8話 試験1日目 夕食
前回:――童女は人気者?皆に囲まれて動けない――
「それにしてもさあ、なんでこんな面倒くさい仕組みなんだよう。ギルドに入るのに、名前書くだけが定番って思っていたのは何だったんだよ……」
ヴァンが料理している横で、ユータはテーブルに座って、度々こんなことを言ってる。
初めてワタシもそれを思ったけど、
「うーん……多分だけど、悪さする人が居るからでしょ?」
そんな気がする。偽名とか、いくらでも作れるだろうし。
「なんですぐアリスは分かるかなー!物わかり良すぎじゃないか?!」
そんな事無いと思うんだけど。知らない人をいきなり信じるのって、難しくないかな?
「大体、そういう仕事ってあるんじゃないのかよう……普通さ、危険な仕事だから人をおおく受けいれて戦う人を増やしていくものじゃないかな?」
「前も言ったけど、実際にそれで問題が起きない訳が無いんだよ。
犯罪者の潜伏先として、冒険者ギルドが使われる事例が、多く発生していたのもあって、一部では犯罪者生産ギルドなんて言われるようになっていた時期もあるくらいだ。
名前を書いてドッグダグを貰う……これだけだと、いくらでも誤魔化しが効くだろ。仕事にしても、街から離れた所に行く。直接的に目に付かない所で、どんな仕事をするか分からない。
だから余計疑われる事になるんだよ」
何となく、そうじゃないかなって思ってはいた。ユータが言いたいことも分からない訳じゃ無いけど、誰でもいいって言う事は、悪い人でもいいって言う事だし。そんな人と仕事したくないかな。
「だからって面倒くさくないか?名前書くだけでいいじゃないか、強ければ偉いでいいじゃないかあー!」
「そしたら、ユウタは一生昇進無理だね、解ります」
「なんでだよチクショー!」
ユータって、こうなる事狙ってる?なんかいつも、言い負けるのに、やってる。
「第一、こういうルールになったのだって、いろいろ事件があったからだぞ?むしろ起こるべくして起きた事件だよ。
一番大きなものだと300年前だけど、ある国の冒険者ギルドで、志願者の中に、別の国の犯罪者集団が紛れ込んでいたんだ。
そのギルドで、行われていた採用方法が、名前を書くだけのもので、細かい審査なんて全くしなかったんだ。
それでそいつらが、何度も難しい仕事を成功させていって、名前が売れて行ったんだ。一部の黒い噂を残してね」
「黒い噂って?どうせくだらない嫌味とかだろ?」
「一緒に行ったメンバーを殺して、報酬を独り占めにしたとか、仕事を横取りしたとかね。獲物を横取りしたんじゃく、協力をお願いされて手伝ったら、そいつが死んだんだとか、言い訳していたんだけどさ。
それで徐々に名前が売れるたびに、そいつらは何か焦り始めて、ギルド側が不審に思ったところで、他の国から来た奴が、そいつらの事に気付いて、ギルド内で殺し合いが始まってね。
気付いた奴と犯罪者集団の内2人が死亡。それ以外の奴らも巻き込まれて、29人死傷した。
それだけじゃなく、2つの国家間のギルドでの抗争が勃発する理由になって、徐々に険悪な状態になり、社会にまで影響を与えて、戦争にまでつながったんだ。
他にある事件と言えば、暗殺ギルドかな?」
「暗殺ギルドって何かの作品で見たことあるけど、実際にあるのかよ?裏社会のものだろ?」
作品って、何の作品だろう?また、元の世界の話なのかな?
「裏社会じゃなくて、冒険者ギルドな?」
「はああ!?」
ユータ、驚いて立ち上がった。けど、冒険者ギルドの話だよね?
「話の流れ考えろって。名前書くだけの冒険者ギルドの話だぞ?
表向きは冒険者ギルドだけど、何かにつけて人殺しを請け負うギルドがあったんだよ。
しかも、そこに入ったら最後、家族や恋人が人質に取られるし、洗脳をされて殺すことが正義って考えるようにさせられるし……
結局そいつらは、裏社会に行くことにはなるけどさ。そんなのでも、冒険者ギルドとして存在していたんだよ。
そんなものが存在していたのだって、社会が暗殺ギルドに肯定的になっていたんだよ。悪人を殺すことが正しいっていう、勧善懲悪な考えになっていたからね。
でも最終的に、その国の要人まで暗殺対象になって、国の兵士と、冒険者もとい暗殺者同士で内紛が起きてさ。
国中で殺し合いなんてしているもんだから、犯罪者は溢れるわ、魔物は溢れるわ、農村は襲われ続けて、飢饉でもないのに農作物は全部奪われて、餓死者が増えるわで、その国は疲弊してね。独りでに国が潰れたんだよ。
それでも暗殺者ギルドは未だにどこかで稼働しているんだけどね。
もっと細かい事例を出したら、恐ろしい数になる。俺だって覚えきれないくらいだ」
「うーん……どっちも戦争になる話じゃ、嫌になるね……みんなを助けるギルドの筈じゃ無いの?」
ワタシの話してる横で、ユータがへたれて、椅子に崩れ落ちた。思ってもみなかったんだろうね。分からなくは、無いかな?
