24話 冒険者
前回:――ユーシャ、もう一度逃亡。どこまで逃げるのかな?――
「そうなんですか、大変だったんですね……」
今まであったことを聞いてくれていた彼女、アンナマリアさんは、昨日からずっと親身になってくれている。
たまたまぼくが道を通っていた時に声をかけて、行く当てがない事を言ったら馬車に乗せてくれた。この近くの村の子で、街に物を売りに行った帰りだって。
馬車の手綱を握っているのは彼女の父親で、家族は2人だけだって言ってた。彼女は優しいし、かなり可愛い……もしかしたら……って、そんな風に考えるのは、おかしいかな?
「でも、ぼくには才能もないし、怖がりだから……結局、何もできないんだよ……」
「そんなことないですよ。きっと頑張ればいいことありますから。元気出してください。
まあ、私の叔父も、冒険者になろうとして早くに命を落としたんですが……」
……やっぱりそうなのか。でも、多分もうぼくは、剣を持たないと思う。持ってる剣だって、折れているし。アイツは、帰ったら直すつもりだったのかな……持ってきちゃったから、無理だよね。
昨日も、勝手に持ってきてしまった武器や盾を見ていて、何と言えば分からない気持ちになっていた。鎧だけは、あの馬車に置いてきたけど。
どうしてこれを持って来てしまったのだろう。持っていても意味なんてないのに。
「やっぱり、ぼくは冒険者に向いてないんだ。助けて欲しいと思っている人がいても、見て見ぬフリしていたんだから。それに……」
「え、ぅあ!」
馬車が突然止まった。確かこの辺りも魔物は出るらしいけど、撃退できる道具があるって言ってた。なんかの薬品で、簡単な魔物は近づけないって言っていたから、ほとんど襲われない様になってるって話なのに……
道の前にずらりと、動物っぽいようなヒト型の魔物、コボルドって感じにしては、毛がはげて無くなってる奴らと、
「悪いなー、魔物除けの護符や薬剤なんて、テイマーには効かないんだよ。お前らの命は頂いてくぞ?
あ、でもそこの娘は、『おいしそう』だから生かしておいてやろうか。親父さんとしてもその方がいいだろ?」
「っ……」
人間?頭の左右から、羊のような角が生えてる。あれ、何だよ?毛むくじゃらって感じじゃないから、獣人とかじゃなさそうだけど。
「お前ら、俺の事分かるよな?何だったら、命くらいは助けてやるけど、その分の金渡せよ……あー、その女は頂くけどな」
なんなんだよそれ。ゲスじゃないかよ。最悪だ……どうすればいいんだよ。わかんない。
「こ、ここここっち来て!オジサン、早く!」
何が何だか分からない……けど、でも。
ぼくにはまだ、戦える武器がある。彼女のそばに移動して、オジサンの手を引いた。
盾に、結界が使える装置が……
今見て、初めて気づいた。
わざわざスイッチの部分に『けっかい』なんて、ひらがなで書いてある。
漢字くらい読めるよ。お前、漢字書けないのか?
……バカじゃないか。
「何やってる?そんな、声も足も振るわせてるビビりが、何かできるとでも思ってるのか?」
なんか言ってる角男を無視して、ぼくは2人を背にして結界を張る。
何とかしのげればいいけど、それでダメなら、なんとか……剣は、折れてる……
……でも、パックルにまだスタン何とかがある!
「うるさい!近づいたら痺れたじゃすまないぞ?!」
コボルド、でいいのか?そんな感じの奴らが馬車を取り囲み始める。指示を出している角男は、縦に割れた瞳孔をこっちに向けて、嗤ってる。
そんなに長く結界も持たないかもしれないけど、悪いけどこの2人が助かるまで持ってくれれば、他の何が奪われてもしょうがない、と思う。
彼女が悲しむのは、ぼくに優しくしてくれる人が不幸になるのは……絶対嫌だ!
――誰か、助けてくれよ!
「WOWOWOOOOOOOoooooooooo!!」
どこかから、遠吠えが聞こえてきた。
どこかに、オオカミの魔物がいるのか?コボルドたちが不安そうにしてる。それに対して、角男はどこ吹く風といった様子だ。
「ほら、お前ら!こんな魔狼の類の声にビビる必要ねぇだろ。さっさとやるぞ。どうせ薄い結界だ……割れ」
へらへら笑っている。それでもその遠吠えは、深く森に響き渡り、消えていった。一体、あれは何だったんだよ……もしかしたら、あいつが?
