13話 試験2日目 夕食
前回:――ちびっこ格闘家、覚醒?――
「いよっし、今日は時間あるし、蕎麦でも打ってみますか。正確には、蕎麦に似たザールの実だけど」
エルフさんの部屋に戻ったら、彼は空間から、石臼と袋に入った実を取り出して、気合を入れて粉を挽き始めた……そこからなんだ。
「ヴァン、蕎麦のことも気になるけどさ。あの人たちで大丈夫なのかよ?しかも、トンファーをあげちゃってたじゃん。なんでアリスやぼくには売るのに、あげるのさ」
「あれは試用期間。使ってみて、良いと思ったら代金を頂く。お前らと同じ、素材代金分だけなんだ。それだって、金額は伝えてあるだろ?」
確かにそうかもしれない。ワタシはこっちも気になるけど。
「ヴァン、このローブってちゃんとお店で買うと、どれくらいの金額になるの?」
「確かに!おい、さすがにアリスにまであんなおかしな術式が乗った物を渡してるんじゃないよな?」
ユータも乗ってきた。気になるよね。
「え、普通だよ。魔力増幅とマナコーティング、自動修復、単式結界膜、衝撃吸収魔術、流体結界の潮流式、外気活性マナ回収、それから……」
「まだあるのかよ!そんなに付けられたっけ?!」
「うん、限界いっぱいまで付けているから、店売り価格にしたら、4ガルくらいかな?高価な装備だと、それくらい付いてることもあるさ」
そんなもの……なのかな?ちょっと聞いた限りじゃ、1個だけでも結構難しい術式を、ふんだんに使っている様な気がするけど。流体結界とか、外気マナ回収は上位術式だったと思うし。
「それだって、着てる人の魔力に左右されるから、ユータが着ても何も意味ないけどね」
「元も子もないな!なんなんだよそれえ!」
それは分かる。ユータが魔力無いのは知っていたし。
「うーん……でも、そんなに難しい術式使って、そんなに安いの?生活費4ヶ月分だから、安いって言うのもおかしい気がするけど……」
お母さんから貰った装備代は2ガル。1ガルって言っていたから半分使っちゃったけど、それでいいのかな?今はまだ、武器とかも買っていないし。
あるのは、道具を入れた肩掛けカバンだけ。
「まあ、さっきのは店売りにしたらそれくらいじゃないかってだけで、正確じゃないしね。
ユウタがへし折ってた剣だって、実際に軽量化術式と柔化術式、自動修復とマナ回収がかかっていたからな?元が硬くて重いアダマンタイトだから、それで折れるとか、どうやったんだってレベルだよ」
ユータは知らなかったみたいで、ヴァンの言葉に、顎が外れそうな位口が開かれている。
ヴァンは実を挽き終わったのか、今度はその粉を小麦粉と合わせて篩にかけ、水を入れて混ぜ始めた。
「武器とかの事はともかく、あのヒト達だって何も考えない訳じゃ無いだろうさ。
交渉するならアピールは必要だけど、自分が何ができるか見せる方がいいだろ?トンファはその1つ。ただ暴れるだけの奴じゃないんでね、俺は」
それは、今のこの料理を見せても、同じじゃないかな?気が付かなかったけど、いつの間にかスープも、氷のお玉とかが作っていた……キノコ出汁かな?
