14話 試験3日目 朝
前回:――被告はたまたまあった材料でトマトそばを作ったと発言しており……――
翌朝、今までもあった、人に囲まれる状態を避けるために、エルフさんの部屋にヴァン達が来て、朝食を取ることになったんだけど、ヴァンが朝食を作っている間に、ドアがノックされた。
「銀狼は、此方に居られるかな。昨日の話の続きがしたい」
私がドアを開けると、昨日までとは違って、モーニングを着たヴィンセントさんが2人を連れて、ドアの前に居た。
ワタシがヴァンを呼ぶと、中に入れるように言われた。3人を部屋に招き入れると、少し張り詰めた雰囲気が部屋に漂い始める。
「とりあえず、お茶飲むか?それと、朝飯は食ったか?今日が予定入っていないからって、何もしなくていい訳じゃ無いが、それは分かるよな。どうせならお前らも明日の準備に、一緒に来るか?」
彼1人だけ、全然緊張とかしてないのかな?他の人は、凄く張りつめた顔をしているんだけど……特にユータは、顔が真っ蒼になってる。
「ほんとー?お茶ほしい。ごはんはさっき食べたよー」
……2人だった。ハルちゃんも、マイペースなのかな?
「申し訳ない。然し、矢張り昨日の話を考えてはみたのだが、此れと言った答えが見つからないものでね。其れで直接来てみたのだが、迷惑だったろうか?」
「いや、迷惑じゃない。それよりも聞きたい事って一体なんだ?」
お茶を出しながら、ヴァンは質問をしている。多分、お茶は来ると思って、先に準備していたんじゃないかな。準備がいい事を疑問に思って、3人はアイコンタクトを取ってる。
「聞きたい事と言うより、貴方達の為人を知りたい。ハルに素晴らしい武器を与えてくれたのは有難いのだが、此れ程の物をそう易々と譲るのは、流石に不審とも取れる。
それは理解していなかったのであろうか?」
「それの答えは簡単さ。その子の技量が充分であるにも関わらず、武器が無い状態でやっていた……あるいはメリケンサックか?
どっちにしても、刀剣相手では分が悪い。刻印についても、メリケンじゃほぼ無いだろう。
俺のトンファなら、3重に構造を造っていて、その中に刻印を掛けている。形状から、攻防において大きなアドバンテージを持ちながら、リーチを伸ばせる。
今の時点で昨日の1段上の実力者って考えても、言いすぎじゃないかもな?
より確実に、力を出せる状態なら、仕事の成功率が上がる。使い勝手の感想を聞けば、俺の次の作品も向上するかもしれないしな。
つまり、確実に生き残らせるのが目的の第1、それに見合う実力があると言うのが、第2だ。ついでに、感想がもらいたい。そんなところだけど?」
結構考えてるのは分かるけど、それは鍛冶師がやる仕事じゃない?……役に立つならいいけど。ワタシも感想、言った方がいいのかな?
「これつよいよー。木がこなごなになった。なんでこんなに強いのー?」
「スピードが速く、いきなり重くなるからだね。ただ速くて重ければいい訳じゃないけど、コントロールができているならそうなるか」
……木がこなごなって、あれで叩いて割ったの?
「いや、さすがにそれはありえないだろ……ヴァン、おまえどれだけチートな武器作ってるんだよ……」
「あれは試作3号の改良版だからな……使う者によっては、ぶっ壊れ武器だろうな」
初めて聞いた言葉が出てきたけど、そんな危ない物なの?ただの棒に見えたのに。
「とりあえず、今日、俺達の行動を見てから決めたいって言うのは分かったけど、それでどこまで判断できるかは、微妙だぞ?
まあ、今日は、明日の準備の為に行動しなければいけないと思っていたし、一緒に行動してもいいけどさ」
「明日の準備?既にどの仕事に行くのか決めているのかね?我々にはどうにも違いが分からないのだが……」
皆、この話になった時点で、合点がいかない顔をした。何の準備があるんだろう?
