12話 試験2日目 対話
前回:――組むなら、誰がいい?君に決めた!――
「我々を選んだ理由をお聞きしても、宜しいでしょうか。銀狼殿」
「硬い喋り方だなあ。もうちょっと崩しておかないと、一般社会人の中で浮くぞ?まあ、理由は聞きたいだろうな……座っていいか?」
「嗚呼、済まない。好きに座ってくれ給え」
酒場の角にある大きめのテーブル。そこに集まった6人。ヴィンセントと名乗った人達3人とワタシ達3人。これでもう、1チーム出来上がる。
何を理由に、彼はこの人達と組みたいんだろう。
「まず、一番大きな理由だが、こんな噂を聞いたことないか?『どこぞの貴族が、銀狼の手柄を横取りしている』ってやつ。これ、事実だ。俺が初めて、1人で討伐した岩石竜の頃から、ずっとね」
そんな事が起きていたの?手柄を奪うって、そんな事できる物かな。本当なら、ちょっと酷いんじゃないかな?そんな勝手な事をする人に、怒りが、込み上げてくる。
「そうなる理由も簡単で、貴族の手の者が俺の行動をいちいち監視しているようで、しかもそれが、獣人嫌いの奴ら側なんだ。そいつらが王族に、先に討伐報告している。
ギルドからの報告は、数日間隔が空くから、どうしても勝てるものじゃない。ここまではいいか?」
「其の噂は聞いては居たが、成程。手柄を取られるのは、気に入らないであろう。然し、我々を選ぶ理由には為らない。
寧ろ、貴族を敵視する理由にしか聞こえないが?」
確かにそう。ワタシも、親が貴族の家柄だったっていう事実はあるんだけど……
「ただ貴族って言うだけで、敵視はしないさ。毎年、王女の開くパーティに呼ばれていてね。そこには獣人好きの貴族も、いくらでもいる。
正直得意じゃないが、嫌う理由にはならない。問題なのは、嫌う側の者が好む側の者を、意図的に狙ってくる状況だ。その延長線上に、俺の問題もある。
奴らの好きにさせる訳にもいかないし、吟遊詩人の詩が出回って、奴らも動きが取れなくなり始めている。確実に止めを刺したいんだ。
その一手として、獣人に対し敵対的ではない貴族、特に高位の貴族を仲間としたい。公爵や辺境伯なんかの血筋の者を迎えれば、かなりの牽制だからね。何しろ短絡的な名誉強奪をしているのは、貧乏男爵とかが多いから。
お前が家柄の為、家族の為という考えがあるのなら、王女と間接的だが繋がりを持つことにもなる。つまり、貴族家としての得はあるんだ。これが一つ目の狙い」
……理由が長い。でも、そんな嫌がらせを受けていたんだ……?王族に嫌がらせをする貴族っているの?判らないようにやってるのかな。
そういえば、ユータが持っていた武器の幾つかも、ヴァンが作った、王女様の獣人部隊に持たせる為の物だって、言ってたっけ。
「フム、一番の理由、と言うからには、未だ有るのであろう。一体、他に何が有るのかね?」
「簡単だ。戦力上で上質。今年の中でも大当たりの3人だ。間違いなくこの5人は、上位10人に入る」
「むー!ハルの事はずしたあ!」
彼の言葉に、ハルちゃんが怒ったように声を上げた。確かに、彼女とユータは勝てなかったけど……
「いや、外したのはユータ。こいつ、剣使って何もできずに、遊ばれて吹っ飛ばされたろ?」
……確かに。この小さい女の子は、格闘だから武器を使っている人に、勝ちにくいと思うけど、ユータは盾も剣も使っていた。
「……そんなこと言うなよう…………」
ユータは悪くないと思うけど、しょうがないと思う。500人中の10人だし。弱くは、無い……と思う…………?
「しかし、ハルは武器を使うのを拒否するのですよ?ワタクシ共も、何度も薦めたのですけど、格闘をプライドとしているんです」
「それなら、別に否定しない。無理に合わない武器を使ったところで、使いこなせる訳じゃ無いからね。
だけど、これはどうだ?俺特製のトンファ」
空間空間収納から何かを出している。何度か見た、彼の作った武器の1つだったかな。
「俺も格闘をするし、王女の獣人奴隷に持たせる護身具だ。
使い方は打撃格闘をベースとして、リーチ変更ができる事が特色。刻印を入れて複数種類の効果を持たせている。
重量変更、電撃によるマヒ、電撃の射撃、持ち方を変えれば鎌のように斬撃を放てる。お前の格闘スタイルなら、充分な威力を出せる。
主に、重量変更を使う様にしたらいいんじゃないか?」
ヴァンが渡したトンファを、ハルと言う子は手に取り、普通に棒として振り回している。
「いや、持ち方はでっぱった棒を掴むんだ。こう」
「こう?……フォー!アッチャア!」
なんか分からないけど、ちょっと振っただけなのに、様になり始めたように見える。天才肌なのかな?
