23話 森の中で
前回:――ユーシャは敵から逃げる者、当然でしょ?――
「試験としては、失敗ねぇ。まぁ、これくらいは新人冒険者によくあることだから、まだ切り捨てられるラインじゃないんだけどさぁ。どぉするのぉ?」
旅の帰り道、借りていた馬車で草原の道を通っている。見晴らしはいいし、王国よりずっと涼しい。この辺りは四季のある地域なのかもしれない。
すがすがしい景色とは裏腹に、気持ちは沈んでいる。理由は、ぼくは結果的に試験に不合格だっていう事だ。
「学校にいたときも目立つような力があったわけじゃないし、人気だったわけでもモテたわけでもなかったし……それでも異世界ならって思ったのに、無理だった。ぼくじゃダメなのかなー?」
「いや、3ヶ月しかたってないのに早くないか?剣道10年はどこ行った。しょぼいなあ」
ここは普通慰めてくれるところだろう?
「でもお前はギルドじゃ人気じゃないか!結構可愛がられてるし、たまに酒場で女の人に囲まれたりしてさあ!」
「つまり、お前と同じ犬扱いなんだよね。本当にやめてくれないかなあ……」
なんで人気でそんなしょげるのかな?ムカつく!うぜええ!
「ヴァンくんが人気なのは、がんばったからでしょぉ。
それに最初は命狙われていたし、ギルドに来た時にケンカ売った上でチカラを示していたんだし。それだって、しつこく狙っている奴が嗾けたようなものだったしねぇ。
子供でも頑張る姿見せてたから、みんな好意持ったわけだしぃ」
「この子、たまに面白いしねー」
そうか?ぼくはそんなふうに思ったことなかったけど。この世界の感性ってどうなってるんだ?
「畜生!リサさんまでそんなこと言って!噛むよ、ガチガチ!」
「いいよー」
なんでだよ!おかしいだろ絶対!
「カプリ」
本当にかみついた……全然痛そうじゃない。血も出てないし、噛み千切ろうとしてない?もしかして……
「やっぱり甘噛みじゃない。ヴァンくん甘いなー」
「畜生!なんでこの世界のヒトは以下略!」
「略すなよ!」
つい、突っ込んじゃった。ぼくってこういう人間だったっけ?
「どっちにしたって、今までのようなチートだとかに頼ろうとするなよ?
前にも言ったけどさ、俺たちは大隊や連隊を投入できないときに出るようなことが多いんだ。
今回の火竜だってそうだけどさ、本来なら衛士が相手をするはずだったんだ。街中じゃ無ければ、安全な策で確実に勝てただろうけどね」
「え、どういう事?だって……」
勝てるなんて思えない。あの人たちは街でお前の戦いを眺めてるだけで……
「お前の見ていた戦いはさ、あのヒト達は何もしていなかったんじゃないんだ。俺の作ったアイスフィールドからはみ出ないよう監視して、出た瞬間に総攻撃するつもりでいたんだよ。
実際、何度か火竜はフィールドから出て攻撃喰らっていたし、俺もフィールドを打ち直していた。アイツの熱が結構強烈だからね。
1人1人はお前と同じ才能がない普通の人。それでも、『悪』と呼べる存在に立ち向かうために手を組んでいるんだ。だから、チームが必要なんだしさ」
そんなところは見ていなかった……いや、ぼくが来た時に魔術の打ち直しをしていた?それじゃ、あの魔術を破壊したり移動していたのか?
「そういう事ぉ。チームでの戦場なんて、アタシ達も多いんだからねぇ。ただ力任せなわけじゃないんだからぁ。
実際、世界最強なんていうロイは2等級で、ダントンは1等級なんだからさぁ。チームを仕切ったり、するべき判断を決めるのには、ただ強いだけじゃ無理なのよ。
アンタみたいに、強くなれば偉くなれるって思っている奴は多いけどねぇ。喋らないロイにリーダーとか絶対無理でしょぉ」
そんなことあるのか?あるわけないだろ……ない、よね。
「最高の技術者は案外口下手とかだし、人徳があるわけじゃないことも多い。カリスマっていうのは、そういう人にはないんだよ。
剣士も、ある意味技術者でしかないんだ。逆に、魔術も剣もダメなのに、策略だけでトップ陣に上った人もいる。
ケンジの親なんかは不正で首になったけど、実際そうなるまでは、戦力はダメでも作戦だけで戦場を自由にした、戦場のマエストロなんて詠われる人だったらしい」
