね。あなたに相応しい末路ね」
形を何度も変えるスライム状の魔族であったが、スライムが自然と集まって、形作ろうとしている。この戦いは、もうすぐ終わろうとしているのだろう。
「はっ、はははっ! 我はその程度では死なぬぞ! 魔族の耐性がある……耐性がある限り、我は毒に抗してやる。痛みは我慢すればいい。そして、貴様を徹底的に追い詰める! 疲労して、何もできなくなって無力感をかみしめながら死ね!! 貴様の次は、そこの500年前の娘を殺してやる!! もちろん楽に殺すのだなんて思わないことだなぁ……!!」
「毒が一種類だけだと思っているの?」
「何だと?」
「私の特別性の毒は100種を超える。その中でも、細胞を食い尽くすヤツがそろそろ効いてくる筈よ」
「ぎやぁあああああああ」
魔族は叫び声をあげると、魔族は再びスライム状になった。おそらく苦痛と細胞を食われる事に抗しているのだろう。
だが、再び、魔族は形を魔族の形に戻した。そして、
「我の敗北だ。人間ごときとはいえ、あっぱれぞ。良い戦士と殺し合えて満足だ」
「貴様に満足などされてたまるか! 貴様は戦士等ではない、ただのゲスだ。さっさと死にさらせ、この糞豚野郎!」
アンらしく無い言葉。これは前世の私の従者、アンの前世のアルベルティーナの言葉だ。
魔族はスライム状に再びなり、収縮と拡張を続け、しばらくすると、最後の瘴気を使いきり。消えて逝った。アンと魔族の因縁の対決はここに閉幕となった。
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