15話 試験3日目 午前
前回:――足元には、地雷原――
朝食を終えた彼等は、男女別で我々と共に行動をする。私は、銀狼殿と、彼に同伴している従者が、相手となる。彼等は、道中に必要となる道具を購入するという事であったのだが、
「おいおい……街中で何やってるんだ、冒険者は街で暴れてはいけないだろう」
何故か、衛兵の詰め所に突然、連れてこられたのである。
ギルドのエントランスにて、銀狼殿に職員が話を通した瞬間に、雰囲気が変わって此処まで来たというのだが、何なのであろうか。
尚、女性たちはすでに別行動を指示されている。共に居た村娘と2人が、買い物に向かった。
衛兵の詰め所は、赤煉瓦造りの、一般的な建物より大きな施設で、堂に入った威厳が有る。そして、その一角に設えてある簡易的な牢獄に、彼は顔を向けている。其処には、男性と女性が捕らえられている。
「えっと、キールとラオチュか……酒の名前かよ?んで、ギルドの外で騒いだ挙句乱闘騒ぎ、街に被害を出したのか」
「いや、だけどよう。こいつが……」
「何言ってんの!あんたが」
「――点火――」
喧嘩をしていた者達が、彼の言い放つ術式だけで止まった。彼等は、首から下げているタグからすれば、3等級であるようだが。
「解ってるよな?一応、エリナさんが居ない間、もう1人の代行のダントンが仕切るのが通例だけど、全部は1人では賄えない。
それでちょっと異質だけど、代行の代理人に、俺が指名されている訳だけどさ。下らない事で、あまり時間を使わせないでくれよ?」
「ヴァン、一体何があったのか分からないんだけど……」
「簡単なことだよ。冒険者同士で喧嘩して、暴れ回った。話では5人だそうだけど。捕まったのは2人だ。
んで、後は逃げたって事だけど、ちょっと記憶を覗くぞ?……ああ、落ち合う場所はそこか。西中層街の時計塔。そこに行けばいいんだな?」
何も話していないと云うのに、手を当てた牢に居る相手の頭から、光が見えたと思えば、彼は片目を瞑り、何かを見ながら話している。もしやすると話に聞く、エルフが使う術式であろうか。
「いいやや、そんななところにはわわわ」
「いや……あからさまに動揺しすぎだろ、お前は」
捕まっていた男性が慌てている。先程の威勢から云えば、不遜で厚顔無恥な者の様に見て取れたのだが、突然の変化に弱いのであろうか?
「と言う訳で、ちょっとそっちに寄ってから、そいつらもお仕置きだな。悪いね、ヴィンセント」
「構わないが……一体何をするのだね?お仕置き、というのも解らないのだが」
彼は嗤って肩を竦めただけで、そのまま歩いて行ってしまった。
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「まさか、一瞬の内に氷漬けにしてしまうとは。銀狼殿、あのままにして宜しかったのだろうか?」
時計塔の近くまで来た時に、突然彼が消えたかと思えば、目的と成っていた者2人が突然、氷に覆われて、動きを封じられた。
銀狼殿は更に、彼らに説教に加えて、昨日練兵場で見せた、妙な武器を使って何度か叩いた後、首に『私は痴れ者冒険者です』と書かれた看板をぶら下げ、放置してきたのである。
「冒険者は喧嘩っ早い奴は多いけどさ、それで多くのヒトに危害を加えていいモノじゃないんだ。
第一、あいつらの言い分は何だった?ちょっと飯屋で、気に障ることを言ったから喧嘩した、とかだぞ。そんな下らない理由で暴れていいモノじゃない。
今回は怪我人は大して出てはいないけど、多くのヒトの精神的な負担になるんだ。一般人に迷惑を与えているんだぞ?」
言い分は分からないではない。事実、冒険者に対して反目している者が少ない訳では無い。然し、あの様な折檻は、意味を持つので在ろうか。
「一応さ、ギルド内でも勢力図なんかはあるんだよ。
俺が入る時には凡そ2分されていた。前の代行と、エリナさんの勢力、それぞれのね。あのヒトの破壊的な性格を好まないヒトとか、前代行を好んでいたヒトとかは対抗勢力だったんだ。
俺が入った時に、前代行が首になった上に、数名犯罪を露呈させて捕まって、一時は一枚岩になったんだけど、段々分かれていった。
それで今は、ダントン側とエリナ側、そして第3勢力になる、リーダーのいないグループになってるんだ。今回問題を起こしたのは、ダントン側と第3勢力」
「リーダーがいないってどういうことだよ?普通ないだろ」
然り。集団になれば、頭が居るのが必然であろう。
「正確には、3人くらいでの合議をしているんだよ。だから、ケルベロスみたいなものだ。本物の頭があるわけじゃなし、斬り落としてもまた生えてくる、みたいなさ。実際に斬る訳じゃないけど」
「フム、相手にしていた者達はその第3勢力か。後の1人は如何にして探すのであろうか」
私の疑問は必然であろう。5人で暴れていたと云うのであれば、残るは1人。
「大丈夫、既にダントンに話は通してあるから、あいつの方から見つけて叱りつけるだろうさ」
そう語りながら、腕に在る何かを弄っている……アーティファクトか?