「それはわかるけどさー……あんな人たちで大丈夫なのかなー……」
「うーん……ユータ、あんな人って言うのは、言い方悪いよ。悪い人じゃなかったと思うし……」
むしろ、ワタシ達の方が、凄く怪しいと思われているような気がするけど。
「どっちにしても、あいつらは俺の考える筆頭候補だ。2人は他に、誰かこのヒトがいいって思える人いたか?今ならまだ、そっちに乗り換えたっていいんだけどさ」
簡単にそんな事言っちゃうんだ。確かに、この人がいいって思える人が居なかった。全部は覚えられなかったし、時間も長かったから……
「俺はリストアップした上で、さっき言った貴族への牽制として、実戦能力を伴っている者達として、あいつらを候補にしたんだ。
あいつらも多分、俺達をリストアップしていたし、他にメモしているグループはほとんどいなかったからね。居てもせいぜい5組だ。メモくらいしないと、記憶に残せないのは当たり前なんだけど」
捏ねていた物が、徐々に塊になってきた。少しづつ力を入れて、捏ねる姿勢に変わってくる。
「ああ、それとユウタ。お前、盾の整備しておけよ?今回必要になるかもしれないから。最も、その盾を持つのはアリスとかで、お前にはタワーシールドを貸すけどな?」
「え?どういう事だよそれ。ぼくの盾だろ?」
「そう、それを戦術的に使うのであれば、お前がタワーシールド、他のメンバーが障壁を使える方がいいんだ。マナを流しても、障壁が作れるようにしてあるしな」
どういう事だろう?確かやる仕事って、薬草回収か、ゴブリン討伐、地下水道の3つだったと思うけど?……
「理由を知りたいって顔だな?それは……」
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ハルは、あの銀狼から渡された、トンファと呼ばれた武器を繁々と眺めている。どうやら彼女の琴線に触れ、気に入った様である。
然し乍ら、あの者の狙いがあれだけだとは考え難かった。為れど、精霊術師で在る事を考えれば、狙いが他に無いと語った言葉も信用するに値する。
夕食を終え、ギルドからの帰り道。勧誘を幾度か受けたが、其の殆どが此方からしてみれば組みたいと思えない者ばかり。
上層街に向かう道すがら近寄る者の中には、銀狼の行方を捜している者も居た。其の序でと言わんばかりに、誘ってくる者が居るのだ。
「どうなされますか、ヴィンセント様。ワタクシはあの者を信用しきれません。どこか胡散臭いと言うか、我々に好意を持つと思えなかったのですが……」
彼女の考えも又、是と言う他に無い。盟友とするなら少なからず関わらねば、交渉と言う場にも立てない物では無かろうか。
とは言え、時間は1日しか猶予が無い。遅れればその分、良い者が居なくなるのも、又事実。最短距離で考えるなら此れを受けて、其の後関係が続くか否かを、後に判断するべきか。
かと言って、試験に確実に合格できるとは限らない。事実、少なくはない不合格者が、毎年出ているという話は耳に挟む。
その理由も、犯罪で在ったり、不和で在ったり、或いは恐怖が勝って、逃げだす者で在ったりするのだろうが。
「でもさー、これ強そうだよー?ちょっとためしていー?」
「ハル、安易に使っては……」
「否、此処で使うべきかも知れない。彼の者は交渉する代わりとして、此れを置いて行ったのでは在るまいか。其れに依って、交渉の場に引き出せるか否かを、試している可能性も有る」
此れは考えすぎで在ろうか。然し、何か危険が有れば、其れは問題で在ろう。
……あれ程自信を持って渡してきて、問題を起こすので在れば、ギルドも黙っている訳には行くまい。自身の首を絞めるような事をする理由は、考え難い。であれば、試す理由には成ろう。
「暗くなってしまったが、屋敷に帰ったら少し試してみよう。其の性質如何によって、信じるか否かの材料としようか」
「ヴィンセント様がそう仰るなら、一度試してみましょう。ですが、危険が無いか先に解析させていただきます。それで良いですね、ハル」
「いーよー。これなんか使いやすそうだし。まちがって、足たたかないようにしないと。痛そうー」
我々の不安を他所に、彼女は随分楽しそうにしている。然程時間は掛からず、屋敷に着く筈である。
既に帳は落ちているものの、今日も夜空は晴れていて、更に月明かりも有る。少々暗いものの、確認するには充分であろう。
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屋敷に戻ってすぐ、修練用に作ってあった、丸太の簀巻きを用意する。
此の程度では、流石に如何程なのかは確認できまい、と思っていたのであるが……一撃の下に、軋む様な音を立てて、丸太が割れた。
「たった一撃でこれですか?……下手な魔術を使うよりも、遥かに威力がありますよ、これ。まさか、こんな物を手土産に渡してきたというのですか?