それって、頭脳だけでドラゴン倒したっていう事なのか?……戦ってたとしたらだけど。
でも、ぼくは頭もいい訳じゃ無いからそういう事ができそうにないし、やっぱり勝てない。真似できそうにない。
「なんか、自身無くなって来たよ。あんな火竜に挑む姿見て、真似できそうにないって思ったし、ドラゴンどころかゴブリン相手だって、ぼくは逃げちゃったんだ…………やっぱり、何をしても無理なんだよ……」
ずっと、チートとか最強とか考えていたけど、実際に目にしたあんな化け物を相手に、震える事しかできなかった。ぼくは、誰にも嫌われたくないし、好かれたい。自分が好きなだけの、普通の子供なんだ。
大人になった気がしていたけど、この3人にしたらずっと小さいんだ。
――日本でもこっちでも、何も変わってない。『ぼく』自身だ。
人の目を気にして、人に溶け込むことを意識して、うまくできなくて悩んで、みんなに合わせるように動いて……人に溶け込むために、誰かを犠牲にしたりして。
それなのに、違う世界に来れば何かが変わるなんて、転校してもやること変わらなかったのに、知っていたはずなのに、凄い存在になれるなんて考えていて。
「ユータくんは良くも悪くもフツーなんだよ。2人も攻めるつもりで言ってるんじゃないよー」
そうだよ。普通なんだ。ぼくは、普通でしかないから、特別になれない。ヒーローになんてなれないんだ。
「普通でもいいんじゃないかなあ。俺は普通で生きていきたいのに、無駄に目立って狙われて目の敵にされて、それ払って何とかやってきたら気が付けば『焔の銀狼』、鐘が鳴る、化け物の仲間入りだ」
なんか極端だな、その生活。悪役がいつの間にか、ヒーローみたいな。魔王だったのに、気が付いたら勇者みたいな?なんかそんな話ちらほらあったような気がする。
「ユータが持ってた武器だって、王女に献上する予定のモノの試作品でしょぉ?せっかくの作品なのにさぁ」
「献上ってなんなんだよ、プレゼントか?!そんな近い存在になってるのかよ、どんだけ成り上がってるんだよお前!」
もう成り上がり以外に何があるんだ?普通なんて馬鹿げてるじゃないか!ヒーローで、王族と関わりまであって、ハーレム持っていて!
「成り上がりとか誰得?俺は普通がいいよ。のんびり暮らしたかった。狼じゃ無くて並人だったら、芋ほりでもしてたかもね。練り芋結構うまいし。あれで作ったニョッキ、餅だし。似てるじゃなくて、完全に餅な」
餅はどうでもいい。なんでそこまで力あるのに、普通がいいんだよ!
「ぼくは全然力なくて普通なのに、なんでそんな普通がいいんだよ!おかしいだろ、普通ならもっと偉くなりたいとか金稼ぎたいとか有名になりたいとか!普通じゃダメなんだよ!普通わかるだろ!」
僕の言葉に、3人ともそろえてため息をついた。どうして、普通がいいんだよ。なんで納得できないんだ?
「じゃあ、お前の普通はどういうものなんだ?さっきの言葉でも、普通が連呼されてたけど、その普通の意味が分からないんだよ。
向上心と言えるものではあるけど、どこから普通で、どこまでが普通じゃないんだ?」
「いやわかるだろ普通は普通だよ!ボクみたいな普通の奴じゃお前みたいなやつにはなれないから普通じゃないチカラとか欲しいって思うんだろ?意味がわかってないのお前じゃないか!」
そうだよね。それが普通だから……
「お前はそんなに、悪魔や核爆弾になりたいのか?」
「……!?」
「言ったろ、俺は前世で悪魔と呼ばれた。俺はむしろ、それを喜んで受けるよ。
人を救って悪魔と呼ばれるなら、他人を切り捨てて『聖人気取り』な奴の仲間入りなんて、したくないさ。お前のような奴らなんて、前世でうんざりするほど相手してきたからね。
普通じゃない奴なら、そう呼ばれるのも当たり前で、力を持てば敵ができるのが当たり前なんだ。もっとわかりやすく言おうか?
――過ぎたチカラなんて、面倒くさいだけの邪魔ものなんだよ」
悪魔と呼ばれたくはない。なのに、なんでこいつはそれでいいんだよ。ぼくは、ただ、ヒーローになりたいだけなのに。カッコよくなりたいだけなのに!目立ちたいだけなのに!
