3話 これからの話
前回:――相変わらずのユーシャと、プディング。パンの方?言ってる意味が分からない――
「さて、充分食べたところで、これからの事だけど、ユウタ。お前もいい加減、登録でいいよな?」
テーブルにからのお皿がたくさん並んだところで、これからの話に入るつもりみたい。
それにしても、
「えー?ユータ、まだ登録してなかったの?もう2年くらいお世話になってるんでしょ」
ワタシ達の目線を、彼はいつも通り裂けている。都合が悪くなるといつもそう。それなのに、前に来た時も女の子に振られたとか言っていたし。3回も振られた理由、解ってるのかな?
「もういい加減、自分の脚で立て。お前の面倒を見てやる必要はもうないって、何度も言ってるだろ?
それは、自分でやっていくことができるはずだから、言ってる事なんだからさ。そんな甘えた根性じゃ、いつまで経っても1人でやっていけない。
このままならステータスからニートが消えないぞ?そもそもステータスにニートがあること自体、異例な状態なんだけどさ」
ニートって何だろう。聞いたことないけど、初めて見た時から変にナヨナヨしてるユータの事なら、一生変わらないかもしれない。
「しかも俺は、アリスと組んで動く予定なんだから、おまえがここで登録しない限り、ここで一緒にいる事ができないんだからさ」
「え?どういう事?なんでなんだよ、聞いてないぞ!」
「いや、半年前から師匠達とずっと言ってるけど、お前聞かなかっただろ。
ダントンもお前の事を構っている時間がないからって、師弟関係解消したろ?
それで、俺も5等級になったら、あの2人との師弟関係が、形式上解消になる。俺を経由して庇護を受けていた状態のお前は、ダントンの代役になっていたエルフ2人の庇護を受けられない状態って事でもある。
言い換えれば、おまえの保証をする者がいなくなるんだ。そうなると、部外者と同じ状態だよ」
ユータの顔を見る限り、全然理解していないと思う。ヴァンを通じて、って言うのは良く分からないけど、多分エルフさんたちから指示とかを貰ってたんじゃないかな。
「じゃあ、どうしたらいいんだよう。全然自信ないよー!」
「だから今のタイミングで独立なんだろ。理解しろよ。この3人でやるか、次のタイミングで誰かと組むしか、もうお前の行く場所は無いんだよ」
多分、彼は最初からその心算だったんじゃないかな。ワタシは別に、ユータが嫌いな訳じゃ無いし、一緒にやれば良いと思うけど。
「え?そういうこと?何だよチクショー!」
勝手に訳の分からない解釈をしていたみたい。ベソを掻いて、勘違いをしていた事を、漸く理解して安心したらしい。
「んで、ここから本題だ」
溜め息を吐きながら、ヴァンはようやくこれからの予定を話し始めた。冒険者試験の日程かな。
「まずは明日、申請書類を出す。ステータスを取ってきて、それを提出。他に書類にサインをする必要がある。
その後、面接をして、筆記試験を受ける。これは申請した後、ある程度試験をする部屋に人数が集まった時点でスタート、2時間で終了だ。
試験のテスト内容は、ぶっちゃけ俺は知らん。師匠が森で、俺がやっていたことを観察していたから、ほぼ必要ないと判断したらしい。
簡易的なキャンプ知識とか、一般常識、武器や防具の扱い方なんかは出るだろうが、そこまで難しい考えはしなくていい。
面接にしても、比較的簡単な質疑応答だ。難しく考えなくていいし、答えられないなら答えなくていい。
明後日には実戦能力試験。練兵場で、申請している者達が、試験官相手に、戦闘能力を示す。
勝つ必要はない。しかし、魔術においては広い場所ではないから、如何に魔法や魔術をコントロールできるかがミソになる。接近戦は、全力を出せばいい。
どうせほとんどの奴が、試験官に傷なんて負わせられない。試験官が強いと高を括っている訳じゃないぞ?志願者の殆どが、ヒト相手に、刃を向けたことがない者が多いからだ。
俺みたいに魔術も剣も……なんて者は更に制限がかかる。どちらもやる奴は多くないしな。
そして、1日空いてから4日目にもう1度、実戦能力試験だ。
ただし、これは試験官相手でもなければ、単独戦闘でもない。集団戦闘だ。
ある意味、これが全ての清算でもある。理由は分かるな?普通の冒険者は、1人で仕事をやる事はない。基本は5人以上だ。
集団での行動で大きな問題が出るようなら、全ての者に危険が及ぶ。ユウタが最初の頃、冒険者を断られていた一番の理由だ。
これらが冒険者志願の者にかけられる試験の内容。これを最低限クリアできなければ、受け入れられない」
日程と理由が色々話されたけど、気になる事が幾つかある。
「最初の頃、ぼくがダメって言われてたのって……」