掛けてある術式にも、さほど不審に思うものはありませんでしたし……」
魔術を使わなくても、充分な強さは有ろう。況して彼女は力が強く、其の辺の男では力負けする。武器の形状からすれば、決して相手を殺すための物では無かろう。
が、然し……
「普段の仕様は危険は少なく、マナを込めて打ち込みをすれば、常軌を逸した威力を発揮する。腕に沿うため、刀剣に対する防御にも利用でき、更に其処から懐に潜り込んで打ち込める。
此れを王女の護衛の者に持たせるのも頷ける。必要以上に傷害を与えない加減も出来よう。麻痺の術式を使うなら、捕らえて尋問するのにも容易い。充分に作り上げられているかと思う」
使い方次第で、攻防何れにも使える武器と云うなら、此れ程の物はそう無かろう。
「話されていなかったのですが、攻撃を受ける時に、衝撃軽減が掛かる様になっているようです。そんなものを、当たり前のように渡すなんて、信じられません。やはり何か裏があるのでは?」
「でもー、悪いこと考えてそうじゃなかったよ?たぶん、だれにでもするんじゃないかなー」
ハルは、直感が優れているとしても、余り深く考える事はしない……然し、その言葉を信じる価値は有るやもしれん。
「明日、あの者達と行動を共にしてみる。信ずるに値する者で在れば、明日1日でも何か見えて来よう」
果たして、もう一度対話をするしか無いので在ろう。為らば、明日、朝一にあの者達の元へ向かう事にしよう。そして、彼等が如何なる者かを、その目で確認する以外、他に無いのである。
「見てー、木がバラバラーでコナゴナー」
ハルは、1人で簀巻きを叩き続け、幹を使った簀巻きを既に、木屑にして仕舞っていた。然も、既に3本目を用意している。
……やり過ぎでは無かろうか?然し既に……相当に面白く感じている様で、已める気配がない。
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「ヴァン、なんでトマト味の蕎麦なんだよ。おかしいだろ?」
「冷製の蕎麦ならおかしくないだろ。食べた事ないのか?このツユ、結構研究したんだけど?
キノコ出汁と魚の干物から取った出汁、魚醤とトマトの味のするギューイとレウルス。充分美味しくできたと思うんだがなあ」
凄く美味しいと思うんだけど。どうしてユータは渋い顔をしているんだろう。食事の手も、あまり進んでない。ワタシは、もうちょっと食べたいかな。
「ヴァン、お代わりある?」
「おお、あるよ。ちょっと待ってて」
「……既にお母さんだよね」
彼は、自分の故郷の味が、再現されきれていないから、納得していないのかな。でも、これはワタシは好きなんだけど……
「しかし、結構しっかり蕎麦の味になったな。蕎麦とは違う植物なのに。何にしてもこれなら納得の味だ」
「ぼくはザルソバがよかったよ……わさびを溶いたつゆに浸してさ……」
ザルで、これを食べるの?……変なの。
「馬鹿者。わさびは揮発性の成分が、辛味なのだぞ?ツユに溶いた時点で、徐々に味が消えていくんだ。
それに蕎麦は浸すものじゃない、先っちょにつけるものだ。出来れば最初は、ツユにもつけずに蕎麦だけで食べるべきだ」
結構細かい。拘るんだね……ザルで食べるのに。食べにくくないかな。差さえが無いから、ぐらつきそうじゃない?
「なんかハシトングも普通になって来たし、徐々に染まってきた感じがする。あー、日本に帰りたい……」
ユータは、食べきってないけど、項垂れて食事の手を、止めた。
「言いたいことは分からないではないけど、今のところ帰り道は確定していないんだ。探しているヒト達が居るから信じるしかないよ。今は、俺らも探索に向かえる状態じゃないしね」
「確か、異世界に渡る方法を、探してたんだよね。どうして探そうと思ったの?」
ソバを持ってきたヴァンに、ずっと気になっていた事を訊いた。前にも聞いたんだけど……
「言ったろ?転生者ならともかく、転移してきた場合は帰りたいって思うだろうって。俺だってそう思うかなって考えたしさ。前世があまり幸福ではなかったから、俺自身はあまり帰りたい訳じゃ無いけど」
やっぱり、同じ答え。優しいのはいいんだけど、なんか違和感があるんだよね。何か……足りない、そんな気がする?何かは、分からないけど。
「でもさ、行方不明になって何年かしたら死亡扱いになるんじゃなかったっけ。そしたらぼくは……」
「3年とか7年とかだったかな?いまいち覚えてないけど、長くなれば死亡扱いにはなる。
それでも、生きているのが確認されれば取り消しにはなるから、帰れればほとんど同じだよ。全く同じじゃないけどさ」
やっぱり家族に会いたいのかな。ユータは、この辺はナイーブになるよね。こういう時は、あまりイジメないでおかないと。
なんだかんだ言って、ユータはソバを全部食べ切った。そして、彼らは部屋を去っていった。
明日はゆっくりしたいから、引き摺らないで欲しいかな……寂しい気持ちは、解るけどね。
今、ちょっとだけ、お母さんたちを思い出して、寂しい気持ちが募る……ヴァンがいないときも、ちょっとこんな感じだったな……
精霊のボヤキ
――で、トマト味の蕎麦にした理由は?――
材料があったから。それだけですが?
――他の理由は無いの?目論見があったんでしょ、吐きなさい!――
まって、なんで尋問みたいに……
――言いなさい、ネタは上がってるの!――
違う、俺は無実だ!冤罪だあ!




