アウクスブルク帝国への招聘4
私はこの街の為に戦う事を決めた。このディセルドルフの辺境都には10000人もの人々が住んでいる。私一人の首と引き換えなら安いと言うものだろう。自分でもいっそ落としてしまって欲しいと願った首だ。私の罪、冗談じゃなくて、これできっと消えるよね? 私は覚悟した。虚数魔法使いである事を明かす事を、
「ロデム、最短で魔族軍は何時来襲すると思う? あなたなら分かるでしょう?」
「クリス様、おそらく今日の夕暮れ時かと思われます。夜は魔族の時間です。その夜を前にしてこの街を襲うものと」
「そんなに早く? 今日の今日なのか?」
アルが驚きの声をあげる。
「アル、今までありがとう。わ、私…」
ああ、言えない。私は自分の死を覚悟して、ひとつだけアルに言っておきたい事があった。アルの事が好き…今ははっきりわかる。私はアルの事が好き…何故こんな簡単な事が以前はわからなかったんだろう? 愛されたい? いや、私は愛しているのだ。ただ、それだけの話…愛されるかどうかは別の問題だ。
「ア、アル、大事な話があるの、わ、私…」
「クリス、僕はクズだけど、君に対しては少しだけ誠実になれると思うんだ。それに、君の方からなんて言わせないよ」
「……」
アル、何よ。私、勇気を出したのに、何で、言わせてくれないの? それにこんなに私に期待をさせないでよ…もし、冗談だったら、私、本気で泣くわよ。
「…クリス、僕は君の事が好きだ。愛してる」
アルは私の肩に手を置いて、私の顎を手で上げて、顔を間近に寄せた。私がアルを見上げる形になった。目の前にアルの顔が…私はそっと目を閉じた。キス、ちゃんとしてくれるわよね? これでしてくれないと、爆死ものの恥ずかしさだわ。
アルはそっとキスしてくれた。
「まるで、命を投げ出すみたいな様子だね。クリスは僕が必ず守る。そう誓ったんだ。初めて会ったあの日から」
「でも、アル。あなたには先に白状しておくわ。私は暗黒の魔法使いなの。アルも知っているでしょう? 500年前に勇者様を魔族に売り、勇者様に滅ぼされた伝説の暗黒の大魔導士…私、その暗黒の大魔導士の生まれ変わりなの」
「青の大魔導士は魔王を打倒した真の勇者だよ。僕は知っているのさ、君が勇者と聖女達に見捨てられてどんな仕打ちをうけたかを…僕はあの時も君を助ける事ができなかった…」
「ア、アル、何を言っているの? あなた、ホントにアルなの?」
「僕はアルだけど、半分はイリスだよ、アリシア」
「―――――!!!!」
驚いた。アリシアとは私の500年前の名前、そしてイリスとは私の従者で、私の為に最後まで庇って戦い続けて死んでしまった私の幼馴染!
「ア、アル、あなたイリスなの? 嘘よね? そんな事が、だって…」
「黒の森で龍に食われて死にそうになった時、記憶が蘇った。つい最近なんだ。自分の前世の事も君の前世の事を想い出したのも…」
「アル、なら分かるわよね。私が何をしようとしているのかを? あなたは私の前世の青の魔導士が無実な事を知っていてくれているけど、この時代の人達は知らない。でも、私は使うつもりなの…虚数魔法の力を」
「僕は君の生き方を応援するよ」
「応援するけど逃げるんじゃないの?」
「そんな事する訳ないじゃないか、言っただろ? 今度こそ君を守りぬくって。例え帝国と王国の全てを敵に回しても、僕は君の味方だ。戦いが終わったら、一緒に逃げよう」
「ア、アル、ありがとう…」
私は思わず涙してしまった。こんなに嬉しいのは、私が追放されてもアルが一緒に来てくれた時、あの時に優しい言葉をかけてくれた時以来だ。
「もう、遠慮する事はないさ。全力で虚無を吸収しなよ。僕もそうする」
「う、うん。ありがとう。アル」
私はそれまで止めていた虚無の吸収を始めた。それは私の髪が絶えず青く染まる事を意味する。何時でも虚無の魔法を使える様に虚無を吸収していると私の髪は青く染まる。
「いきましょう。アリシア様、イリス様」
ロデムが私達をせかす。あ~いいところなんだからもう少し、噛み締めさせてー
ディセルドルフ城に向かう街中で次々と人々が私を見て振り返る。以前の様にちらちらと見るのでは無く、はっきり認識したのだろう。何故なら、私の髪は青く染め上がっている。誰もが私が暗黒の大魔導士だと気がつくだろう。
「あ、青の大魔導士様だ」
「アリシア様だ!」
「救世主様だ!」
人々は口々にそう叫んで、私達の前の道を開けていく。いいわね、優越感に浸れるわね!
城に戻ると私は直ぐに中隊長の処に向かった。途中の帝国の騎士達が私の顔を見ると、あっけにとられている様だ。
「中隊長、馬鹿犬! 至急戦闘準備しなさい!?」
「ク、クリス!? なんだ、なんて事するんだ! 自分の正体を自分で晒すヤツがいるか!」
「…やっぱり、中隊長は気がついていたんですね?」
「ああ、クリス様が冒険者だった頃、飲ませて聞き出した。ずっとかくまってやろうと思ってたのに、一体どうしたんだ?」
「ロデム、出て来て」
ロデムは人目を避ける為、私の影に入ってもらっていた。
「な、なんだ? この魔物は?」
中隊長は驚いて、手元の剣を握りしめる。しかし、
「まってください。この子は私の従魔で、聖獣ロデムと言います。人に危害を加えたりしません」
「せ、聖獣だと? そんなのはおとぎ話の…」
「…正龍は実在しましたよね?」
「確かに…」
「彼は黒の森の守護聖獣でした。しかし、魔族に敗れて、この地まで逃げてきた様です」
「はい。私は聖獣として、黒の森の大魔石を守護してきました。しかし、魔族に敗れ、黒の森を追われました。魔族は大魔石の瘴気を無制限に吸収しています。瘴気を十分に吸収したら、この街に魔物を引き連れて、襲い掛かって来るでしょう。人の騎士よ。私に力を貸してくれ。今の私だけではもう、魔族に勝てない」
「聖獣が喋った!」
「ロデムは聖獣です。魔物じゃありません。だから人語位喋りますよ」
「わかった、そうか、なら、俺達人間の方こそ、聖獣の力を貸して欲しい。この街が危険に晒されているのなら!」
「もちろんです。クリス様、よろしいでしょうか?」
「もちろんよ、ロデム、助けてくれてありがとう。必ず勝つわ、500年前と同じ様に」
「クリス、聖龍も呼んだ方がいいんじゃないか?」
「ええ、そうね、日没前には来る様に呼んでおくわ」
私の決意とは裏腹に城内が騒がしくなって来た。鎧の金属音、人が走る音…そうか、中隊長だけでなく、この街の帝国守護騎士団にも説明をしないと、考えていなかった。彼らはこの街出身とは限らない…
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