11話 試験2日目 午後
前回:――童女は水玉、ユーシャはホームラン――
実戦試験は、随分と動きづらい条件である。
身体強化が入っているので有れば、この程度の空間では、一瞬で距離を詰められる。為れど、其れは実戦能力の1つの基準を見るのにも、必要と成ろう物である。
動きが速くなるという事は、体に掛かる負荷が極端に多くなり、其の負担は、結界等の魔術に依って、軽減される訳でも無いのである。
又、其の異動に合わせて、必要となる動体視力も、高くなければ為らない。実際、剣士であろう者達が行っている打合は、時として常軌を逸している速度と成る。
「先ほどの銀狼もそうでしたが、あの村娘も案外、面白い戦い方を致しますね」
確かに、水の魔法が得意なのであろうか?しかし、先手で撃ったのは中位魔術。
只の魔法を使う者では無いという事であろう。何より、何方も時間を掛けず、相手に一撃を入れている事となる。水球を一撃と捉えるのならば、で有るが。
「あの槍のヤツ、やっぱりよわー。振りまくってるけど全然あたりそうにないよー?」
「奴は見るまでも無いであろう。あちらのエルフ……ダガーと土の魔法か。普通の者よりは魔法が得意なようだが、攻撃魔術を撃つ様子は無いようだ。フム、若いとその様な物なのか?」
徐々に、此の場に居る者の実力が見えてくる。
リストアップしていた者の実力を、此方の勝手な判断と成るが、目視に因る判断にて、少なからず序列を作らせて頂く。
そうする事で、此の場に居る者の誰が、組むに値するか否かが決まるので有るが……如何せん、子供のお遊戯の様な剣術や魔法を使う者が、多過ぎる様に感じる。
一体、戦場を、何と勘違いして居るのであろうか。
「ヴィンセント・ハートフィールド」
己が名を呼ばれた。これより実力を見せる事となる訳か。
指定されていた結界の場に出て行く。相手は、ハンマー使いのドワーフの御仁か。壁際にあった木製の槍を握り、簡易結界を掛けて頂く。
「参ります」
言葉を放つが早いか、結界が張られ、御仁の方から踏み込んで来た。横降りに振り被っている。
愛用のグレートシールドを手に取り、来るであろう打ち込みを受ける為に構える。
が、其れは誘いであった様だ。盾を構えた先でハンマーを地につけ、蹴りを放ってきた。それを槍で受けた後に、刃を返す。
御仁は打ち込みをハンマーで防いだ後に柄で殴りかかり、其の儘振り被ってハンマーを落としてきた。
何方も寸でかわしたものの、流石に高い力量を持っている。冷や汗を流しそうな打ち込みが、その後も数回続いた後に、盾を蹴り飛ばされた。
盾を持つ手を払い、空いた場所に打ち込む心算で在ろう。然し、払われた勢いを、逆に体軸の回転に利用し、踏み込みながら槍を放つ。
槍先が、御仁の喉元に突き付けられた。
「……はっ!やるじゃねえか、坊ちゃん。なかなかいい動きだ。あのワン公以外でなら、今年でいっちゃん筋良いんじゃねえかぁ?戻っていいぞ!」
御仁は満足した様に笑い始めた。一礼し、槍を元の場に戻してから2人の元に戻る。
「流石です、ヴィンセント様。散岳の鉄槌に対して一撃を入れるとは」
「とーぜんでしょ。だって、ヴィンセントさまだもん」
この2人は、恐らく心の底から云っているのであろう。微笑んでその心に応える。
しかし、あの御仁と対等に闘えて居たとは、到底思えない。恐らく、加減をして、あれなので在ろう。又、使っていたハンマーも、威力を弱める術式を使っていたのは、間違いない事である筈だ。
其の様な状態で、勝てたと云うのは少々不遜では在るまいか。
「エイダ・シモンズ」
未だ余り話していないながら、彼女の名が呼ばれる。少し緊張しているような表情ではあるが、彼女は全く恐れずに前に進みだす。
彼女は、魔術と短弓を得意とする。試験官の女性は、ダガーを持っているが、一体どの様に闘うのか。
互いに一礼し、構える。其の儘エイダは、弓を構えながら呪文を口遊み、矢を放つ。放てば直ぐに構え直し更に矢を放つ。
元より短弓は秒に1射する事が出来る物であり、其処に更に魔術を放つのが彼女のスタイルである。つまり、隙がほぼ無い。
放つのは、全て下位の魔術ではあるが、充分に翻弄しては居る様で、試験官は未だ攻撃態勢に入ってはいない。
為れど相手も本職。今の処、彼女の攻撃も、一度として当たってはいない。