「ヴァン、何だよその腕輪……最近なんか付けているなって思ってたけど」
「代行の仕事用に借り受けた、通信用アーティファクト。メールというか、発信できるポケベルというか?書き込んだ内容を、特定の相手に送れるけど、保存できるメッセージは5つのみだ」
仕事に必要な道具として、ギルドが用意したものなのであろう。未だ、余り出回っていない代物だ。
世の中も便利になった物ではあるが、もう少し、融通が効いて欲しい処で在る。然も、必要以上に高価である為に、殆ど持っている者は居ない。
「それ性能低すぎないか?せめて500通くらいのメール保存できなきゃおかしいだろ」
其れは、欲深いのでは無かろうか?100倍であろう。
「騒いでもしょうがないよ。それより、さっさと買い物しないとさ。盾は、ガルベージのオッサンのとこでいいか」
そのまま騒ぎながら彼らは進んでいく。此のような業務をしている辺り、彼は確かに、今年入る新人の1人であると言うのに、既にギルド内で一定の地位にいると言うのも、又事実なので在ろう。然し、少々異例では在るのは、間違いない。
「銀狼殿、聞きたいのであるが……」
「ヴァンな。堅苦しいって。もう少しラフに喋るようにしないと、それだけで喧嘩売られるぞ?」
「……ヴァン殿、貴方はその様な誹りや、諍いは受けないのか?聞いている限りでは、幾らでも有りそうとは思うのであるが」
彼は溜め息をついて、少し呆れたような顔をした。何か思う所があるのであろうか。
「これは、吟遊詩人が謡うのはおかしいと思うんだけど、ギルドに初めて来た時にやり合った、ロイとの決闘の話あるだろ?あれだけで充分な脅しになっちゃっててさ。
それに、実際に喧嘩を売った奴は、さっきの奴らみたいに氷漬けになるって言うんで、意外といないんだよ。下らない言葉で喧嘩を吹っ掛けられていた奴らも居たけど、全部無視していたし。
エリナさんがいつも一緒にいるせいもあって、そいつらもあまり前に出られなかった感じだ。代わりに、エリナ派の人達が喧嘩していたけどね」
他人に迷惑を掛けているので、精神的な負担に成っているのであろうか?
彼は、そのまま下層街の北部へと足を進める。中層街は、住宅も商店街などもある程度の落ち着きがあるのであるが、下層街は少なからず荒れている。
上層街とは全く違う雰囲気である。このような場所で、本当に問題の無い武器や防具が手に入るのであろうか?
「ヴァン殿、この場所で本当に問題ないのであろうか。上層街にも、確か上質な武具屋が在った筈では?」
「ガルベージのオッサンのところは、安すぎる上に高品質なんだよ。上層街の品質に全く劣る事ない性能で、金額は場合によっては10分の1、場合によってはタダだ。
実際、俺の鎧もタダでくれた物だしね。後で金額確認してみたら、他の国で刻印なしの状態で10ガルくらいの金額だった。勿論、その当時の為替換算での話だけどね」
そんなものをタダで出すと言うのは、一体何を考えているのであろうか?まともに生活するつもりが無いように思える。
「生活するつもりが無いんじゃないぞ?上層街は、防具を売る金額で生活しているが、あのオッサンは修理だけで生活できているんだ。
下層街にいるのも余計な経費を省く為。武器防具は取り扱うけど、それだって利益率はほぼ0だ。仕入れ値に、ほんの少しの手数料ってとこだよ」
「ヴァン、そんな稼ぎ方する奴って普通居ないだろ。少なくとも日本にはいなかったぞ」
「知ったか乙。プリンターは利益率0、原価すれすれだ。理由は簡単だ。インクや用紙の回転率が高いから、そっちだけで大儲けできる可能性があるんだ。お前が無いと思っていただけさ」
……私も、社会は知っている心算ではあったが、この考え方は無かったやも知れん。成程、合理的に商売が行われている1つの形なのであろう。
そして、下層街でも、一際緑が多い地区に入った。建物自体が蔓で覆われている為、どこか遺跡のような佇まいの家屋ばかりである。
「オッサン、いるかあ?晴れて俺が、冒険者として独り立ちする日が来たぞお」
彼はその内の1つ、蔦で看板が覆われていて、殆ど見えなくなっている建物に声を掛けながら入っていった。
「ああ……?何だ」
「あ、今日不機嫌な感じ?どうしたの、愚痴なら聞くよ?」
中に入れば、ドワーフとしては、高身長の男性がカウンターの向こう側に座っていた。彼が店主であろうか。
「馬鹿がまた妙なもん造ってな。大変なんだよ。んで、今日はなんだ?」
ほぼ無表情で、会話についても呟くように話している。不機嫌というのは間違いないのであろう。
「さっきも言ったけど、冒険者の独り立ちなんだ。しかも、一等級の仮免まで持っている。ゴブリン討伐に行って、説教受けるなんてできないだろ?