「まあね。やる事が簡単な仕事なら、人を多くかき集めて人海戦術にでもすればいいけど、そんな安易に考えて、戦場で『素人の人海戦術』をしても、とにかく無駄に死んでいく。
無意味にかき集めて死地に向かわせられて、それで遺族が何も言わないって事も無いんだよ。戦える力を持っている者がいるのに、そいつを向けないのは何故なのかって。実際には、死んだ奴が自分から望んでその場に向かっているとしてもね」
「……いや、何言ってるのか分からないんだけど?」
「掲示板に張られた仕事でドラゴン討伐隊募集なんてあったら、実力があると勘違いしている弱者が、依頼を受けないと思うか?
お前、初めて火竜を見るまで、何を言っていたか忘れてないよな?」
なんかユータが脂汗かきはじめた……恰好付けたいのは分かるけど、それは格好付かないと思う。
「しかも、1組しか募集されていないドラゴン退治だったらどうなるか、だ。結果は火を見るより明らかだね。俺のようなドラゴンに対して強い存在が居れば、余裕を持てるかもしれないけど、そんな奴は多くない」
「うん?ドラゴンに強いの?」
「ああ、言ってなかったか。イフリータさんが火を吸い取るから、ブレスが消えるって話。詩でいくつかあったと思うけどね」
そういえば、そんな詩があった気がする……そういう事なんだ。何かの防御魔術か、妨害魔術だと思っていたけど。
試験に関係ない話ではあるけど、仕事をする上だと出来るかどうかで結果が違うのは分かる。出来ない仕事を勝手に受けても、出来なきゃ死んじゃうわけだし。
「ドラゴンは火袋を必ず持っていて、そこに貯めたエネルギーを使ってブレスを放つんだけど、そのエネルギーっていうのが、火のマナなんだよな。
俺はそれを吸い取って、しかも空中を跳ねまわるから、大体のドラゴンを相手にしても問題は無いんだ。幻覚まで使って撹乱するしね」
「あー……なんか分かって来たかも。ヴァンが居るのに、ぼくが独りでドラゴン退治に行くなんて、無理だと思うし。火竜どころか、ワイバーンでも一瞬で負けそうだし。強い人達が100人いてもきついんだったよね。しかもそれで全滅とかして……」
さっきより脂汗が増えてきた。でも、前はずっと自分が最強だって五月蝿かったって、言ってたよね?ユータだったら仕事受けるだけ受けて、敵前逃亡しそうかな?
「ああ、ゲーマーで言う、『溶けていく』状態な。まともなヤツなら、そんな言い方しないが。
とくに強い力を持つヒトが居るのに投入しなきゃ、兵がどれだけいても簡単に嬲られるんだからさ。そりゃ、遺族に恨まれる。
勝てるヤツが戦えば死ななかっただろうとか言ってさ。仮にお前がドラゴン討伐に行って生き残っても、死んだ奴の遺族に恨まれて、夜道で後ろからドスッ!」
氷の包丁を掴んで、刺す振りをしてる……料理は終わったみたい。あとは煮込むだけとかかな?
「ああああ!やめてよう……怖すぎるってばあ!」
「いや、それが実際に100年くらい前まで、当たり前に起きていた事件だしな?当時の勇士とか言われていたヒトの最期って、結構逆恨みからの暗殺だし」
ヴァンが、料理を皿に盛り始めた。何か、いつもお皿に盛るよりより、手を掛けている?
「……そんな事になるの、普通嫌だよね?」
せっかく生き残ったのに、そんな理由で殺されるのは、ちょっと嫌かな?
