25話 決心
前回:――シレっと犯罪者を殺してるよね。まあ、死んで当然な奴だけどさ?――
「フ、フフフフ……とうとうこの時が来た。ドラゴン肉で焼き肉!しかも、カルビたれで!」
なんかよく分からないことを言って興奮しているヴァンは、空間から肉をとりだした……カルビ?
「しかも、キムチ3種盛りも完成したのだ!イイヤッハアアア!」
「はーい、ヴァンくん。落ち着いてお肉焼いてねー」
アンネさんの村まで移動してきて、もうすぐ夕方。
賞金首が潜伏していたって事で、この村に滞在していた冒険者や衛士たちが騒いだ後、何かこいつが支度を始めたと思ったら、焼き肉の準備だったみたいだ。
炭を入れるデカい鉄のハコ型のコンロに、網を乗っけている。ちゃっかり、炭を使っているみたいだ。
しかも、ドラゴン肉って、火竜か?なんかリサさんが一緒にいて、いつも一緒に居て騒がしいエリナさんがいない。
それを気にせずにいるアイツも何なんだろう……まさか、いや、確実に2人とも落としてるんじゃないか?5年も同じ部屋だったんだし。子供に手を出す大人って犯罪だろ?
……話変わって来たし、悲しくなってきた。
「よっしゃあああ!てめえら!食え、食いつくして、食い殺されろ!」
「食い殺されろってなんだよ、犬!」
「オオカミだ、畜生!」
いつの間にか匂いにつられて、子供たちが集まってる。獣人は嫌われてるって話だったと思ったけど、子供は関係ないのか?……餌付けしてるのか。せこいヤツ。
「おまえ、キムチなんてどこで買ってきたんだよ。カルビたれだって、ぼくは見たことないぞ?」
「馬鹿言うな、どっちも俺が作り上げたものだ。キムチは、ちゃんと魚醤やトウガラシみたいな植物を使っているさ。トウガラシじゃなくて、トビカラっていうんだけどね。
ニンニクっぽい木の実もあるし、それらを使って、塩漬けした野菜に、すりおろした果物やハーブと一緒に、トビカラの粉末と魚醤とねぎのような野菜を漬け込んだ。
最初はうまくいかなかったけど、今ではバランスが最高クラスに仕上がっている。
カルビたれにしても、魚醤ベースにハーブとワイン、蜂蜜とクギル油を混ぜて揉みこんである。あ、クギルってのは、ゴマみたいなやつな?
どっちもいろんな人の調理法があるって代物だし、特にキムチはカクテキのような大根だってあればキュウリだって、カキやイカを混ぜたものだってあるんだ。
そして、韓国風にしたのは、火竜の味と大きさを考えた上でのものだよ。分かるかね、君ぃ!」
「わかんない」
「美味いか?」
「美味い!」
「ならよし!」
何がだ。突然指さされた子供は、肉食いながら首ひねってるぞ?
多分、村にいる子供はみんな集まったんじゃないか?村の大人も、滞在中の衛士や冒険者もそわそわしてるけど、何なんだ?
そういえば、焼肉を食べる道具は、箸?にしちゃ、形がおかしい。こいつが子供たちに渡していたみたいだけど……親みたいな人が来て、リサさんを経由して渡された。ちょっと狼狽えてるぞ?