……そんな僕の考えを肯定するように、あの音が、響き始めた。
鐘の音が、人の集落のない森に響き渡る。歪で、恐ろしく、聞こえるはずのないその音は、その場を恐怖に包み込んだ。
――それは、竜を葬る鐘の音と、言われていたもの。
音が鳴り、その度にコボルドは慌て、角男にも恐怖の色が浮かび始める。徐々に、顔が青くなる。
慌てた魔物は、ぼくたちを包囲するのを忘れて、どこかに逃げようとしているみたいだ。何が、こいつらをこんなに、慌てさせているのかは分からないけど、何かあるのかもしれない。
でも、慌てた結果、どこに逃げるでもなく右往左往しているだけだ。角男が離れようとしている先から指示を出して戻しているから、余計に混乱がひどくなる。
けど、それは突然終わった。――たった一言で。
「――インフェルノォ――!」
空から降って来た彼の一言と同時に、とんでもない爆発が起き、張っていた結界が割れた。
けど、ぼくたちを襲った焔は、優しくて暖かく、やわらかく体を包んだ。
全く熱くないその焔は、錯乱していたコボルドみたいな魔物を焼き焦がし、灰へと変えて、骨すら残すことなく、消し去った。
「ユウタ。ちゃんとやればできるじゃないか。今のお前は、冒険者らしい姿だぞ」
馬車の御者台に落ちてきた彼は、角男に向いた状態で、ぼくに何かを言ったらしいけど、ぼくは何も言えなかった。
突然襲われたと思ったら、襲って来た奴らが突然混乱して、突然消え去ったんだから。しかも、魔物以外、何も燃えていない。なんでこんな……
「てめえ、何なんだよ!何をした……俺の手下は!コボルドはどこに行ったんだ!」
離れていたからか、コボルドみたいなヤツを操っていたらしい角男は騒いでいる。こいつは、殺さなかったのか?
「安心しろ、地獄で先に待ってるよ……賞金首リスト、Bクラス「小鬼使いのオーガ」ジゼル・ベルスタイン。お前の首、頂くよ――Bang――」
そいつは、何かを彼に言い返そうとしたみたいだけど、オオカミの一言で白目をむいて、あおむけに倒れた。
「ヴァン、今の一体何をしたんだ?」
「あん?音響魔法で錯乱と探索をして、ここを襲撃させにくくさせて、急降下爆撃した後、アイツに狩り用の魔法を使っただけだよ。
大精霊と俺のマナを混ぜて、大気中にある活性化した火のマナを集めて全部混ぜて爆発。マナ感知できる奴でも、ほとんど分からないくらいだから、相当魔力高い奴でないと、致命傷になりかねない技だ」
「……ギャグ?」
何か言い返そうと思ったけど、これが限界だった。でも、そうだよな?
「バカか、俺はVAN、さっき使ったのはBang。バングだ。グの発音が小さいってだけの話だ。全然違う。いいか?Vの発音はな……?」
いや、絶対ギャグだろ。
「あと、賞金首って……?」
あいつは、悪人とかなのか?それにこいつは……
「ああ、他の街で暴れていて問題になった後、大陸のあちこちを転々として潜んでいた賞金首の兄弟の1人だ。
3人兄弟だったはずだけど、1人この辺りに潜んでいて、残りの1人はここにいない。どこにいるやら。
師匠達はもう1人の方に……」
「ヴァンくん!ごめん、取り逃がしたぁ!ソッチに1匹行ってるぅ!」
どこからか、拡声器で大きくしたようなエリナさんの声が森に響く。その声の後、森の木が倒されながら、巨大な人が現れた。
肌が緑色で、目玉が1つ。服は、何も着てない?
……このサイクロプス、露出狂かよ?