熾烈な攻防が続き、何方も引かずに居るが、終わりは見えてくる。エイダの矢が無くなったのである。
その頃合いを狙って、試験官は踏み込んできたので在る。が、狙っていたのは、彼女も同じ。罠を張っていた様で、踏み込んだ試験官が動きを止める。
結界に閉じ込めたので在ろう。
「矢が無くなれば、来ると思いました。それなら、こうするのが一番確実ですわね」
エイダがそう云いながら試験官に微笑みかけると、試験官も額を叩きながら笑い始めた。
恐ろしいのは、詠唱していた魔術の間にこの罠を張った事であろう。然も、矢を放ち乍ら、で在るのだ。近づくのも難しく、早い段階で抑えていなければ、罠に掛かる事になる。
「あの方、本気で踏み込めば、ワタクシの首に刃を突きつけられそうに思ったのですが……冷や汗掻きました……」
戻ってきた彼女は、矢張り実力の差を、何となく察していたらしい。
「えー、すごかったけどなー……」
ハルの言葉も解るが、しかし相手の実力が、うっすらと透けて見える感じがある。魔力も抑えて術を放っている様であり、又振るう武器にしても、踏み込みにしても、甘くしている節が有る。
周りの者達も少なからず其れを感じている様で、試験を受けた後は、青い顔をしている者も少なくはない。
事実大半は、手も足も出せずに終わるのである。力の劣る者は、その差を実感してしまうのは、必然であろう。
「然し、旨くやっていたものだと思う。流石だ」
私の言葉に、彼女は言葉も無く、頬を染める。たった此れだけの言葉だと云うのに。
「ハル・メイソン、前へ」
我々の中で、最後と成る名が呼ばれる。彼女は興奮した面持ちで、前に進んでいく。
相手は、あの銀狼とやり合っていた、白騎士。此の街に居る、『在野の守護騎士』である。
アンデッドに対しては、殊更強さを発揮すると云う話では在るが、剣士としても非常に優秀であると聴く。故に銀狼は、敢えて魔術で隠れ、後ろを取るように動いたのでは無かろうか?
事実彼女は、正面から彼を捉えて突き進むが、一度として、攻撃が掠りもしない。其れ処か、簡単にいなされている。
剣や盾で防がれて体を弾かれ、全く彼女の攻撃が通じていないのが解る。最後には剣の腹で体を払われ、結界に打ち付けられた。
時間は比較的掛かった様に思うが、それでも善戦したのでは無かろうか。然し矢張り、何か彼女の戦術に、梃入れを考えた方が良いのでは無かろうか……考えさせられる。
「あうー……まけちゃったぁ……」
「ハル、相手は上位の方達です。負けても恥ではありませんよ。貴女も頑張ったのですし……」
不思議に彼女たちは通じ合っている。とは言っても、数年前には仲の悪い時期もあった物なのだが……今の状態に成って良かったとは思っている。少々、不安定な関係でもあるのだが。
其の後も戦闘をする者は続く。然し、矢張り『在野の守護騎士』の名は伊達ではなく、此れまで一撃を入れたのは、矢張り銀狼と村娘、2人だけの様である。
その他の試験官も、力を抜いていると言えど、ほぼ負ける事は無い。寧ろ、簡単に志願者を捻り潰していく。
そして、夕刻が近づいてきた頃合いに、漸く実力試験は終了と成った。
凡そ、この中で目立つ者は分かった。後は、如何なる者を誘うかによる。当然、為人を確認してから、で在るのだが。
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「それでは今日の試験はここまでとする。そして明日1日を挟み、明後日の早朝、実地試験となる。その時に、共に仕事をこなす仲間を作るように。
人数は5人以上。並びに仕事に必要となる道具や武器を用意しておくことを忘れるなよ。
仕事の内容は3つから選ぶことになる。1つは薬草回収。1つはゴブリン討伐。1つは下水道探索だ。
それぞれに必要な道具を用意し、仲間と連携を話し合っておいてくれ。以上、解散!」
ダントンさんと呼ばれていた、白い騎士鎧の人が全員に声が聞こえるように宣言をした。途端に、周りの人たちの目が変わったように思う。何でだろう?
そして、その目の多くはワタシ達……正確には、ヴァンに向けられた。
「んじゃ、ちょっくら逃げますか」
「え?」
ヴァンがそう言った瞬間、彼が鐘の音を鳴らして、上空に逃げて、街のどこかに去っていった……私とユータの、幻影を連れて。どうして?
