アウクスブルク帝国への招聘5
ばたばたと人が忙しく動く音と鎧がすれる音。この地方の騎士団達が集まってきたのだろう。
バタン
大きな音がして、帝国第十三騎士団長ボリスが騎士の制服と鎧に身を包み現れた。彼の麾下の騎士団員す4名も一緒だった。
「聖女、クリスティーナ殿、お伺いしたい点があります」
きたよ。尋問か? ここは敵意の無い事と夕方襲って来る魔族と魔物の軍勢に備える事が第一優先にすべきだな。隠しておいても、戦闘中に虚数魔法を使えば、髪が青く染まり、私の正体はバレる。後ろから攻撃されるのは御免こうむるし、この地方には私の逸話が残されている。理解してもらえる可能性は高い。
「何ですか? ボリス騎士団長様?」
「とぼけないで頂きたい。その青い髪、その容貌、やはりあなたは伝説の…」
「そうです。私は伝説の暗黒の大魔導士です。でも、信じてください。私は言い伝えと違って勇者様を魔族に売ったりはしていません。それどころか、魔王を倒したのは私なのです」
「そこまでご存じという事はやはり、貴方は青の大魔導士様なのですね?」
彼は私を青の大魔導士と呼んでくれた。これ、信じてくれるパターンよね?
「私を信じてくれるのですか?」
「信じるも何も、300年前の帝国との戦いの折、当時のこの国の聖女が予言しています。300年の後、再び青の大魔導士が現れ、帝国からこの自由同盟は独立できると」
ええっ? 私、そこまで考えてないわよ? ていうか、それって、私に帝国に喧嘩売れって事? 止めて、そこまでの覚悟無いわよ。そもそも、私、戦争とかに巻き込まれるのは嫌よ。魔物や魔族は殺せても、人を殺した事はないの!
「あの、私、帝国と戦争するつもりなんてないですよ。信じてくれるのは嬉しいのですが、独立については諦めてください」
「わかりました。青の大魔導士様がそうおっしゃるのなら、我らはそこまでは希望しません。しかし!」
ボリス騎士団長はバサりとマントを翻すと、
「我が自由同盟第一騎士団長、そして我が旗下の騎士団員、その全てが貴方様に忠誠を誓います」
そして、騎士団長と彼の麾下の騎士団員全てが私の前に跪いた。
「や、止めてください。今の私は一騎士団員に過ぎません。そんな大げさな!」
「クリス様、諦めろ。彼らはクリス様の為に死ぬ覚悟だ。騎士は主君に対して絶対の忠誠を誓う、騎士とはそういうものだ」
中隊長がそう言って諭すが、勘弁して、騎士ってメンドクサイな!
「クリス、君はこの地方で何をしたか、思い出すといいよ。彼らが君に忠誠を誓うのはおそらくそれが原因だ」
「わ、私、500年前にこの街を救ったけど、でも、どうしてそこまで?」
「我らディセルドルフの街は500年前に青の魔導士様に救われました。近隣の街も、そして、たくさんの魔法を言い伝えられて、この自由同盟はそれまでアクレイア王国が独占していた魔法を教わり。森を開拓して、共和国との通商路を切り開いて発展したのです。その御恩は忘れた事はございません。300年前に帝国と戦争となったのも、発端は青の魔導士様に関するものです。帝国は300年前の戦争の折、小国だった我ら自由同盟国に対して多くの無理難題を突き付けました。その中でも、絶対了承できない事が、青の魔導士様を暗黒の魔導士として、歴史を書き換えるという事だったのです。大恩人である方にその様な事!」
それ位、良くね? って思ったけど、本人がそれ言ったら駄目なヤツよね。
「ありがとうございます。でも、私の為に戦争をするのだなんて事は止めてください。私は魔物や魔族をたくさん滅ぼしました。しかし、人を殺めた事はありません。人と人が殺しあう戦争など、私の為に起こして欲しくありません」
いや、本音は戦争して負けたら、私、斬首処かもっと酷い仕打ちされそうなので、勘弁して!
「我らの命の心配をされておられるのか? 我ら騎士団、もとよりその命はあなた様に捧げております。300年前より我が騎士団は今の時の為に精進して参りました」
「気持ちは嬉しいのですが、私はボリスさん達だけでなく、帝国の人達にも死んでなんて欲しくありません。だから、私の為に戦争だなんて、止めてください。そんな事をするのなら、私は自身で、自身の命を絶ちます」
ああ、私、何て健気…自分に酔っちゃった。
「な、なんと心の美しい…やはり青の大魔導士様は言い伝え通りの聖なるお方!」
いや、だから戦争のだしにするの止めて。お願いだから、私を陰から助けて、帝国の刺客からの攻撃の肉壁になるだけにして。マジで困るわ。
「まあ、今のクリス様は聖女でもあるから、聖なる心がより昇華されたのかもしれん」
「そういえば、青の大魔導士様は聖女様でもあらされたのですね」
そういえば、そうだった。
「クリス、僕は感動したよ。もし、戦争となりそうだったら、自身の首を帝国に差し出せ…だなんて」
「(ちょっと、アル? 何言ってんの? 私、そこまで私言ってないわよ!?)」
「(クリス、任せてよ。ここは君の好感度を爆上げした方がいい)」
そういうものか? どうも、アルの悪どさは健在の様だ。
「クリスはもし、この戦いで、クリスが青の魔導士だと気がつかれ、帝国が挙兵する様な事があれば、自身の首を帝国に差し出して欲しいと言っているんです。クリスはそういう子です」
「な、なんと!? 我らを助けて頂いた上、その様な…」
あれ、ボリス君が泣き出してしまった。でも、確かにそこまで言われたら、逆にできんよな。流石アル、あくどさが半端ないわ。
「そうです。ボリス騎士団長、いざという時はお願いします。できれば一瞬で、お願いします。痛いのは嫌なので…」
といいつつ、涙ぐむ、最近覚えた女の子のチート技だ。アンから教えてもらった。まあ、アンのは男の子を落とす為のものだったが。
「わかりました。そこまでおっしゃて頂けるのなら、私は心を鬼にして、主君の命を…」
ちょ、ちょっと待て! 主君の命でも、それは駄目だろ! こいつ主君の命なら、主君の首撥ねるのか? そんな斜め上の決意するな! 逆に犬になり切るとそうなるのか?
「ボリス団長、今はそれどころではない。クリス様の事は後程話そう。我らアクレイア騎士団も想う処がある。それに今、この街に危機が迫っている。クリス様が正体を明かしたのもその為だ。先ずは戦いの準備だ」
「この街に危機とは一体?」
「ロデム、説明してあげて」
再び私の影からロデムが現れる。
「こ、この魔物は?」
「私は魔物ではありません。黒の森を守る聖獣にして、クリス様の従魔です」
「クリス様の…それに人語を話すとは、これが伝説の聖獣か?」
「その通りです。彼はこの街を守る助けをしてくれます。これからこの街に起こる事を説明してくれます。つまり、500年前と同じ事が起ころうとしています」
「5、500年前と同じ、つまり、ふ、再び、せ、聖戦が…」
そんなごたいそうな名前つけたのか? あれ? 当時は軽くひねっただけなんだけど。
こうして、ロデムは黒の森で起きた事、そしてこれからこの街に起こる事を説明してくれた。
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