「周り見えなくなりすぎ、会話が通らなさすぎ、暴れすぎ。特に、唯一日本語がしゃべれる俺が話した内容ですら、拒絶しまくっていたからね。
強い訳でも、賢そうでも無い上で、連携が取れずに足を引っ張られるからだ。
初めて旅をする前辺りから大きく変わってきて、漸く受け入れられるかもって思われ始めたんだからさ。言ったろ?王家にまで話が行ったんだ。正確には、この街を統治している王女に、だけどね?」
そんなことあったんだ。やっぱり、ユータだね。なんだか、ヴァンとワタシの間で駄目な人の代名詞みたいになっちゃってるけど、仕方ないよね。
「なんで1日間が空くの?なんて言うか、そんな時間を置く必要があるのか、分からないんだけど……」
ワタシには、その時間が解らない。3日でいいんじゃないかな。
「そこは簡単だ。チームを組める人数に足りない事がある。実際、俺達は3人だが、基本チームは5人以上だ。
それでいつまでもメンバーを決められないなんて言う状態では決断力に欠けるし、決断力に欠けるなら変わっていく戦況に対応できない。
自分たちのチームに何が足りないかを判断し、最速でメンバー構成していく必要があるんだ。仲間を選ぶのに、何日も時間はかけていられないし、場合によっては即席メンバーで、連携を取らないといけない。その対応力を見るのに、1日使うって言う事だ」
臨機応変に対応する、判断力と決断力、知らない人と連携するための応用力のテスト?それって一番難しいんじゃないのかな。判断する方だったとしたら、どうやって見るんだろう。無理があるような気がする。
「それでどう判断するかについては簡単だよ。4日目に実戦で判断できる。どう行動をするかで見えてくるものさ。実戦の場所へ行く時、試験官がそれを判断する」
考えている事を予想していたのかな。それで納得……するのは難しいけど。
「因みに、俺とユウタは一応弟子って言う扱いだから、筆記試験はパスなんだ。
弟子の間に識字能力は必須で育てるし、読み書きができなければ卒業できないからね。その他についても、実際に教育されていく事になるから必要ではない。
さっき言った仮免っていうのは、弟子を卒業した後、そのランクから始められる証明書。と言っても、申請しなければ、等級が低い状態でスタートになるんだけどね」
……弟子になった方が良かったかな。仮免っていうのも、良く分からないけど、取れたらよかったかもしれない。
「ああ、ぼくも仮免取れればよかったんだけどな……」
「ん~……ユータは難しいんじゃない?」
「アリスはぼくに何のうらみがあるのかな!」
恨みって言うより、嫌味を言ってくるのは自分じゃない?髪の事とか、未だに良く分からないこと言ってくるし。
「ユウタは女心を踏みにじるからなあ。その割にナンパとかして、必ず玉砕しているじゃないか。この世界はナンパしない方がいいって、何度も言ってるのに」
そんなに女の人に軽いのかな。ユータはウネウネしてるけど、その動きが気持ち悪いんだって、気づかないのかな。
「とにかく、筆記試験は高得点を取る必要はないから、気追わずにやれば良いし、それ以外のテストも簡単に終わらせられるよ。
まずは明日、ステータスを取ってくる事だ。そろそろ移動しようか。荷物を置いて、風呂に入ってさっぱりしなよ」
村にお風呂なんてなかったから、乾季に偶に水浴びするか、濡らした布で服くらいしかしてこなかったんだけど、入っていいのかな……ちょっと、興味あるかな。
ワタシ達はヴァンを先頭に、彼の師匠の部屋に向かった。
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白い毛並みの獣人の後姿を目で追いながら、思案してみる。
流石に彼は、弟子として過ごした時間が長く、然も、高名な大賢者にして、現役代行である者の、弟子なだけは在るだろう。
一般的に流布されている試験の内容は、彼が語る程の内容では無い。筆記試験と実戦試験、面接をするだけと云われている。
弟子にしても、全ての試験を行った上で、成長を促す様カリキュラムを組む等とは聞いたが、彼は試験を受けずに弟子に成った様である。
成程。世に伝わる様に、常軌を逸した存在なのやも知れない。
「ヴィンセント様、あの者の話、本当でしょうか?」
エイダは不安を拭えない様子。
当然の事で在ろう。世に言われぬ事を、あれ程にハキハキと、人前で話していて気にもしないなど。試験の内容は詳細は云わなかったものの、彼の話す行程ほ、公表されている訳では無い。
然も、彼は此のギルドの人間で、長く滞在している筈である。然らば、我々の存在を無視する筈も無い。
語っては成らない内容では無いのか?若しやすると、彼は何か揺さぶりなどを掛けに来ているのであろうか。実際、この席では一切、気を抜いたような素振りを、見せなかった。
