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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
旅立ちのマーチ
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2話 酒場で雑談

前回:――街の様子に、白いイス(イヌ)――

「そういえば、エルフさん達だけでこの間来たけど、どうして?いつもの旅行じゃないって言ってたし、なんかすごく嬉しそうな顔?していたけど。何かあったの?」


 ギルドの酒場の、それにしては可愛らしい装飾の椅子に座って、2人に質問してみた。

 ユータは、なんか渋い顔。知らないかな、彼だから。鈍感だし。

 ヴァンは……なんか目が泳いでいる。何か知っているけど、言えないのかな?


「それなんだけどさ、ぼくは何も聞かされてないんだよね。ヴァンは知ってるみたいなんだけど話してくれないし、あの2人は『お楽しみ』とかなんとか言ってさ」

 ……やっぱり。


「ああ、その辺はさ、あの2人の都合で故郷に帰る事になったからなんだよ。いつもの旅じゃないし、1年くらいは帰ってこない予定なんだってさ」

 1年って、長いよね。ギルドの重要な仕事、あの2人がやっていたと思ったけどどうするんだろう。


「それ、ぼく何も聞いてない。何で言ってくれないんだよう……ひどいじゃないかー」

「2人の居ない間の仕事はさ、新しく代行に任命されたダントンと、弟子であった俺がやるって話で、纏まってるんだ。

 引継ぎ業務やら、書類整理やらで忙しかったからね。あまり、時間も取れなかったし」

「ん?ヴァンは代行じゃないでしょ。代行のお仕事やっていいのかな……1等級のお仕事だよね」


 確か、凄く難しい仕事とか書類整理とか、やる事がたくさんあったはずじゃないかな。1等級の資格も、合格できる人って試験受けた人の、10人に1人か2人だって言ってたはず。


「「あー……」」

 2人して変な顔して止まっちゃった。何だろう。


「アリスに言った事無かったっけ。俺、狩人の1等級。狩人は年齢制限が無くてね、子供でも条件満たせば仕事できるし、昇級できるんだよ。

 実質、狩人でも冒険者でも扱い自体は1等級クラスなんだ。

 冒険者でのスタートは5等だけど、資格自体は1等級まで持っている訳だしね。仮免のまま、クラスアップの申請していないんだけど。仮免持ってれば有効期限とかないし」

「ムー……ずっと隠してたの?ズルい」


 ヴァン、そんな凄い試験受かっていたんだ。これはちょっと嫉妬しちゃうな……ワタシだってまだ、漸く仕事できる年になったばかりなのに。同じ年の彼はどんどん先に行っちゃうなんて。


「いや、ごめん。隠していたんじゃなくて、言うの忘れていたというかさ?それにスタートは5等だって言ってるじゃないか。約束を守るのにも、社会的な面倒事にも相手するのには、1等スタートじゃダメだしさ」

 焦ってあたふたしてる。目もどこか、不審。


「どう駄目なの?まるでワタシをダシに使っているみたいじゃない?酷いなー」

 彼がちょっと焦ってるのは、珍しい。もうちょっと意地悪していいかな?


「ダシじゃないでしょ。それに面倒事って言うのも、俺が獣人だからとか、師匠がすごい人で手を回したからだとか、あらぬ疑いを掛けられてもいるからだしさ。

 それらの相手をするのも面倒だし、そもそも5等スタートは、弟子時代の最初の頃に話してあった内容だからね。

 俺としても、狩人の方で1等級になっているんだから、副業のコッチを上げる必要はないと思ってるし」


 慌てながらも少しづつ落ち着きを取り戻してきたヴァン。それでも腰の毛皮を弄ってる。あんまり怒らせると凄く機嫌悪くなるから、あと一言くらいかな?


「でも、ワタシは知らなかったんだよ?なんで教えてくれなかったのかな。友達じゃないの?」

 ちょっとだけ、残念そうな顔をしてみる。これは本音だし、嘘はワタシも言ってない。どうせ嘘を言っても、彼には通じないし。


「え、ええ!ヴァン、ちょっとちゃんと謝らないんとヤバいってほらすぐにさどうにかしないとあのえっとどうなっちゃうんだか」

「ガブリ」

 あ、ユータ余計なこと言ったから噛みつかれてる。


「あああああ!カミツカレタアアァァァァァ!」

 変な声を出して、体をクネクネ動かしてる。その彼の姿に酒場のあちこちで笑いが起きた。これ、よくあるんだ。全然慌ててる人がいない。

 初めて見た人なのかな、放心している人が何人かいる。


 少しの間暴れて、噛みつきから解放されたユータはシナを作って床に崩れた。ちょっとだけ血が流れてるけど、あれ位なら回復魔法はかけなくていいかな……うん、ユータだし。


「とにかく、だ。別に教えたくなかった訳じゃないけどさ、俺はあまり話すことじゃないと思っていたんだ。冒険者としてやっていくのは最初は5等級だって決めていたしさ」

「うーん……うん、解った。一緒にやってくれるつもりだったんでしょ?それならいいよ」


 揶揄うのはこれ位でいいかな。充分面白かったし、彼の気持ちも嬉しいし。それでも、エルフさん達が嬉しそうだったのは、何でだろう?