「わからないよ。どうしてそんな自分が悪者みたいに言えるんだよ……お前は、街を救ったんだろ?それなら……」
「ヒーロー、か?それに嫉妬してケンカを売ってくる奴もざらにいるぞ?見方を変えれば、悪魔だ。白は見方を変えれば黒だよ。人間はご都合主義だしな。
強さを欲していない者っていうのは、強くも弱くもないからこそ、普通が羨ましいんだ。俺は、平穏が欲しいんだよ」
今、よく分かった。こいつらはぼくとは世界が違うんだ。だから一緒にいても、何も分からないんだ。
「もういい、分かったよ……ぼくはここで降りる」
「ユータ?アンタ……」
何か話しかけてるけど、もう関係ないよ。ぼくは普通なんだ。こんなところにいちゃ、いけないんだ。
いつの間にか馬車は森の中に差し掛かっていた。
馬車から飛び降りて、森の中を走りだした。やぶとかは多くないからここは走りやすい。そういえば、最初の森はやぶとかすごく多くて、歩きづらかったな。
あいつらは、追いかけてきてくれない……ちょっと期待していたかもしれない。
でも、やっぱり無理なのかもしれない。ぼくはずっと甘えていたんだから。
今度こそ、自分の力で強くなっていくんだ……強くならなくてもいいか。普通がいいなんて、あいつは言っていたんだから。
それに、もしかしたら強さと違う所にチートがあるのかもしれないじゃないか。この世界でできないエリクサーとか?いろいろ試してみても、いいだろ。
――僕は言い訳しながら、森を走って、通っていた道とは違う街道にたどり着いた。
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「あぁ、どうする?この辺コボルドの住処だよぉ?まぁ、あいつ変に運がいいから出会わないかもしれないけどさぁ」
師匠からしてもアイツは無駄に運がいいように見えるんだな。あいつが彷徨っていたあの森で、川なんていくらでもあるし、その川の水を引いて浄化した水が西の都に流れているっていうのに、辿り着けないあたりが不思議だったんだけどね。
――それはあいつが馬鹿なんじゃない?川のある場所の特徴なんて知ってていいでしょ――
それは日本人だったら絶対知識に残さない事だからね。知らなくて当然なんだよ。
安全ときれいな水は好きなだけ手に入る国だったんだから。安全にかまけて、意味無い危険を欲しがる国民でもあるんだけどね。
――ふーん。でもこの辺は水汚いよ?――
あの森の水はどこも綺麗だったけど、汚い水だとちょっと厳しいかな。濾過技術も道具がなければ、無理があるだろうしね。
「あいつならそのうち誰かに拾われるかもね。もう言葉喋れるんだし、助ける必要は無いでしょ。自分で道を決めるべきだよ」
「ヴァンくんこういう時は非情だよねー。まー、言う事わかるけどね」
あくまでも、助ける義理はもうない。誰かを助けるにしても、手を出しすぎては、そいつの為にならないのだから。
それに、彼が欲しがっていたのは『栄誉』。それは誰だって欲して、そして手に入れられず、挫折を何度も受けるものだから。
剣でも心でも、何回折ってもいいけど、諦めないなら道はまだ続くはず。
自らその道を断とうというなら、新しい道を探すだけのことだろ。
「案外、あいつは芋ほりのチートでも、あるかもしれないよ?それなら、あいつの願いは叶うと言えば、叶うよ」
「それはどうなのー?あんまり欲しいと思えないかなー」
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街道を予定通り走り、森の中で野宿をした。そして翌朝、朝食を取り終わってから、再度出発をしてすぐの頃合いだ。
「お?なんか見える」
「あぁ、ホント。あれ……結界かなぁ?この感じって……」
日が昇り始めた空に、青白い光の円柱が立ち上っている。今、俺達がいる森の位置から見下ろした、盆地のような場所。あのあたりに街道があったとは思うけど、誰かが……
「しょうがないねー。ヴァンくん、いける?後追いかけていくから」
「Yes、Mam、いっちょ行ってきますよ。一応、あの魔法やってから行きますか」
「あの魔法って何ー?」
魔力を感じないにも関わらず、リサさんはエリナさんの反応でやることが分かっている。
なんでこんな通りすがりで人を助けるか、なんて簡単だ。
それをギルドに報告すれば、ある程度報酬を貰える。冒険をしながら人を助け、それを生計にするから『冒険者』なんだし。ヒトを助けるのは、この仕事じゃ当たり前なんだ。
とにかく、実演で示す。言葉だけじゃ、足りないからね。
「この為の、歌の練習だったんでしょ?
――WOWOWOOOOOOOoooooooooow!!」
マナと魔術を込めて、遠吠えを響かせる。
ここ最近ずっとやっていた芸術の勉強は全て、魔術だ。それは旅の途中でも学んでいた歌でも同じ。音響魔術を、俺は初めて実践してみた。
「馬車にヒト3、結界に籠っている。
敵数46、大きさと形からコボルドと推定。内一体、ヒトらしきものもいる。
他に潜伏している部隊アリ、数は38、そっちにも人がいる。それにおかしな巨体もいるね」
潜伏先を指し示しながら、師匠に報告。厭らしい笑みを見せる師匠、タノモシイネ。やり過ぎないでね?
「ありがとぉ、それならあいつらかもしれないねぇ。ヴァンくん、結界の所まで行って。アタシ達は潜伏してる方に行くからさぁ」
「了解、――点火――」
師匠に任せれば、おかしな巨体の奴も瞬殺だろう。ニヤリと笑って、俺は鐘の音を鳴り響かせた。
――あの結界、盾に使った魔術だねぇ――
もしかしたら、って思っていたんだ。アイツは全く、どこまでも面倒かけてくれる。
俺の溜め息は、自分が鳴らす鐘の音によってかき消されて、鐘の音は森に深く響いた。
相手も、遠吠えで存在に気付いているかもしれないし、さっさと片付けよう。
精霊のボヤキ
――音響魔術、歌でやるものじゃなかったっけ?なんで遠吠えなのぉ――
いや、これが楽だから。オオカミですし。
――ちょっと意味わからないかなぁ――
音が響くから、結果変わらないですし。……俺音痴だし?
――それが本音でしょ――