「実は、昨日ダントンが言った仕事の3つ、あれは全て掲示板にかけられている、常設クエストだ。言い換えれば、いつでもだれでもやれる仕事って訳なんだが。ここに地雷があるんだよ」
「じらいってなーに?おいしーのー?」
美味しくは無いと思う。ハルちゃんは分からなかったかな?多分、外れくじって意味じゃないかな。
「罠って言った方が分かりやすかったか。この3つで1つだけ、性質の違うものがあるんだけど、意味が分かるかな?」
「其れならば地下に在る、下水道探索が該当するだろう。然し、其れが一体……否、そうか」
ヴィンセントさん、解ったのかな?昨日教えて貰うまで、ワタシ達も解らなかったんだけど。
「薬草やゴブリンは、他の仕事で在っても達成できる、序での仕事か。其れに対して下水道は、その為に向かわなければいけない場所。然し、それだけでは……」
「下水って何か知ってるか?糞尿や、食事で出た油かす、食べかすが流れる場所だ。
そして、その場所に出る魔物が何か解れば、答えは充分。そしてこれが、地雷なんだよ。地雷ってのは、踏むと爆発するアーティファクト型のトラップとでも思えばいい。そんな物が、街の下に潜んでいるんだ」
「まちの下にいるまものってなーに?」
もう答えが分かっている、残りの2人は顔が蒼くなっている。特にエイダさんは凄い。
「スライム、ジャイアントローチとジャイアントラットだ。ローチとラットは毒を食わせば死んでくれるだろうが、問題はスライム。
スライムは食える物が多いから、ヒトを意識して襲おうとしないけど、繁殖数が多く、毒でも何でも食いつくしてしまう為に、ローチやラットの毒餌を使えない。
その上でローチのエサになってしまう。そのローチもラットのエサだが、こいつらが繁殖すると疫病が発生しやすくなる。
分かるか?特大ゴキブリと、特大ネズミが繁殖したせいで、皆が死ぬ可能性があるんだ。誰がやりたがる?でもやらなければいけない仕事だ。
騎士達は、お綺麗だからやらない。衛兵は仕事が回り切らないし、地下は対象外。これは、『冒険者がやらなければいけない』仕事なんだよ」
「げー、ローチはヤあー」
「ハル、ワタクシもです」
うん、ワタシも、動物の研究の過程で、虫も相手にしていたけど、あれは嫌いかな……
「で、この下水道探索が、正解って言う嫌がらせをしているのが、ギルドなんだ。理由は簡単だな。『誰もやりたがらない』けど、『やらなければならない仕事』だからだ。
誰もやらなかったら、疫病が流行る事になる。
冒険者は苛烈な仕事と言われるが、なぜだと思う?苛酷な状況で生きる上に、闘いも熾烈だからだ。残酷と取っても構わない。
やりたくないからと言って、逃げられる事じゃない。
ゴミ処理だって誰かがやらなければいつまでたっても家や街から消えないし、町中で殺された人が居たとして、それを放置する馬鹿がどこにいる?
それと同じなんだ。割り振られている仕事で、一番の汚れ仕事。しかも、これが金額が安い。だが、一番やる意味がある仕事でもある」
彼のこの言葉に、皆黙ってしまった。昨日聞かされていたけど、やっぱり何度聞いても嫌な気分になる。
「ヴァン、強調していってるけど、おまえはどうなんだよ。特殊な仕事に行って、ろくにその仕事やらなかったんじゃないか?弟子になってから特殊な仕事ばかりだったって言ってたろ?」
静寂を破ったのは、ユータ。やっぱり、一緒に居る時間が長いから、知っていることも多いんだろうけど……
「最初の1年はやらなかったけど、その後3年間、実践訓練として週1でやっていたよ。最初の1年は師匠と3人で、後の2年は俺1人でやっていた。
俺の術式の関係でどれだけ襲ってきても、氷漬けにしたり、焼き焦がしたりするから、簡単だったね。水道内全部を焼いた時には、クレームが来たことがあったけど」
虫やラットの死体を焼いた匂いが、外に流れ出たのかな?……それも嫌だな…………
「何が理由でも、確実に殲滅していかなければいけない存在だ。疫病だけでなく、奴らの子供が住宅に侵入するケースもまれにある。それらを防ぐのも目的だ。で、質問は?」
「其れは、危険はどの位ある。死亡のケースは、有るのだろうか?ゴブリンですら、相手にするのは大変な物で在ろう。他の仕事が駄目な理由は、何だろうか?」
それは分かる。ヴァンは子供の頃に、1人で沢山倒しているけど、普通は、一度に3匹も倒したら、凄いって言えるし……
「まず、草を引っこ抜くだけなら別口の仕事もある。しかも、生ならいざ知らず、時間が経って半端に乾いた状態で、納品される事もない訳では無い。
自分たちで複数の薬草を育てている薬師や錬金術師なんて、いくらでもいるから需要が少ない。しかも、奴らの乾燥のさせ方は丁寧だ。保存性も考えているから、品質の差が出る。商品価値が低いんだよ。
ゴブリン討伐についても、オマケで殲滅させるような相手だ。巣にでもなっていなければね。巣なら討伐隊を組む。だが、試験の為に、ゴブリンをわざわざ繁殖させるか?ゴブリンが試験に合わせて、殺されるために、繁殖するか?