「でも、ヴァン。あの事は言わなくていいのかよ?史上最年少で史上初の1等級満点合格とかっていうの」

 これも聞いてない……あ、だからエルフさん達嬉しそうだったのかな?


「……えー、そんな凄いことしたの?それだったら話してよ、お祝いしてあげたのに」

 ちょっと悲しいかな。どうして隠しちゃうんだろう。


「お前……それでどうなったか、覚えてないのか。周りが1週間くらい、ずっと大騒ぎだったんだからさ。お祝いはもうその時で、腹一杯なんだよ」

 なんか判らないけど、難しい顔をして机に突っ伏した。どうしてだろう?


「俺がいれば触るわ、叩くわ、撫でるわ、抱きしめてくるわで、スキンシップの多い事多い事。

 何か話せば騒ぎ立てるし胴上げ始まるし、酒に酔ってる奴が酒を飲ませてくるし、シメに何度も演説させられるし。

 そんなん俺に耐えられる訳がないだろ。俺は、1人で静かに過ごしたいのに、1日中、1週間ずっとその状態って」


 ……そんな事になってたんだ。ワタシだったら嬉しいけどな。どうして嫌なんだろう。でも、耳も垂れてるし、シッポも元気ないから、本当に嫌だったんだろうな。


「ヴァンって基本的に独りが好きだよね。狩り行く時も、いつも独りなんでしょ?寂しくないの?」

「アリスさんよ、寂しいという感情を忘れた人は、人といる事が苦しい物なんだよ。慣れればこういう喧噪は平気になるけど、誰かと一緒にいる事が、不安でしょうがない事があるんだ」

 ちょっとここは分からないかな。


「それってワタシもそうなの?」

「いや、慣れたヤツは問題ないんだけどね。どこかのユウタって迷惑な奴とかは負担なんだよ」

「ちょっと、それはどういう意味だよ!ひどくないか?」

「あ、うん。それは良く分かる」

「分かるのかよ!」

 いつものように茶化してきた。それに乗ってみたら、ユータが喚いてまた変な動きをしている。


「そうだ、一応言っておくけど、アリスの部屋を手配しようとしたら満室でさ、他の宿取るよりギルドの方が手っ取り早いって事で、師匠の部屋使ってもらうことになるから。ごめんね」