むしろやるなら、オッサンところのタワーシールド買い占めて、配るくらいの事しないとさ」
「けっ、そんなもん頼んじゃいねえ。てめえの予備の鎧、整備終わった。後は勝手に選んどけ」
それだけ言って店主は奥に入っていった。
店の中にはいくつもの種類の武器や防具が置かれているが、彼は部屋の角に向かっていく。彼の手に取るのは、長方形の長い、タワーと呼ぶにふさわしい、緩やかな曲線を描いた盾だ。それを、数枚手にしている。
「ヴァン……さすがにこんなにいるのか?そうは思わないんだけどさ」
私もそれは思うのであるが、一体何を目的にしているのであろうか?
「ギルドの貸付装備もあるんだ。少し前の戦闘で貸し付けのタワーシールドが、何枚か壊されてね。
その上に今回、俺が駆り出されたのもそうだけど、いきなり問題発生して出陣した奴らが、結構持って行ったから在庫が足りなくてね。貸し出し分を補充するつもりで来たのもあるんだ」
「はっ、どうせきちんと整備していなかったんだろ?ギルドの奴らは整備の仕方が温いんだよ。少しはこっちに回して見せやがれってんだ。
おら、鎧だ。犬っころも酔狂だよなあ。面倒みる必要なんざねえだろうに、あの馬鹿連れてきて教えろとかよ。てめえは教会の回しもんか?」
話ながら選んでいた間に戻ってきたようである。手にしていた革袋に彼の装備が入っているという事であろうか。
「あれ、裏にいる間に機嫌よくなったな。何があったんだよ」
相変わらず無表情の彼は、銀狼殿に揶揄われている。あれで機嫌がいいというのは、どういう事なのであろうか。顰めたような面持ちが、変わったような気がしないのだが。
「黙っとけ、犬っころ」
「オオカミだあ、畜生!」
何やら笑いながら話している彼らは、既に支払いを始めている。
金額に対しての話は、一度もしていないと云うのに、然も当然のように日常会話の序でに、会計が終わっている。それで商売が成り立つものであろうか?
「おい、オヤジ!イイから持ってけって言ってんじゃねえカ!……アア、犬、来てたんダ」
「オオカミな!全く人を犬扱いしやがって、どいつもこいつも」
カウンターの後ろの部屋から、ツナギを着た女性が顔を出し、話始めた。
「ったく、いい加減勘弁してくれ。犬っころ、こいつもう連れ出してくれねえか。うるさくてかなわねえ」
「ハア?!いいジャンカ、あたしがヤレル事なんかあんましないんダカラ。修理ばっかしじゃ面白くナイし、作り方教エロっテー」
「連れて行くにしても、独り立ちできるまでにならないとだしなあ。とりあえず、オッサンは手取り足取りは難しいから、目で盗むしかないんじゃないか?」
何が理由かは分からないが、此の2人も師弟関係に成っている上で、余り旨く関係作りが出来ていないので在ろう。後から来た女性が、何かを店主に押し付け、彼は嫌がって外そうとしている。ブローチのような物だ。
「ソレト、これ着ければ絶対モテっかラ!」
「要らねえっつってんだろ!何つーもん作ってんだ、テメエ!」
……これが、不機嫌の原因であるのは、間違いなさそうだ。
精霊のボヤキ
――あの女の人って……――
うん、ユウタがボヤいていた異世界人。フランス人な?
――どうしてあんな、モテる道具とか作ってるの?――
そりゃ、あのオッサンが女日照りがヒデエから、って。
――……ユーシャも作ってもらえばいいのに――
あんな道具を使っても、モテない奴は、モテない。何故かって?経験済みだ。前世で知り合いに押し付けられたんだけどね。