「そう、そしてその棒の部分にある刻印に、マナを少し流すだけで、重量が10倍に増える」
「「10倍?!」」
エイダさん?とワタシの声が重なった。
「え、ええ?なんでそんなに驚いてるの?」
「うーん……ユータは解らないかもしれないけど、重力魔法って、凄く難しいの。
2倍にするだけで、中級魔術クラス。使うマナも、膨大……大爆発を起こすくらいのマナを消費してやっとなの。
それだって、ファイヤーボールに対して、数倍くらいのマナ消費なのに……」
「それを少し、つまり生活魔法と同じ、ライターくらいの力で大爆発の数倍の術式を発揮させる、と言ったようなものなんです。ありえません」
「……ヴァン、さすがにそれはウソだろ?」
「いや、ホント。ライターくらいのマナで充分。あとのマナは、空間の活性マナを吸収して、発動させる。
それに2人が言ったのは、結構広い範囲の術式だけど、俺が掛けたのは、このトンファだけに適用されるようにした物だからさ。
効果範囲を限定して、精霊言語を使って、古代エルフ術式を基礎に、造った物。師匠と俺の、合作な」
どんな造り方をしたんだろう。普通のアーティファクトですら、高位の術者でなければ作れないし、これより、ずっと弱い効果しか出せないと思うけど。
武器屋に置かれている刻印のプレートは、それの複製なのに……今着ているローブまで、そういうおかしな術式が使われてるのかな?
……普通に着てたけど、金額にしたらどうなっちゃうんだろう……ちょっと気絶しそう。考えない様にしよう。
「フワアー!ヴィンセントさま、これ振りやすい!」
いつの間にか、一瞬だけ重くして振っているのか、マナの光が混じって、同時に速度が変わっている。あれで叩かれたら痛そう……で済むのかな?
「これだけで相当テコ入れになるから、今日やったダントンくらいの相手なら、多分押し負けないだろうさ」
「フム、道具で釣るのは、余り好かないのだが。此れだけなら考えさせて貰うよ」
厳しい目を向けてくる。確かにモノで釣るのは、嫌な感じがするの、分かるんだけど、あまり怒らないで欲しいかな。
「そんな訳が無いだろう?最後の理由だが、恐らく昨日の昼から仲間探しの為に、フルイにかけていただろう。
しかも、今日の全員の戦闘を見ていて、かなり細かく吟味していた。申請していた者の名前はギルドのエントランスホールに張り出されるんだが、その名前を細かく確認して書き写していたんだろ?
そして、今日の戦闘の際にリストアップ、打診をしようとしていた。意識して情報収集をしていた上に、念を入れて確認していた。これが3つ目だ」
いつの間にそんな確認していたんだろう。
「ヴァンやダントンがぼくに張り出しの仕事させたのって、それが目的か?マジかよおおお」
ユータの仕事って、エントランスでの志願者リストの掲示だったんだ……?
「そう……と言いたいけど、あれは普通にある仕事だ。ついでだから確認してもらったんだよ。俺も確認していた。
エイダだったか。3回、俺も確認したよ。恐らく、昨日の昼にアリスに接触した感じから、何か話し合ったんじゃないか?
ケツ叩かれながらやってたユータの事は、ノロマみたいに見ていただろうけどさ」
「「「…………」」」
図星なのかな?怪しいと思っているかもしれない。
「君は、我々が頷くと思うのかね?確かに、君たちの事を確認させて貰ったが、仲間になる事を意識するより、敵に成る事を気にしているとは、思わないのか?」
「なら、このギルドである必要はない。俺が嫌なら、他に行く方がいいさ。
何しろ筆記の時に、俺が試験官をしていたのは知っているだろ?俺は事実上、上官に位置するんだ。リーダーは、俺はやらない方がいいだろうが」
「何故だね。上官であればリーダーである方が、良いのではないか?」
「簡単だ。俺は一等級狩人、冒険者は副業でね。それに特殊任務を受ける事もあるから、ずっと居られるわけじゃ無い。
リーダーは、君にやってもらいたいよ、ヴィンセント・ハートフィールド」
舌戦を繰り広げている2人は、一見すると余裕ありそうだけど、ピリピリした空気が辺りに漂い始めた。
「狩人であり上位なら、冒険者に成る必要も有るまい。其れをする理由は何だね?我々に関係あるとは、思えないが」
「それは確かに関係ないな。俺と師匠の交渉内容だ。しかし、関係のない者同士で組むのが、冒険者のチーム編成だ。
呼び方もパーティだのグループだの色々だが、その全ての者が、己が目的の為にやって来たんだ。お前達もそうなんじゃないか?