「ヴァン、なんか形のおかしな箸渡してる?これ、何なの?」
「これはハシトングだ。掴みやすい、使いやすい、食べやすい、箸だ。箸は2本に分かれたもので、繋げるなんて邪道なんて考える奴は、すでに老害を起こしたジジイの脳みそだよ。
箸に慣れない外国人の為にも、このようなものを考えるのは、心のある人として必要な思考である!分かるか?しかもこれは普通のトングと違って、少し角度を変えている。箸として普通につかむこともできる仕様だ」
そんなのあるのかよ?聞いたことないぞ。まあ、普通に箸使うよりは挟みやすいだろうけど。あったら便利かもしれないけど。
「なんでそんなの知ってるんだよ?」
普通、日本人なら子供の時に慣れるから、要らないだろ。
「前世の俺の義兄がフランス人でな。家族で唯一俺の味方をした人なんだが、その人が使っていたよ。マイ箸トングとか言ってね」
そういう事か。って言うか、味方いたんだ。日本人じゃなくて、フランス人だけど。
「そういう優しさと理解力を備えた人は、日本人じゃ寧ろ1割くらいだからなあ。ヨーロッパで生活した方が良かったか?」
じゃ、引っ越せよ。
「変わらない気がするし、1割じゃないだろ。絶対もっといるはずだぞ」
「仕方ない、2割に上げてやろう。これ以上は譲らん。何基準かって言えば、俺の発言に対しての反応基準だからな」
何かこいつ基準の理由あったのか。どうでもいいけど。
「それで、お前はどうするんだ?」
「え?」
「ここで暮らしていくのも、悪くなさそうだぞ?」
肉を焼きながらこいつは、ぼくの行く末を気にしていたみたいだ。
確かに、周りを見回す。仕事で冒険者が寄ることもあるし、衛士が常駐している。
村としては少し広く、かなり大きな畑や、ちょっとした農場があるみたいだ。農場って言っても、数匹のヤギや牛がいるくらいで、やっぱり何かの結界とかを使っているみたいだ。
村の中心も結界で守っていて、魔物は簡単には入れないようになっているらしい。
「実際に麦や米なんかは、村人総出で刈り取るのが、どの国の農村でも習わしだし、その時はちょっとした祭りのような忙しさだ。育てても簡単には収穫できないだろうけど、収穫した時の気持ちよさは凄いだろうな」
「だねー」
「忙しーよー」
「たのシーよ?」
こいつの言葉に子供が頷き始めた。それは、確かに大変なのかもしれないけど、それでも僕はやっぱり……
「やっぱり、冒険者をやろうと思う。ダメかな」
「……ふうん。まあ、あれを目にしても引く気がないなら、ダメじゃないかもな」
自分で冒険者らしいって言ってたじゃないか……あの時、よく分からないまま動いていたから、みんなの命が助かればどうにかなるって感じたから、やったことだけど。
「お前は、彼女がどうなるか怖くなって結界を張った。上空まで伸びる簡易結界だ。それが間接的な狼煙の効果を持つ。それがなければ、俺や師匠も気づかなかっただろうけどね」
それは結果的に、こいつに助けられたのも同じじゃないか。でも、やっぱりぼくは逃げようとすれば逃げられたんだ……逃げなかったんじゃなくて、逃げられなかった。
アイツらは最初、前に居たから、後ろに逃げればよかったんだろうけどさ。そうじゃない。怖くて動けなかったのはあるけど、それだけでもない。
あの時逃げたら、あの2人がどうなったのか、それを考えたら怖くなった。
――自分が『最強のヒーローであって欲しいから』目の前の、『ヒーロー気取りの偽善者』を、『悪魔』に仕立て上げたいんだ。自分は『何もしない善人』だから――
――何もできない、ヒーロー君――
不意に、あの時の言葉が頭をよぎった。こいつが悪魔と呼ばれる理由。有名になったり、力を持ったりなんてしたくないこいつが、戦っている理由。それに対して、ぼくが今まで、していた事。
――自分を助けた人を、『悪魔』として扱っていたって事でもあるかもしれない。
嫉妬していたし、邪魔もしたし、物をねだったり、何かを要求してたのに、彼に何もしていないし、言ってなかった。寧ろ、その事でキレて当たっていたじゃないか。バカなガキは、自分じゃないか。そんなぼくが……
「ユータさん、助けて下さって有難うございました。良ければこれ、どうぞ」
アンネさんがまた、ぼくのそばまで来て、何かの布を渡してきた。
「疲労回復効果の刻印をつけたバンダナです。良ければ使ってください。私、出来る事ほとんどないからこれくらいしか渡せるものなんてありませんけど、お礼です」
また、満面の笑みで、ぼくに顔を向けた……ぼくは、何もしない善人じゃない……いや、あいつはここは間違ってる。
……何もしない、出来ないのは普通で、『ヒーロー』は何かをするんだ。
でも、ぼくだって、普通だったぼくにだって、何かをすることができるんだ……できたんだ……きっと、やろうとしたら、力がなくても、ヒーローになれるんだ。誰でも。
「ありがとうございます……ヴァン、助けてくれて、ありがと…………」
ずっと最初から、言わなきゃいけない事だったのに、言ってなかった。じゃない、言えなかった。
怖いし不安だし何すればいいか分からないし言ってしまうと自分が格下に思えてだから見下されているような気がしてそれで言えなくなって……そんな下らない事、考えるのが馬鹿らしくなった。考えてた自分が、馬鹿だった。
子供でもできる常識、出来ない方がおかしい事だった。
「ああ、畜生!仕込みが足りねえ、追加で魔牛食っとけ!出血大サービスだ!……で、なんて?」
肉焼くのに集中していて、空間から肉を追加で出してるこいつには、ぼくの言葉は届かなかったかもしれないけど、きっとわかってくれるよ。
……いつの間にかエリナさん来てるし、服が変わってる。なんか、浴衣みたいな服だ。かんざしっぽいアクセサリーも付いてる。足元がブーツだから違和感あるけど。
「何でもないよ、馬鹿犬!」
だからちょっと嫌味くらい聞け。
「ガブリ」
やっぱり、カミツカレタ!