「おい、あいつ逃げたぞ!」「追いかけろ!あいつと組めるかどうかで変わる!」「絶対逃がすな、俺が最強だ!」「ええ!ズルい、何それぇ!」「ちょっと押すなって、邪魔!」「うるせえ、お前が邪魔だ!」
なんか、半分くらいの人が追いかけて行って、半分くらいの人がぼんやりと立ち尽くしていた。何が起きたのか分からない人が、取り残されたのかな。
「うん、やっぱりね。思っていたより多かったけど、俺の演習の後から、ずっと嫌な視線を感じていたんだよね」
いつの間にか、ワタシの横に戻っていた。あれはやっぱり、幻影なのかな?
「今はまだ隠蔽してあるけど、もうすぐ解ける。早めに建物に移動しようか。街中に幻影を残していられるのも、そんなに長くないしさ」
彼は嗤いながら、練兵場に背を向けた。何で、こんなことをしたんだろう。
「ヴァン、何したんだよ?意味わからないよ」
「簡単さ。俺と組めば有名になれるとか、実力がない事を補うために力を借りようとか言う奴らを、追っ払っただけ。もみくちゃにされたいのなら、しなくていいだろうけどさ。
考えてみろ。警備員とかがいない状態で、有名人がファンに囲まれたらどうなる?それに似た状況で、道具を揃えたりとかできると思うか?」
……なんか、言う事、分かるような気がする。昨日、ワタシも、周りに人が居すぎて、殆ど身動きが取れない彼を、見ていたし。
「うーん……でもさ、ヴァンは組みたい人って見付けた?ワタシは……誰がいいのか、分からなかったよ」
「え?どういうこと?意味が分からないんだけど?」
ユータは、解っていない顔をしているけど、何でだろう?ヴァンが前に言っていた通り、この試験の後1日あるのは、今日ここで実力を見てから、誰と組むかを、考える為じゃ無いのかな。
「試験の内容と戦力、人間性を考慮して実戦に挑むんだ。
つまり、明日と明後日が、本当の試験。ここまではお膳立て、茶番、準備運動。どういう言い方でもいいけどさ、本番じゃないんだよ」
「やっぱり?」
「えええええ!アリスわかってたの?!ありえないだろ―!」
「「ユータがね」」
「なんなんだよそれええ!」
いつもの茶番をしながら、ヴァンについて進んでいく。向かった先は、酒場。ご飯を準備していなかった人が、先に食事をする為に集まっている。
彼の幻覚を見抜いていたのか、偶然なのかは分からないけど、何人かがこっちに目を向けて、立ち上がった。
「やあ、君が銀狼だな?俺は最強の槍使い、カイだ。俺と……」
「嘘乙。昨日、誰かに負けたのか。どっちにしたって、ゲイル爺さんに勝っていた奴の方が、いい動きしていたがな。って事で却下」
緑と黒の中途半端な髪色の青年が近づいてきて、早速断られている。しかも嘘を見抜かれた。
「デュフ。モーリスって言いまフゥ。ボキなら必ず役になるデフゥ。だから……」
「悪い、おまえの実力は悪くないが、まずは言葉を覚え直せ。役になるって意味が分からん」
……確かに。しかも凄く太ってるし、汗も匂いも凄い。ちょっと近寄りたくないかな……
「ムフフフ……矢張りあなたは僕がいいのですね。良く解ってる。このデブリ、必ず」
「お呼びで無い。ボッチのお前はまず、自分がどうヒトと接するかを考えろ、デブ」
デブじゃないけど、メガネの小さめの並人の子、言われた言葉を聞いて固まっちゃった。ちょっと、かわいそうかな?
ヴァンが向かっている先には、昨日の昼に話をした、青い鎧の人達が座っている席だ。
「ヴィンセント・ハートフィールド、ハル・メイソン、エイダ・シモンズ。チーム編成の要請をしたい。いいかな?」
ヴァンの言葉に、3人はちょっと不思議そうな顔をした。声を掛けられるとは思っても見なかったのかもしれない。ワタシとユータも、ヴァンと彼らを交互に見る。
……この6人が、これから先、一緒に苦難を乗り越える、最初の仲間になる。
精霊のボヤキ
――髪の色が変わってるアイツ、何なの?――
ああ、最近魔国で流行っているらしいけど、髪色を変える薬剤、出回っているらしい。
――確か、需要無いんじゃなかった?――
ニーズなんて、その時で変わるだろ。その内、ユウタも変えるかもな?
――黒髪でも良くない?あの顔、どの色でも似合わなそうだし――