例えば……身分の差を超えて結ばれるために、とか?」
ヴァンが最後に言った言葉で、一気に3人が驚いた顔になる。どうしてそう思ったんだろう。
「別におかしな情報収集をした訳じゃないぞ?
ただ、漂っている匂いが、3人が深いレベルで共有されているって事が、判断材料なだけだ。ちょっと触れ合っただけじゃなく、裸で抱き合わないと無理なレベルでね」
嗤っているのは彼だけ……エイダさんは蒼ざめている。残りの2人は……怒りそうかな?
「ヴィンセントさま、バレちゃったよ。どうするー?」
「フム、まさかと思うが、其れで脅そうとでも?」
2人は、怒っても、慌ててもいない。エイダさんはもう、落ち着き始めている。3人とも冷静なのかな。
「脅す理由になるか?ちょくちょく居るし、せいぜい言われるのが『あーお前らもかよー』ってくらいの言葉だ。今更面白みもない、よくある話なんだよ?」
そうなの?……でも、ワタシも何回か、聞いたことある気がする。
「……脅す気が無いのなら良いのであるが、匂いだけでそんな判断ができる物なのであろうか。我々を脅して、金銭を強請ろうとしているのかと、一瞬思ってしまった」
ヴィンセントさんは、少し安堵しているように見える。
「そんなことしてどうなる?言っとくけど、さっき渡したトンファとかも素材だけで、1ガルくらいかかってるし、それを100本作ったぞ?しかも、自費で。
俺は結構、稼いでいるんだよ。ドラゴンの討伐も金額はガッツリ頂いているし、名声だけが奪われているだけ。
それ以外にもやってる仕事で、師匠から報酬を頂いているし、狩人としても稼いでいる。強請る理由が無い」
……そんなに稼いでいるの?本当にすっごい高い道具とか……ユータの持ってる剣って、確か彼が作った剣だったよね。何度も折ってるって聞いたけど……?
「他に、何か理由や目的は無いのか?」
「あるとしたら、真面目に取り組みそうな1組って言う事か。以上だ。それ以外にはない」
それっきり、3人は黙ってしまった。どうするんだろう?今も、後ろから色んな視線が向けられているんだけど、彼等がどう考えるかで変わりそう……
「我々としても、君と組みたいとは思っていた。然し、考えさせて欲しい。君の目論見は分かったが、其れで一体、我々にどう影響が有るのかも解らないし、無意味に敵を作りたい訳では無いのでね」
「当然だな。だが解っているはずだ。期限は明日の夜まで。熟考する時間は無い。早めに答えを出して欲しい。他に話すことは?」
「いや、私からは特に無いよ」
「ちょっといー?これもらっていーの?」
ハルちゃんはトンファを持ち上げて質問してきた。
「ああ、持って行っていいよ。ただ商品としての扱いでもあるんだ。使ってみてから考えて、欲しいと思ったら払ってくれ。一応材料費くらいは貰う事にはしてるんだけど、合う合わないがあるしね」
やっぱり、お金は貰うんだ。でも材料費だけなら、寧ろ得じゃないかな?
それだけ告げて、彼はテーブルを立って、階段へと向かった。
「あ、あの……うーん……彼は態度とか悪いですけど、優しいですから……信じてあげて欲しいです。お願いします」
一礼して、ワタシもヴァンを、追いかける。ユータはいつの間にか、席を立って追いかけていた。あの人達は、どう思っただろう。
精霊のボヤキ
案外、一番落ち着いていそうな奴が、一番狼狽えていたな。
――だねぇ。あの子、けっこう魔力強いけど、落ち着かないと魔術がブレるでしょ……――
……エリナさんは、落ち着きゼロだったけど……
――金髪は別物。分かってる癖に――
そうね、あの人は化け物。破壊神。移動式衛星砲。
――あんたはその弟子で、化け物――
……半分はあなたの影響ですからね?