 今年は希望者が多いのかな。毎年2回ある一括募集で、冒険者志望の人が集まるらしいけど、満室になる状況は殆どないって、エリナさんが言ってたような気がする。


「そうなんだ……いいの?ヴァンの師匠の部屋、他の人が使っても」

 なんか、それはちょっと、申し訳ない気がする。他の人の部屋だし。


「うん、俺は問題ない。師匠も気にはしないだろうしね」

 話していた間に、料理とビールが運ばれてきた。今まで私はお酒なんて飲んだことないんだけど、大丈夫かな。


「ありがと。あ、どれがエール?これ、了解。それじゃ、食べようか」

 運んできた人に何か確認している。何か違いがあるのかな。


「ヴァン、おまえいつの間に注文していたんだよ。全然気づかなかったし、ぼく食べたいのあるんだけど」

 なんかユータ我儘言ってる。どんなものでも、食べられるのって有難いし、ヴァンが選んだものだったら、絶対、おいしいと思うんだけど。

 持ってきた料理は、ヴァンがたまに作ってるパスタみたい。それと、ロースト肉とパンかな。テーブルに並べられる。


「食べたいのは、好きに注文すればいいだろ?これは、俺が先に頼んでいたものだよ。皆で分けられるようにしてある。

 因みに、ボロネーゼのタリアテッレとローストボア。俺の獲った念願のデビルボアだ。パンはヨークシャープディングな」

「え?プリンってどこにあるんだよ!」

「プディングじゃなくて、ヨークシャープディング。パンの一種だ。

 ローストビーフを入れる容器として使われたり、ソーセージを下に入れて焼いたりする器型のパンだ。ピザと同じ、食べられる器だ」


 パンが器って、斬新かもしれない。食べられるスプーンとかあったらいいかも……案外、あるかもしれない。ヴァンがワタシに、ビールを渡してきた。


「それじゃ、アリスはこれな。ヴァイツェン、エールの一種だけど、苦みが少なくて、甘く芳醇だ。初めて飲むならこの方がいいだろ」

 さっき確認してたのは、ワタシが飲むお酒の確認?そんなこと、気にしなくてもいいのに。


「ヴァン、そんなことどうでもいいだろ。ビールなんてどれでも一緒じゃんか。それにさっき、エールって言ってただろ。エールはまずいのが相場だぞ?」

「知ったか乙。エールとラガーの違いを知らぬドアホウが。

 表面発酵のエールがまずくなる理由は、いくつかある。洗練されていなかったこと、冷やされていなかったこと、作る時間も熟成も短かったこと、そして何よりもの要因が、ホップを使わなかったこと。

 ラガーは発酵の時点で冷やされている上に、ホップを使われるようになる頃と同時期に発祥したものだし、冷えているのが当たり前だったんだ。

 どうせなら、お前のピルスナーも温くしてやろうか?それでうまいって言えるなら、許してやるよ」


 この2人の会話は多分、彼らの故郷の話かな。ラガーもエールも、普通魔法で冷やすものだし、どっちもおいしいって、皆言ってるけど。

 エールがまずいって2千年前の出来の悪い頃の事かな?


「エールがまずいなんて言うのは、事実を知らない知ったかぶりなだけさ。地ビールなんかは、多くがエールを取り入れているし、そのどれもが洗練された味わいで濃厚でフルーティなんだから。

 ヴァイツェンもその1つだ。ま、酒を飲んだことのない学生には、分かるわけがないか」

「……どうせ酒飲んだことなかったよ。この世界は15歳からいいって事になってたけどさ。お前はどうなんだよ、シードル飲んでたろ」

「あれはアルコール度数1%未満だ。そうなるように調整した。実際1%未満は、アルコール飲料とされないからね。多少は容認されるものさ。

 下らない話は終わりにして食事を始めようか。


 さあ、乾杯だ。 ――旅立ちに」


 不貞腐れているユータを無視して、ヴァンがタンブラーを揚げた。ワタシも微笑ってタンブラーを取って、揚げる。

 ユータは、

「……分かったようもう、かんぱい」

 不貞腐れたまま、タンブラーを持ち上げた。


「でもさあ、なんでこのコップ、木製なんだよ」

「コップじゃなくてタンブラー。ビールなんかを入れる器だよ。

 木製なのは、ガラスだとコストが掛かるから。酔って暴れる奴も、結構いるからね。実際はクラフトマジックで造れるんだけど、大体は1個作るのに1時間以上かかるからね」


 話ながら彼は、パスタを取り分け始めた。多分、このパスタはヴァンが作ったんじゃないかな。そんな気がする。だって彼は何をやるにも、自分でやろうとするし。


「ヴァンならこれ、どのくらいの時間で、ガラスで造れる?」

 取り分けたパスタの皿を受け取りながら、ワタシはタンブラーを見て聞いてみた。なんか、彼なら簡単に作れそう。20分くらいかな?


「森にいた時でもこれくらいの物なら、15分かな。出来は絶対、悪かっただろうけどね。今なら薄いガラスで綺麗な形にして、5分もかからないよ」

 ……もっと速かった。どれだけ火の魔法が得意だって言っても、そんなに速くできる人って、あまりいないよね。

 この面では彼には勝てない気がする…………このパスタ、すっごくおいしい。


「でも、アリスもおおよそ30分くらいで造れるんじゃないか?」

 ユータの分まで取り分けているヴァンは何となく予想してきたみたい。何でそうだって思ったんだろう。


「いや、ヴァン。それは流石に無いんじゃないか?普通の人が1時間なんだろ?それだったら……」

 パンにロースト肉を入れて、噛みながら話しているユウタ。もうちょっと落ち着いて食べられないかな。クチャクチャ音がして汚い。


「うーん……40分、かな?」

 多分、それくらい。ヴァンやエリナさん程じゃないけど、頑張ったんだから。いろんな魔術を覚えてきたんだし。


「ウソ……だろ…………」

 なんかわからないけど、ユータ白目むいちゃった。でも、前に造った時にそれくらいでできたんだから、しょうがないじゃない?


精霊のボヤキ

 なんだかんだで、ユウタも余り成長は無いな。

――そりゃ、ユーシャだもん。当然でしょ?――

 なんかそれだけ聞くと、勇者はダメ人間に聞こえる。

――そういう意味でしょ?――

 だから……違うってば、精霊さん。

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