「モードフロスト!我願い 精霊叶える 顕れる氷 刻まれるうねり 其は岩を穿ち 空を切り裂き 肉を引き裂き 創る我が通り道 精霊術式――螺旋氷槍――いいやはあああああ!」
サイクロプスが現れた瞬間にはもう早口で術式を唱え、あっという間に氷の大きな槍を作り上げた……槍じゃない、ドリルだ。トンネルを掘り上げるために作ったドリルの先端部分みたいな形をしている氷塊を、作ったとたんにこいつ、ドロップキックで蹴り飛ばした。蹴った瞬間、爆発も加わってる。それは物凄い回転をして飛んで行った……どうやって回転してるんだ?
しかもそれかわされて、
「――ICE・Bang――かわされる前提っての気づいてたか?予想済みだよ」
一言と一緒にサイクロプスの足元が凍り付いた。凍った上にとげのようなものまで生えている。それでもそいつは、目をこっちに向けて……なんか光が溜まってきて?
「ああ、うん。ビーム系ね。アイスエッジ――我がマナを基として組み上げ刻み、姿を現せ、それは鏡。ミラージュシールド、アイスシールド――エクステンション、シェル!」
「え、あれ?」
氷の剣が出てきて空中に魔方陣を書き始めて後ぼくたちの周りに氷の盾が出てきて鏡みたいな魔法陣が輝き始めて盾が繋がってぼくたちの周りにシェルターみたいな亀の甲羅みたいな氷ができて分厚く硬くなって一応ぼくも障壁?使ってみて氷の向こうから何か光っぽいのが出たと思ったらなんか光があっちこっちに広がって野太い悲鳴が上がった。
何があったの?
「馬鹿め、お前の目から出る、ただの光を圧縮した攻撃なんざ、反射すれば、お前の目に届けるなんて簡単だろ?
反射するたびに減退はあるけど、そこは最後の鏡の1枚をしっかり鏡面をレンズにすればいいだけの事だしな?」
ああ、反射して目に返したのか?……自爆みたいになったのか。失明確実だな……うわー……
「ナイス、ヴァンくん!サンダーボルト!」
直後、天空からどでかい雷が落ちてきた……目の前で落雷が起きるなんて、始めてだ。雷って、あんな太いのか?ビルくらいあったんじゃないかな。見えたのが上の方だから、広がってそう見えただけとか?
気が付いたら、氷は砕けて、空中に浮いていた鏡のような魔方陣は消えて、目の前に黒く焦げた巨体が転がっていた。
ぼくたちは、放心したまま目の前の光景を眺めていた。
「エリナさん、そっちの奴はどうだった?こっちは例の賞金首だったよ。小鬼使いの末弟」
「あぁ、やっぱりねぇ。こっちは次兄。こいつ死んでる?そしたら金額は8割だねぇ。アタシはきっちり、気絶させたけどさぁ」
「エリナさんほどの混乱や錯乱はかけられないからね。コボルドを混乱させたのが関の山だろうよ?まあ、こいつらが落ちたんなら、あと1人だけだし。被害も減るでしょ」
……やっぱり、殺してたんだ。冒険者って、人を殺すのか?相手は賞金首だから犯罪していたんだろうけど、ゲームみたいに殺人をして、何も思わないのかな……ぼくは、こんなものになろうとしていたのか?
……よく考えたら、ゲームだからって人殺すのが当たり前なのも、ちょっとおかしい気もしてきた。
「あの、ユータさん?」
「え、あ、ななに?」
アンナマリアさん……アンネさんでいいんだっけ。彼女がぼくに声をかけてきた。今目の前の出来事に放心して、ちょっと忘れてたけど、彼女も彼女のお父さんも怪我はなさそうだ。それなら、よか
「助けて下さって有難うございます。ユータさん、勇敢ですね。冒険者を目指すだけはあります!素敵です!」
……ぼくは、何もやってないのに。彼女は満面の笑みで、なんでこんな言葉を言えるんだろう。
だって、助けたのはあいつらなのに。ぼくは……
ぎゃいぎゃい騒いでいる集まった3人を見て、何が違うのかぼくにはわからなかった。
昨日のぼくと、今日のぼくって、何が違ったんだろう。
精霊のボヤキ
――ユーシャが勇敢なんて言われてる!これじゃユーシャじゃなくなっちゃう!――
精霊さん、勇者はダメなヤツって意味じゃないんだよ?
――でも自称ユーシャが勇敢なんて、有り得ないでしょ?――
……何と言えばいいのか。あいつを見ていると何も言えなくなる。