「実際さ、短絡的過ぎるんだよ。名前を書くだけで、誰でも英雄になれる、なんて言ってるようなものじゃないか?幼稚なシステムなんだよ。
チーム編成だって、できる技術や能力次第でどれだけでも変わっていく。入る奴を選定したり、教育していかないと、死者の行進を続けるだけなんだ。
掲示板に張った仕事を誰でもできるなんて言うフリークエスト形式だって、見ようを変えれば、自殺を誘っているようなものだよ。
最初の頃のユータを弄るのだって、そんなバカをしていた奴らが五万といるからさ。英雄譚に憧れて、自分ができると信じて受けて、結果殺される。そういう奴がいる事を忘れちゃいけないんだ。
そんな当たり前の事、馬鹿みたいに放置している方がおかしいんだよ。
で、数百年の間、ちょっとづつ変わって行って、最初に義務付けられたのが、実力試験。それが200年前。それから50年して面接試験。
その間に実力に合わせて仕事を打診する仕組みになって、掲示板クエスト以外に、指名クエストが入るようになった。俺がドラゴンを狩りに行くのもこれが原因だね。散岳のゲイル爺さんは山の魔物専門だしね。
それから試験内容に実地試験、つまり初クエストを試験にする事になったのが、100年前。それとほぼ同じくらいの頃に、筆記試験が入るようになったんだ。
そして、それまでの試験内容が不服って言う事で、改変申し立てが入り、30年前に改正されて以降、問題が激減して今に至るってとこだ……余談だが、申し立てをしたのは、エリナさんだそうだ」
最後に身近な人が出てきたけど、何を変えたんだろう?筆記試験の問題内容だったら、ヴァンに有利になりそうな気がする……それは問題じゃないかな?
ヴァンが料理を持ってきた。見た目がいつもより派手?
「白身魚のフリカッセとイビルヌーのグリエ、カラギ菜のシーザーサラダ。あと、デザートにフルーツのポワレ。
今日はちょっとフレンチ風にしてみた。知ってる料理なんて多くないけどね」
なんかいつもの料理と違って、何種類かのソースを皿にたらして、絵のように飾っている。こんなことしていたんだ。あんなに喋っていたのに。
「……シーザードレッシングってどうやったんだ?良く分からないんだけど」
「バッカ、お前。マヨネーズ作れてシーザー作れないとか、馬鹿じゃないか?牛乳とレモン汁とチーズとマヨネーズ、これだけで充分だから。
異世界なんちゃらだとマヨネーズが定番だとか言ってたけどさ、その先のバリエーション考えないとか有り得なさすぎだろ?普通作るよ」
「普通かな!?おかしいのはぼくじゃないだろ!」
……美味しければ、どっちでもよくないかな?
「まあ、それは置いといて。
試験がここまで形式ばっているのも、他のギルドと連携を取るようにしているのも、仕事の仕組みにしても、最終的には犯罪を減らしたり、社会が荒れるのを防ぐ目的があるからだ。
窃盗犯や殺人を犯した者が隠れ蓑にする為に、冒険者に成り済ます事例は、今でもあるんだ。
大体試験の段階でバレて、連行されるようになってきているけどね。それでもまだ居なくなったとは、言いきれないだろうね。こういうものはイタチごっこだろうしさ」
「……シーザーってそんなに簡単に作れるのか?……これならぼくにもできるんじゃないかな……」
ユータはまだドレッシングの事気にしてるみたい。そんなに気にする事かな?
「でも、どうしてユータはそんなに名前を書くだけに拘るの?そんな事をする理由が、ワタシには分からないよ」
気になっていた事をちょっと聞いてみただけなんだけど、いきなり石みたいに固まった。なんで?
「いや、そのー。ラノベとかでそうだったからさ。冒険者なんて名前だから、つい……」
「つまり、創作の演劇とかあるだろ?あれとよく似た世界が、現実に目の前にあるから、創作と全く同じだと思い込んでいたんだ。
人の想像することは、実現可能なものと不可能なものがあるというのにね。創作は天動説でもなんでもありだけど、大地は丸いものだからね。それだって、真球とは限らないけどさ」
「うーん……大地が丸いって言うのは、初めて聞いた……」
大陸が、丸いの?どういうことだろう。やっぱり変な事言うよね、この2人。
精霊のボヤキ
――マヨネーズが異世界何とかの定番ってどういう事?――
文字通りだよ。異世界に行ったら、これで稼げるとか、人気になるとか。
――……その程度、3千年前から普通に作ってるよ?――
その程度、考えたよ。材料が材料だし。でも、シーザーは無かったよ?
――それも、誰か作ってていい気がするけど――
材料の問題じゃない?卵とミルクとか、その辺が流通で、どうのって。
――ああ、保存の問題もあるもんね――