「あああああ!ちょっと痛い!血、血が出てるから!ごめん、ごめんってばああ!」
やっぱり目の前に咽喉があるし、いつもよりちょっとだけ力強い。興奮してるのか?これが本気だったら喉笛噛み千切れないだろうから、本当はもっと強いんだろうな。
「全く、お前全然食わないままだったから、火竜の肉の仕込みが終わったぞ?魔牛食っとけ」
「いや、ステーキでいいんじゃ?」
「ドラゴンステーキはまずい、これが真理。ハーブすり込ませないと、癖がひどくて食いにくいぞ?」
ウソだろ?そんな違いでうまいかどうかが変わるってなんだよ。
――――――――――――――――――――――――――――
「そう。それじゃ、本気でもう一度、真面目にやるのね。アンタがまた逃げだしたりしても、アタシ達は追いかけもしないし、死んでもなんとも思わないけど、良い?」
村の宿泊所でその晩、改めてエリナさんに話した。ぼくは、やっぱり冒険者になりたい。
今までとは違う。ぼくはあの2人みたいに、不幸になるかもしれない人を見捨てたくない。この人達みたいな力はないけど、この盾を使って守ったあの時のように、誰かを守れれば、怖がる必要はないかもしれない。
あいつが今まで言っていた言葉の意味、なんとなく分かった。
独りじゃないんだ。自分のプライドじゃないんだ。普通で、良いんだ。
チートとか、最初から必要なかったんだから。最強である意味って、ぼくに必要ない。
ぼくには、剣の道がある。心を強く、正しく、誠実に。爺ちゃんがいつも言っていた。背いていた言葉だから、言ってくれていたんだ。
「誰かを守る盾が必要だと思ったから。最強の、盾になりたい。出来るかは分からないけど、絶対にやりたいから……」
涙が流れて、体が震える。でも、気持ちは固まった。もう逃げない。怖いから、立ち向かわないといけないんだ。奪われたくないから、強くならなくちゃ。
「そう、あんた顔つき変わったじゃなぁい。そういう顔してたら、最初っからアタシ達も簡単に受け入れていたんだけどねぇ。
何の変化かは知らないけどさぁ、頑張りなさいよぉ」
語りながら、これまでにないような笑みを見せて、耳のピアスの飾り石が、優しく輝いた。
初めて、エリナさんがぼくに優しい笑顔を向けてくれたような気がする。こんな顔向けられてたら、絶対大体の男は惚れるだろ……あの性格と破壊力デカすぎる魔力なかったらだけど。
あれはちょっと……じゃなくて凄く、怖い。
――――――――――――――――――――――――――――
ああ、この剣ダメだ。修復するより、別物にした方が早い。術式も完全に破壊されてる。
――うっそお……術式破壊って魔力ないアイツが?普通魔力やマナ通さないと無理でしょ。それ以外ならギルドマスターのやる柏手と同じ、ムチャクチャな方法くらいしか思いつかないけど?――
うん、そうだろうね。もしかしたらアイツも、案外チート持ってるのかもよ?魔力ゼロだから、魔法をゼロにするような。俺の刻印の拍車は、破壊されなかったけど。
――転生したり転移しても、大した力持たないでしょ?――
それが、絶対じゃないんだな。地味だけど、気づかないうちに持っていてもおかしくない。
――それってどういう……あ、あの時の?――
そう、一度会った、地球じゃない世界から来た転移者。あいつは、転移して早々、特殊な力を持っていた。
今まで確認してきた能力は、攻撃であったり物を作ったりというものには、効果が全く出ないものしかなかった。
それは確信を持てるけど、自身のスペック、俺の場合は記憶能力だな、それが上昇、或いは変化する可能性がある。
――それは使い様なら、化けるよねぇ。あんたも化け物だし――