……そもそも、倒しにすら行かないんだよ。お説教だけ。
薬草摘みは悪いけど、首。厳しい仕事に着くつもりで来た訳じゃ無いという判断をする。
ゴブリンは厳重注意して、監査の対象となる。監査といっても、上位のヒトの指導が入る仕組みだから、切り捨てる訳じゃないんだけどね。
さて、問題となる死亡のケースだが、当然ある。ラットは生きたままヒトを食うし、ローチは生きた状態で卵を産み付ける。2時間もすれば生まれるそうだ。その後は、解るよね?」
3人とも、顔が凄く蒼くなって、嫌そうな顔をしている。エイダさんは、脂汗もひどく掻いてる。虫やネズミが嫌いなのかな。
「それに対して、確実な攻略法がある。それは実戦の時に話すとして、今日はその前後の服や装備に対して、消臭剤や予備の服を準備するつもりなんだ。
できれば下水道探索は、使い捨てしてもいい服を着て行った方がいい。下手に下水に入れば、当面自分からその匂いが消えないと思っていいしな」
「それで、昨日の終わりの時点で、判断させるためにああやって、宣言していた訳なんですね……行きたくはないですが……」
「それなら、ゴブリン討伐に行くか?最低でも3ヶ月は仕事も無く、報酬も無しで生活することになる。まあ、貴族なら多少は怖がる必要は無いだろうけどさ」
それでもやっぱり、イメージも悪いし危険もある。やりたくないのは分かるんだよね……でも、
「あの……疫病が広まったら、あっという間に街の人が死にますし、下水から広がると、街の中は逃げ場が無くなるかもしれないんです。
ワタシも正直、嫌なんですけど。それでも、誰かがやらないといけない事だから……」
ヴァンは肩を竦めて、ユータは溜め息をついている。2人だってやりたい訳じゃないだろうし、解るんだけど。
「左様か……其れで一体どれ程被害が広がるか……然し、それならば、勇気を振り絞る理由に成ろう。気分で物を言える立場でも無し……私は、既に貴族では無いのだ。フム、確かに此れはとんでもない罠だな……」
3人も、覚悟を決めたみたいで、顔つきが変わった。やっぱり、エイダさんは顔が蒼いままだけど。
「そんな訳で話を戻すけど、女性は替えの服とかを買ってきて。流石に下水の匂いは嫌だろう。男性は消臭剤や盾だ。
ぶっちゃけちゃえば、俺は氷の魔術や自作の盾があるから、要らないと言えば要らないのだけどね」
話には聞いているけど、氷の調理器具以外、特に見ないんだよね。隠しているとかじゃなくて、使う理由がないかららしいんだけど。見せてもらったのは、氷の剣だけだったかな?
「成程、確実な方法が有ると、言っていたな。然し、何故、今それを言わないのだね?何時言おうと変わるまい」
「注意するべきなのは、ここだけじゃないものでね。それに俺達は知っているけど、他の奴らが知っている訳じゃない。だから公平を期すためさ」
呆れたような様子で嗤っている。もしかして、かん口令が敷かれているとかなのかな?ここまでの情報を出しているって事は、全部知っているだろうし。
精霊のボヤキ
――あんた、ラットくらいは毒餌でやれるんだろ?田舎のおふくろさんも、泣いてるぜ?――
いや、だからスライムが毒餌を食うんだって。毒スライムになるって、自分で言ってたじゃないか。
――いいから、かつ丼喰いなよ……好きなんだろ?――
……いつまでやるの?この昭和の刑事ドラマ。というより、どこでその情報を?
――あんた、一昨日この夢見てたじゃない。忘れたの?――
そんなの見てたの?!ていうか俺の夢、見れるの?!