「エイダー、これウマー。食べなよー」
「ハル、貴方はもう少し落ち着きを覚えなさい」
鴨肉のテリーヌを摘んで頬張っているハルは、見ていて少し肩の力が抜ける。と云っても悪い意味では無い。寧ろ心を和ませてくれる存在だ。
今も、周りに少なからず緊張していたり、殺気立っていたりする者が散見される。恐らく、我々と同じく志願者なので在ろう。
其れに対し、飲んで騒いで居るものは、先達で在るのは確実だ。しかし、油断している様に見えて、剣呑としている空気を、目の奥に孕んでいる。
もし仮に、ここで何かの騒ぎが起きれば、直ぐにでも彼等に依って拘束されるで在ろう事は、間違いない。決して争い事を起こしたい訳では無いのではあるが、重い空気に潰されそうになる。
「ヴィンセントさまー。これスゴイよ。ぷにぷにでトロトロー」
剣呑な空気を孕む喧騒を、ハルは全く気にせずいつも通りに振舞う……最近、流通する様に成ったばかりのフォークを使って、彼女は何かの肉を此方に向けて来た。
「ほら、あーん」
「ハル、貴方ここの空気解っています?流石にそんな……」
「えー?ピリピリしてるヒトいるけどー、ハルたちには関係ないでしよー?」
彼女はこの性格でありながら、動物のような感性で危険を察知する。今も、殺気立っている者が目を向けているのに対して、気にもせずにエゴを通す心算で在った様だ。
「ハハ、仕方ないな……あー」
子供では無いのだが、やらなければ彼女は納得しないのであろう。自分としても、少々情けない気も、無い訳では無いが。彼女の向けて来たフォークの肉を口に入れる。
「フム、成程。此れは下茹でした後に、丁寧に味付けした出汁に入れて煮た肉なのか。ボア肉の様だが、その割に旨味が多い。しかも、脂の溶け方が凄いな」
「でしょー、ムフフ」
彼女が作ったのでは無かろうに、随分嬉しそうだ。其れが、彼女らしさでも在るのだが。
その存在に、自分もエイダもどれだけ救われて来たか知れない。彼女も又、我々の存在が無ければ如何様に成っていたか知れない立場なので、お互い様では或る筈だが、其れでも彼女が与える恩恵は大きい。
「おい、あんたら何いちゃついてんだよ!ウットおしい!」
要らぬやっかみを受けるのも、偶に有る事である。
声の主を見て見れば男2人。新品の軽鎧を着て、使われて居そうに無い短槍を見るあたり、彼等もまた志願者なのであろう。流石に多少なりとも経験はあるのだろうが、此処で、槍は使う物では無い。
「おい、なんか言えよテメエ!」
1人が刃先を此方に向けて来た。もう1人は口元を歪ませ嘲笑っている。周囲より、一身に視線を浴びる事になる。
「やれやれ、君達は落ち着きが無さ過ぎるのでは?同じ志願者でしょう。私は、無駄な争いを、したくは無いのですがね」
「うるせえ、この糞野郎!」
話し合いで穏便に済ませられれば良かったのでは在るが、そうもいかなかった様だ。
短槍を突き出してきた。然し、挙動が見え透いている。軽く体を捻り、刃先を避けて槍を掴み、捻り上げる。
持ち方が成っていなかった為に、此れだけで槍を奪えた。
「フム、私も槍を使う者だが、流石にこの狭い場所で気楽に使う物では無いし、何より、持ち方も足運びも成っていない様ですね。もう少し、修練をしてからの方が宜しいかと」
奪われた槍の刃を突きつけられた彼は、一歩下がり、少し震えている。
「武器を戦場で奪われる事は間々あります。先ずは其れを念頭に置いて、修練しては如何でしょうか」
「くっくそ!……返せ!」
私から槍を奪い、酒場から出て行く為に大股に階段を上がる男と、それを追いかける男。
彼らは一体、何がしたかったのか。少々理解に苦しむ。
「おお!いいぞ、兄ちゃん!」
何処かから声が掛かったと思えば、酒場が一気に騒がしくなり、喝采が上がる。幾人かは武器から手を放している辺り、いざと成ればあの者達を包囲する心算であったのは確実だ。
一礼で応え、改めて席に座る。
「あの程度で冒険者になれるとお思いでしょうか。ましてヴィンセント様に敵うなど……」
「ヴィンセントさま、カッコよかったよー」
彼女たちは思い思いの言葉を出してはいるが、私としては他の者が気になる。
――各地で数多の活躍をして、名を挙げた『焔の銀狼』。彼は何故に5等級、詰まり未経験者として登録をしようというのか。
少なくとも、あの程度の者と共に勇を成すなどとは、考えてはいまい……彼の者の狙いは、一体何なのであろうか?
精霊のボヤキ
――なんか、めっちゃ凝視してる奴ら、居たね――
え、いつもの事じゃないか。
――あんた、危機感無いの?――
もとよりあるさ、前世から。常は非常、非常は常だよ。
――ああ、うん。異常ね、あんたは――
……なんで?