最後は無視するして、触れているものを変質させる、とかであったらアイツは……
――嫉妬する?――
いや、そうだったとして……どうやって使うんだ、これ。使い道が分からない。
――研究するしかなさそうねぇ――
「それはともかくとして、もう少ししたら雨季が明ける。って事はケサランパサランの時期だろ。まずいな……」
「ケサランパサランって幸運の何とかってやつか?そんなのあるのかよ?」
エリナさんとの話、終わってたのか。与えられていた部屋に帰ってきた。
「それじゃないんだ。王女の交流の話ちょっとしたろ?あの人が雨期明けにいつもやるパーティでさ、師匠経由で俺も参加すること3回。次で4回目なんだ。
獣人好き貴族が集まって、モフる為の会だよ。ちょうど換毛期の獣人が多いから、そこで毛を梳いて、ヒトによってはそれをクッションにしたり、ぬいぐるみにしたりするくらいだ……人の毛をなんだと思ってるんだ?」
「うわあ……」
何となく想像したらしい。強烈な人になると、情事に至る。それはやりすぎだろうとは思うんだが……まあ、文句は言わんでおこう。それは個人的に、見えないところでやるのだし。
「一応、普通のパーティ形式なんだが、殆どが貴族と、そのお付きの獣人の奴隷で首輪付き。犯罪者じゃない者達だから、安全っちゃ安全なんだがね。
でも意味無く狙われることがある。それで作った護身グッズが、俺の持ってたトンファや、お前に渡した剣や盾なんだよ」
「それで無駄に高価だったのか?そういう事だったのかよ。装飾も派手だし、それなのに実用的な感じだし」
両立しないと見栄も保身も成り立たないからな?実用性のない儀式用の七支刀とかじゃないんだよ。
「まあ、盾はある程度実用性あるとして、この剣はどうするかね……精霊様が鍛冶師レベルで知識あるから日本刀にしてみるか?」
「それ、精霊か?騙されてないよな」
――悪かったねぇ、精霊らしくなくて――
「あちゃあああああ!」
精霊の地雷を踏んで、腕の毛の永久脱毛をしているユウタは無視して、とりあえず剣を溶かして新しい形にしないとな。
刻印をどうするか。柔軟性を上げるのではなく、硬質さを生かすか。日本刀は芯が柔らかいっていうから、芯に別の金属、鋼?或いは青銅か?……いくつか試作してからになるな。ああ、当面魔術の勉強は進みにくくなりそうだ。
――あんた、どんどん狩人から離れてない?――
それが一番の問題だな。鍛冶は狩りとは全く関係ない。
――家事である料理も、狩りと関係無いでしょ?――
「あつつ……なあヴァン、ぼくもそのパーティいけないかな?」
「それは知らん、エリナさんに聞いてみて。多分もう招待状は来てるだろうからさ。
畜生、そのパーティで出す肉と、肉料理も考えなきゃいけないのに。狩り獲って料理する時間考えると、ホント時間ないぞ?」
「そこまでするのかよ、何なんだよお前!狩人は弓使うものだし、料理しないだろ!」
「狩りは罠使ったりするし、焼くのだって料理だろ?口に入れるまでが狩り、それが一族の教え」
「何だよその帰るまでが遠足みたいな言い方意味わからないよしなくていいだろ……」
ギャアスカ言ってるバカは無視して、作る方向に集中しよう。料理も考えないと。ああ、狩人って忙しい。
――なんか違う気がする――
3者3様の言葉を飛ばしながら、夜は更けていく。さっき雨が降り始めた。明日は狩りは休んだ方がいいかな?多分、ひどい雨になるだろうから、追いにくいだろう。
……はあ、狩りがしたい。
精霊のボヤキ
――こいつ噛みつかれるの好きだねぇ――
いや、好きじゃないだろ。だから効果あるんだから。
――でも、狙ってるんじゃない?――
……こいつ、Mだって言いたいのか?




